第26話 先行者
「ソーマジック・サーガ」で開催された「伝説の宝玉イベント」をクリアし、限定アイテムのリアル・ソーマジック・ギアを使用して日本から惑星エヌへ渡ったのは、サトルたちを含め16名。
他にマサノリが国の支援条件の一つとして連れてきた自衛隊レンジャーの4名を加え、現在合計5チームの20名が惑星エヌに滞在している。
この5チームはお互いに接することなく、存在を知ることもなく、行動も場所も絶妙に管理されており、一切の接点がない。
なおマサノリという人物が何者か、何を目的としているのか、その詳細を知るものはごくわずか。この20名の中でもそれを知るのは8名のみである。
現在イスタ王国の依頼で遺跡の探索をしているサトルたちは、全5チームの中でも最後の5番目。
ただその攻略速度は早く、あのまま順調に進んだ場合、4番目のチームが攻略している「狼の谷ダンジョン」で鉢合わせをする可能性があった。
それを避けるため、時間稼ぎの一環として遺跡クエストが設けられた経緯があるが、もちろんサトルたちはそんな事情を知らない。
「しかし不思議な遺跡だな。人が作ったんだろうが、何のための遺跡か、建物の構造から何もわからない」
「そうね。ここまで魔物にも出会わず、トラップもなく進んできたけど、このまま最後まで続くのかしら」
「これまで見つけたお宝はどんな感じだ?」
「まぁまぁってところだな。指輪系のアイテムは戦闘で効果があると思うが、ただ1回使ったらおしまいって感じ。切り札として使えるのは間違いないけどな」
「へぇ、サトルが切り札になるって思ったほどなら、かなりいいかもね」
「ん?ちょっと待った!」
「「「!」」」
サトルの警告を受け、3人は即座に戦闘態勢を取る。お互いのポジショニングも完璧で、その動きはチームとしてすでに成熟しつつあることを証明している。
ただしまだ4人のレベルは15であり油断はできない。
「何があるんだ?罠か?魔物か?」
「探索に引っかかったのは、かなり強力な魔力の塊だな。場所はここから前方に数百メートルほど。予兆なしにいきなり現れた」
「それは怪しいな」
「魔物なのか、敵なのか、罠なのか、現状では判別できない」
「引き返した方がいいか?」
「いや、行こう。今回の依頼は遺跡の調査と危険の排除だ。あの塊が何なのか調査する必要があるし、危険なものなら排除する必要がある」
「大丈夫でしょうか…」
ワカナはまだ先日の魔物のトラウマが残っているのか、かなり緊張しているようだ。
「大丈夫だろう。俺は、あの王女が何かしらこの遺跡クエストに関わっていると思っているし、その場合、俺たちに危険があるようなクエストにはしないと思っている。違うか、ボン?」
サトルは王女に託された召喚獣であるボンに話しかけた。
彼らは普段サトルたちの魔力の中に潜んでいるが、契約者であるサトルの呼びかけに姿を現した。
“さすが、鋭い視点かと思いますラ。
ただ私たちは何も知らされていませんし、もともとがサトル様たちをサポートするよう命じられただけですラ”
彼ら4体の召喚獣は、昨晩の戦いで驚異的な力を見せつけた。しかしその強さゆえに、サトルは完全な信頼を置けなくなってしまったのである。
「まぁ、いい。とにかく先へ進もう」
サトルは自らの疑念を押しとどめるように、先頭に立って前へ進んだ。
~~~~
現在、狼の谷ダンジョン28階層を攻略している4番目のチーム。
メンバーは戦士のタツオ、魔法使いのサクラ、僧侶のサナエ、魔法戦士のノブの4人であり、北海道や東北からやってきたソーマジック・サーガのプレイヤーたちだ。
リーダーは魔法使いのサクラとなっているが、このところ連携がうまくいかず悩んでいる。
「先ほどの戦いもノブさんのサポートが遅かったと思います。あそこはワンテンポ早く動いて、タツオさんをフォローすべきだったと思います」
(あの人なら、こんな指摘をしなくてもあっさり対応するはずなのに…)
「ワリィ、ワリィ、次は気を付けるよ」
「まぁ俺だけでも凌げたがな、ガハハ」
「あの連携だと20階層のボス戦で不安があります。後でもう一度おさらいしましょう」
「そうね。サクラの言う通りだわ」
このチームも男女各2名の構成だが、どちらかといえば男性は尻に敷かれているといえるほど、女性が強い様子。
しかしかえってそれでうまくいっている所もあり、4人の居心地は悪くないようだ。
「今日はここまでにして一度戻りましょう。明日30階層を突破しますわ」
サクラは張り切っているが、それは日本へ戻るためだけではなく、もう一つの目標があるから。
(サトルさんもこの世界に来ているはず。そしてあの人なら、もっと先に行っているはず。早く会いたい)
「罠」へつづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます