第33話 20階層のクリアと微妙な空気


「サクラを知っているのか? というか、あいつもこっちに来たのか。それは驚いたな」


 サトルは驚きを隠せないものの、どこか嬉しさがこみあげてきたようで、自然と笑みがこぼれる。


 その様子を見て複雑なのはエリとワカナだが、事の成り行きを黙って見ているしかない。


「それで、サクラはどこにいるんだ。ビースさんは知っているのか?」


『今どこにいるかは、わしにもわからん。ただ会ったのは7日ほど前じゃったかの。もう先に進んでいるんじゃないかな』


「先っていうと、次のダンジョンか?


ボン、次のダンジョンはどんなところか?」


 サトルの呼びかけにボンが現れた。一瞬ビースに顔を向けたが、表情を変えずそのままサトルに向けて話しかける。


“次のダンジョンは狼の谷と呼ばれる場所ですラ。レベルは21から30あたりで、とにかく大量の狼がいる場所のようですラ。場所はこの町から2日行った隣の町から2日ほどですラ”


「そうか…」


(このまま進めば、そのうち出会えるだろう。それにしても俺たちより先に進んでいるということは、それなりのレベルにあるんだな。意外だけど)



サトルはそれ以上サクラについての話を続けず、あらためてビースにスキルについて問い直した。



「サクラのことは、また後で聞かせてください。それで、さっきのスキルの件だけど、この星で使えるスキルって何なんだ?魔法とは違うのか?」


『この星エヌに伝わるエヌのスキルとは、もともと王族の血脈によって代々受け継がれてきたものじゃ。多くの国民はこのスキルを使うことはできないが、一部適性のある者や努力によって使えるようになった者がおる。ホッホ、何を隠そう儂もその一人じゃ。


お主らはニホンジンじゃから、この星で受け継がれてきたスキルを使えるようにはならない。ただし、スキルを付与できる高位の術者であれば可能じゃろう。


お主らはスキルを身に付けたいのか?』


「いや、実はある遺跡の中でスキルを付与されたんだ。だがまだ一度も使っていない。スキルの使い方やリスクを知りたいと思っている。もし可能であれば、その指導をお願いしたい」


 サトルはあの遺跡でシーナによって付与されたスキル「レイエン」をまだ一度も発動させていない。そもそも、あの出来事自体が出来過ぎた感もあり、罠ではないかと疑っている節がある。


 それだけに万全を期して、スキルを理解し、使うことができ、信用できる人間に指導を依頼する予定だった。


 そして偶然出会った謎の爺さん。


 明らかに何かを隠しているが、周囲からの反応を見れば信用に足る人間だということは分かっている。それにサクラのことを教えてくれたことも、疑念を払拭させる要因の一つであった。


『ほう、スキルを付与されたのか。なるほど、なるほど。


まぁよかろう。儂がお主らにスキルの使い方を教えてやるわい』


「ありがとう。これで助かったよ」


 サトルは20階層に挑戦する前にスキルの件を片付けておきたかったので、ビースの協力を得られてホッとした。








 そして3日後、ビースの指導で「エヌのスキル」を使いこなせるようになった4人は、あっという間に20階層をクリア。


 最下層のボスであった不死鳥のような巨大な魔物は、



サトルが付与された対象の速度を低下させるスキル「レイエン」


エリが付与された強力な炎のスキル「ルヴィオ」


マッキーが付与された相手の死角に飛び込む移動スキル「ターロン」


ワカナが付与された仲間のステータスを瞬間的に向上させるスキル「ロリット」



 によって飛躍的に強化された4人が一瞬にして消滅させた。


 20階層の踏破で4人のレベルは20に達したが、彼らだけが手にしたスキルの効果もあり、その強さはレベル30に匹敵するものであった。




 特にサクラの名前を聞いてからのサトルの動きは目を見張るものがあり、ますますキレと判断力が上向いたと誰もが感じている。


 そしてエリとワカナは、その理由がサクラという女性にあることも感づいている。


 サトルを取り巻く3人の女性がどのような関係を築いていくのか、現時点では誰もわからない。







~~~




「室長が戻りました」


「みんなご苦労さん!」


「「「「「「「「お疲れ様です」」」」」」」」


「堅っ苦しいのはいいから。みんな立たんでいいから、気を使わず適当にやってくれ」


 マサノリはスタッフを前に毎度おなじみとなった挨拶を返す。そして重要なことを思い出して、みんなに伝えた。



「それよりも大事なことがある。定例会議の前に調べてほしいことがあるんだ。内容は第4チームのサクラと第5チームのサトルの関係だ。些細なことでもいいので、まとめてくれ」


「了解しました!」


 いかにも優秀そうな女性が右手で眼鏡を上げて答えた。彼女は8名存在するマサノリのチームスタッフの一人だが、情報収集と情報管理のスペシャリストでもある。




「まとめました。ご確認ください」


 女性からレポートを手にしたマサノリは思わず眉間にしわを寄せた。



「これは見落としていたな。ちょっとまずいか…。下手すりゃチームが崩壊するぞ」




「お守り」へつづく

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