第34話 お守り


「それでは今月の第32回定例会議を始めます。今回の議題は、まず各チームの進捗状況、転移スポットの設置状況、7名の皆様の活動状況、各国の状況となっております。マサノリ様、よろしいでしょうか?」


 マサノリのチームスタッフで会議の進行役である藤田という女性が確認する。


「オッケーだ。さっそく始めよう」


「現状、第一チームのレンジャーチームは、全員がレベル110を超えました。現在は黒の島でレベルアップを行っており、他チームとの接触は見られません。


続いて九州沖縄メンバーの第二チームは猿の島77階層にいます。レベルは全員が76で、このダンジョンの想定攻略日数は12日です。


続いて関西四国メンバーの第三チームは虫の沼42階層です。レベルは全員が41で、このダンジョンの想定攻略日数は22日です。


続いて北海道東北メンバーの第四チームは熊の山32階層です、レベルは全員が31で、このダンジョンの想定攻略日数は18日です。


最後に関東メンバーの第五チームは、鳥の森をクリアしたところです。レベルは全員が20で、次の狼の谷ダンジョンの想定攻略日数は7日です」


「たった7日?他のチームでも最短で14日くらいよ。その狼の谷を7日でクリアするの?」


 藤田の説明に他のスタッフから驚きの声が上がった。



 実際にこれまで自衛隊のレンジャーチームを含め、4チームは狼の谷ダンジョンをクリアするのに平均15日ほどかかっている。それを7日で突破するというのだから、サトルのチームは異常なのだ。


「これでも少し余裕を持たせています。試算では最短5日というパターンもあり、柔軟な対応が必要かと具申いたします」


 スタッフの報告をある程度予想していたマサノリだが、それにしてもあのチーム、特にサトルというプレイヤーの素質は桁違いだ。


(あの時あいつが選ばれていればな…)

(考えてもしょうがないことだが…)


「わかった。この件に関しては1日くれ。自分の方でも検討してみる」


「マサノリ様は実際に会われたそうですが、印象はいかがでしたか?」


「そうだな。あいつほどあの世界を楽しんで、実際にモノにしているやつはいなかった。伸びしろは相当なものだと思う。20名の中で素質は断然上だな。倍ぐらいのレベル差なら跳ね返るくらいのセンスがある」


「それはかなりの評価ですね」


「でもマサノリ様とは格が違うでしょ?」


「まぁレベルの桁が違うしな」


「わかりました。5チーム中4チームは特に対応の必要なしで、第5チームのみ特別な対応を取るということでよろしいでしょうか。それでは次の転移スポットの設置状況の確認です。報告では…」





「これに関しては私からご説明いたします」


 スタッフが集まった作戦室に緊張が走った。


 賢者であり空間術師であり付与術師であり弓術師であり、地球とエヌを結ぶゲートを管理維持しているシーナが現れたからだ。


「シーナ、珍しいな、何か異変でもあったか?」


「はい。その報告も兼ねて来ました」


 マサノリの発した異変という言葉に先ほどよりも強い緊張が走る。ここにいる8名のスタッフは、現状のすべてを把握しているが、そこにない何かが起きたということだ。



「まず転移スポットは、現状地球上の20万か所に設置が完了しております。主要都市、人口の多い場所、そしてアタックポイントに相手が目標としそうな場所。当初予定の10万か所に10万か所をプラスしました。これらのスポットはあの7名であればいつでも使えます」


「ご苦労。大変だっただろう」


「いえ、マサノリ様にも一部お手伝いいただきましたので」


「では、異変について聞かせてもらおう」


「はい。転移スポットの設置の最中に、明らかに例の痕跡と思われる跡が見られました。私が見つけただけでも4か所。日本にも一か所ありました。時間は最近ではありませんでしたが、今後は注意を払うべきかと思います」


 シーナの説明はマサノリにとって想定内ではあったが、8名のスタッフの中には震えだすものもいた。その様子を見てマサノリは声をかける。


「大丈夫だ。安心しろ。何も問題はない。うまくやれるさ」


 そう言葉をかけながら、スタッフには気付かれないように精神を落ち着かせる魔法をかける。


 その結果、震えていたスタッフもどうやら落ち着いたようだ。


「わかった。相手の行動を把握できるような探索装置か罠か何かを考えよう。シーナ、一緒に考えてくれ」


「仰せの通りに」


 そう頭を下げるとシーナは後ろに下がった。その状況を見てスタッフが次の議題を告げる。



「それでは次に、7名の皆様の活動状況についてまとめます。


マサノリ様とナツ様はここにおられます。ハル様はエヌの王城に。花村ご夫妻はいつも通りにお店へ出ていらっしゃいます。


大木様は内閣の特命調査員とともにエヌの西ウエス大陸を調査中で、東イスタン大陸に関するレポートは先日届きました。内容に関してはマサノリ様のみ確認できる状況です。


そして残念ながら菅井様の所在は確認できません。


6名の皆様はいつでも連絡が取りあえる状態であり、大きな問題はありません。以上です」


「了解。レポートは受け取っているので、あとでじっくり読んでおく。官邸への報告は自分の方でやるので、総理から催促があったら俺に言えと伝えておいてくれ。


菅井はしょうがない。今後も調査を続けてくれ」


「わかりました。それでは最後に各国の状況です。表立って大きな軍事的な動きは見られません。日本政府への干渉もないようです。


 ただあの20名の一部に関して何らかの情報が漏れた可能性があり、数か国から執拗な動きが見受けられます。


 最近では第五チームの藤原理恵さんの娘さんに関して、アジア圏の国からと思われる監視が見受けられ、何らかの保護や対策が必要かと思います」



 その報告にマサノリが反応する。


「ミナに外国の監視?」


(俺の動きから探り当てたか…)


「わかった。これは俺の方で対処しておく」


「わかりました。それであれば問題ないでしょう」


「オッケー。他に何かあるか?」


「よし。なら今日の会議はこれで終了だな。みんなご苦労さん」





 マサノリの合図で会議は終了となったが、やることは多い。


 まず重要なのは例の痕跡を探すこと、そして探索装置の考案、各国の監視、官邸と連携。そしてマサノリはミナに会いに行く前に、何かを作り始めた。


 その姿を見てシーナはうっとりしている。


「召喚獣を封印したのですね」


「あぁ、何かあってもこいつらなら大丈夫だろう」


「そうですね。国の一つや二つぐらい、なくなりそうな気配を感じますが…」


 シーナは少々引きつった顔でマサノリが作ったミサンガに見入る。


「よし、これでOKだな。さっそく渡してくるか」


 そう呟いた瞬間、マサノリの姿は消えた。






 マサノリが作戦室からミナの住むマンションに転移すると、中庭でミナを見つけた。


 どうやら先ほどまで公園で友達と遊び、家に帰るところだったようだ。



「あっ、おじさんだ!」


 マサノリを見つけると、ミナは喜んで駆け寄ってきた。


「ミナちゃん。元気?」


「元気だよ~。おじさんはどうしたの?」


「お仕事で忙しいミナちゃんのママから、ビデオメッセージを届けに来たんだよ。それからアクセサリーを作ったから、身に付けてもらおうと思って」


「え!ママから!本当!早く見たい!」



 ミナにせかされたマサノリは、先日ビースの姿で4人に会った際に、エリに使った夢の鏡で録画した動画を見せた。


(夢の鏡って言っても、地球のタブレットを認識阻害で変えただけだからな。まさか録画しているとは思わないだろう)




 ミナは10回ほどエリからのメッセージを繰り返して見続けた。


「ありがとう、おじさん。ミナも頑張るってママに伝えてほしいな」


「もちろんだよ。ちゃんと伝えておくよ。


そうそう、さっきも言ったけど、これミナちゃんにお土産」


 マサノリはさきほど作ったミサンガをミナに渡した。


「これは何?」


「これはミサンガっていって、ミナちゃんを守るお守りなんだ。


何か危ないと思ったら、このお守りを掴んでおじさんと叫んでね。前に何度か遊んだ友達が出てくるから」


「うん。ありがとう。綺麗だね」


「これは7本の糸で結んでいるんだけど、それぞれに命がこもっているから。何かあったらミナちゃんを守ってくれるよ」



 このお守りには7種類の召喚獣が封印されていて、状況に応じてその召喚獣が出てくる。なおどの召喚獣も一度ミナと面識があり、犬や猫や竜は遊んだことがある。


 その召喚獣は以下の7種類。


犬(B級。エヌのレベル換算で100)

猫(B級。エヌのレベル換算で100)

アリ(B級。エヌのレベル換算で50)

スズメ(B級。エヌのレベル換算で80)

トンボ(A級。音速で無限に飛べ、オリハルコンの弾丸に化け、同時に100体に分身が可能、エヌのレベル換算で200)

竜(A級。人化も可能、エヌのレベル換算で500)

人造人間(S級。エヌのレベル換算で800)


 危険を察知すると相手を威圧して動けなくする能力、防御魔法で弾丸をはじく能力、麻痺や睡眠など状態異常を察知して防ぐ能力、ミナを乗せながら安全に地球を1時間で1周できる能力など多数。


 そしてエヌのレベル換算で100ということは、地球で対抗できるものはいないことを示している。


 特にA-S級の3体は一国の軍隊を相手にできるだけの力を持っている。




「試しに犬を出してみようか。ミナちゃん、ミサンガを触りながら犬よ出てこいと言ってみて」


「わかった。犬さん、出てきて!」


 ミナが呟くと白い光の渦が発生し、そこに芝犬のような子犬が出てきた。


「かわい~、このワンちゃん飼ってもいいのかな」


「大丈夫だよ。まずは名前を付けようか」


「う~ん、どうしよっかな~。あ、あれにしよう。リアちゃんで」


「おっ、いい名前だね。この子も気に入ったみたいだよ」


 リアと名付けられた子犬は尻尾を振ってご機嫌の様子。嬉しそうにミナに体を摺り寄せている。


「これで安心だな。じゃぁミナちゃん、また今度ね!」


「うん。おじさんありがとう!」




 マサノリは去り際に離れた場所でミナを見守るスタッフに目配せをした。


 そのスタッフは軽くお辞儀をしマサノリの意図を掴んだようで、その様子を確認したマサノリはその場から立ち去った。


 彼はこれからあの犬らしき生き物を飼う手配をし、他の住民への根回しもしなければならない。




 なおあのミサンガに封印されている残り6種は、ミナの意思に関わらず何かを察知して行動する。


 すでに10体のトンボは自らに隠蔽魔法をかけて周囲を探索している。


 そしてターゲットを見つけると、一瞬にしてその者を捕獲し、その者にも隠蔽をかけて飛び去って行く。



 一週間後、ミナを監視する者はいなくなった。



「九州沖縄チーム」へつづく

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