第43話 サクラとサトル


 王城の正門横の地面に書かれた、自分が通っていた大学の校章。


 サトルにとっては何気ない落書きであったが、サクラにとっては人生最大の衝撃といっても過言ではなかった。


 他に同じ大学の生徒でソーマジック・サーガのトッププレイヤーは聞いたこともない。


 つまり、ここに書かれた校章は2人しか知らないであろうメッセージ。


そしてサクラは大学のスローガンを思い出す。



~未来を拓き、頂点を目指す~



(そうか、これはサトルさんから私へ秘密のメッセージだ。大学の校章、つまりお互いにトップを取ってから再会しようということね。わかったわ)



「なんかやる気が出てきた」



 サクラの呟きにメンバーが反応する。


「どうしたの、サクラ」



「この星に来てモヤモヤしていたものが晴れたのよ。もうここには用はないわ。次のダンジョンを目指しましょう!」



 先ほどまでチームの解散を示唆していたサクラが、手の平を返したかのように3人へ向けて話しかける。


 誰もがその心変わりに疑問を感じたが、永遠に答えを知る機会はないだろう。









 今から3年前。


 岩手で暮らしていたクガサクラ(サクラ)は、18歳の4月に東京の美術系大学に進学するのに合わせて上京。千葉の世界的テーマパークに来たことはあっても、本格的に東京に滞在するのは初めて。当然のことながら、右も左も分からない状態であった。



 大学に通い始めるも、学費を稼ぐためにアルバイトを始めたこともあり、サークルには入らなかった。そのため親友と呼べるような友人もなかなか作れず、不満はないものの、悶々とした日々を過ごしていたのである。



 そんなある日、偶然新宿の画材屋で同じクラスのナカジマツヨシ(サトル)と出会う。


 お互いに課題作りのための画材を探していたのだが、その後、作品の相談をしながら親密になり、何度か一緒に買い物にいく仲になる。



「岩手から来たのか。俺のじいちゃんは岩手の競馬で調教師をやっていたんだよね。何度か行ったことがあるよ。あそこは食べ物もうまいし、人がいいよね」


 そんな何気ない言葉もあり、そこから一気に二人の距離が縮まる。



 友人以上恋人未満、2人を表現するならそんな関係だろうか。


 いずれにせよ、2人はお互いを特別な存在と認めており、いつかは一歩進んだ関係になるとどこかで感じていたかもしれない。



 ある日、サクラから夜に電話してもいいかと聞かれたサトルは


「う~ん。夜9時以降はネットのゲームに嵌まっていて、3時間はゲーム以外はしないんだよね。もしサクラも同じゲームをやれば、ネットの中で会えるのにな」


 と言われ、サクラはサトルが嵌まっていたソーマジック・サーガを始める。


 そして瞬く間にレベルを上げトップクラスの魔法使いとして知られるようになる。



 そして2人はゲーム内で再会し、一緒にイベントをクリアするなどともに時間を過ごした。


 それはサクラにとっても平凡な日々に刺激を与えるには十分。いつしか本気でゲームをやりこむようになったのである。




 そしてソーマジック・サーガの伝説の宝玉イベントは同じパーティーにならなかったが(マサノリたちにチームメンバーを操作されたため)、無事にイベントをクリアしてエヌに来ることになる。



 エヌに来て、ゲーム内ではなく現実世界にサクラは動揺したが、イベントの内容からもサトルがこの星に来ていないはずがないと断定。


 そしてリアルにこの世界で2人で過ごすことができれば、それは素晴らしいことだと考えていた。


 そこからサクラのサトルを探す旅が始まり、一つの節目となったのである。




 一方サトルにとってもサクラは特別な存在であった。


 初めて自分と同じ目線で話ができる異性、ゲーム好きの自分を理解してくれるし、おそらく自分に好意を持っている。


 ただ、そこから一歩踏み出せないのは、経験のなさか、それともただの臆病か。


 ビースさんからの話で、サクラがエヌに来ていること、そして自分を探していることは知っている。


 しかし焦って会うことはないと考えている。王女を含めた誰かが、そういった機会を遠ざけていることも薄々感じているし、この状況で無理することはないと。


 そしてこれが運命なら、2人はどこかで再会するはずだと。







 サクラたちが王城からダンジョンへ向かったことを確認したスカーレット王女は、サトルたちと共に王城へ戻ってきた。


 そしてサトルたちもまた、次のダンジョンを目指して旅に出る。



 サトルたちが王城を出たとき、サトルが地面に書いた校章はすでに消されていた。その場所には、サクラが別の何かを書き残したが、サトルはそれに気付かず素通りしていく…


 その何かは、やがて風や雨によって自然に消えていった。






 なおエヌに辿り着いた後、2人の家族や学校には国から連絡があり、2人は国から選ばれた留学生という形で長期休学扱いになっている。



「狭まる包囲網」へつづく

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