第25話 王女の秘密


 みんなと合流しダンジョンを攻略、15階層を突破してレベルが15になった時に、遺跡の調査依頼が届いた。


 その調査前日に滞在した村で、今までダンジョンでは見かけなかった強力な魔物と遭遇して死にかける。


 すると召喚獣たちがその力を発揮して魔物を撃退、瀕死の俺たちをスカーレット王女が助け、しかも新たに出現したさらに強力な魔物も、そのスカーレット王女が殲滅。


 そのまま俺たちだけでなく村人全員を回復させ、もっと強力な召喚獣を新たに召喚して、俺たちを連れて城まで転移。


 そして俺は今、城にある巨大な浴場でくつろいでいるが、有り得ないほど密な1日だっただけに、いまだに混乱している。


 あの魔物はソーマジック・サーガ最後のダンジョンに出てくるガードデーモン(守護の悪魔)で間違いない。


 レベルは確か40以上で、今のレベルじゃどうあがいても勝てる相手ではなかった。




 …あの遺跡クエストは「罠」だったのか?


 そもそも、あのレベルの魔物がここにいる理由がわからない。


 もしあれが遺跡にいるなら危険度は計り知れないわけで、このクエストはキャンセルすべきだろう。


 すべては明日朝、スカーレット王女との朝食で決めるべきか。


 みんなにはいちおう警戒するよう伝えたが、さっき出された酒が思いのほか旨すぎて、完全に取り込まれた気もする。


 まぁ、何かあったとして、それに気付いても、あのスカーレット王女には勝てない。強さの格が違った。


 ここは相手の土俵で勝負をするしかないな。




 サトルはここまでの流れを振り返ったが、結論は「なるようになる」でまとまった。


 そして吹っ切れたら緊張感もほどけるもので、その後は与えられた私室のベッドでぐっすりと眠りに落ちたのである。






 そして翌朝。


 サトルたち4人、4体の召喚獣、スカーレット王女の9人で朝食会が始まった。



『まずは昨晩のお礼を。皆様の勇気ある行動で、大惨事になることは避けられました』


「いや、はっきり言って俺たちは何もできなかった。大した時間稼ぎにもなっていないだろう」


「そうね。魔物を倒したのはミーナたちのおかげで、私たちも助けられた方よ」


『それでも、その行動が大事です。今後もその勇気を忘れぬよう、お願いしますね』


「それよりも聞きたことがあるんだが…」


『えぇどうぞ。ただ先に食事の用意ができたようなので、食事をしながらお話しましょう』


 そうスカーレット王女がいうと、部屋に懐かしい匂いが漂ってきた。そしてその食事を見た時、4人は愕然とする。


 給仕が運んできたのは、紛れもなく「和食の朝食」そのものだったからだ。



『私は朝はコメ派なんですよ。特にお米、みそ汁、お新香は欠かせません。皆様もどうぞ』


「まさか、ここでみそ汁が飲めるとは…」


「きゅうりのぬか漬け…」


「「「「美味しい!」」」」


 4人は久々の完全な和食に感動し、声も出ず箸を進める。



(んふふ、やっぱり和食が恋しくなってくる頃よね。まずは作戦成功かしら)



「ところでスカーレット王女、昨日の魔物は何だったんだ?


俺が知る限り、ソーマジック・サーガのガードデーモンだと思うが、あんなのがクエスト先の遺跡に出てくるようなら、ちょっと考えなければならない」


 サトルの話を聞いたマッキー、エリ、ワカナは思わず箸を止めた。


 確かにあの魔物が何体も出てくるようであれば、間違いなく生き残れないからだ。


『あれは完全なイレギュラーです。本来はここにいるものではありません。遺跡に関しても、途中まで調査は済んでおり、魔物のレベルも10階層以内のものと確認されております』


「それは本当か? このクエスト自体、罠という可能性は本当にないのか?」


『心配に及びません。あのクラスの魔物は遺跡に存在しませんし、罠を含め一切の裏はありません。


私、スカーレット・イスタの名において誓いましょう』


「わかった。助けられた立場だ。俺たちをハメる気があるなら、とっくにできているだろうからな。


もう一つ質問がある。王女が使った魔法はソーマジック・サーガでも見たことがないし、俺は知らない。あの魔法は俺たちでも取得できるのか?」


『私はソーマジック・サーガというものを把握していませんが、似たような魔法はあるのではないですか?


ただ、あの魔法はこの世界の言葉を使ったものではありません』


「それはどういうことなんですか?」


『あの魔法は、数百年前に、星と星を旅していたといわれる賢者がこの星に伝えたものだと聞いています。そしてそれが一部の人に受け継がれ、今に至っているのです。


そして、おそらく皆様が取得するのは不可能ではないかと思います』




「私からもいいですか?」


 珍しくワカナが手を挙げて発言した。


『どうぞ。遠慮なく』


「王女様が使われた回復魔法と、私たちが使える回復魔法は、回復の仕方が違っていました。同じ回復魔法でも、微妙に何かが違うということでしょうか…』


『よく気付きましたね。少し説明が難しいのですが、皆さまが習得した魔法は、神(名前は出せないけどマサノリさん!)から与えられたもの。


そして私が使う魔法は、精神に植え付けられているものといえばよろしいでしょうか…


結論から言えば、その性質や性能や詠唱方法もすべて異なります。


ただし、どちらが上かどうかは、使い手次第だと思いますが』


 ワカナは王女の言葉で何かに気付いたのか、下を向いて考えに耽っている。



「じゃあ、俺からもいいか?」


 三杯目のおかわりを済ませたマッキーが手を挙げる。


「この和食。これは完全に日本の味だ。


海外旅行先で食べられる外国人が作った日本の料理っぽい味とは違う。まぁ素材はちょっと違うかもしれないが、調味料を含めても日本で食べるものと変わりない。


なんでこんな食べ物が、この星で食べられるんだ?」



 他の3人も「その通り」といった表情を見せている。


 この朝食会の献立をまとめると以下のとおり。


・白米

・きゅうりのぬか漬け

・豆腐とわかめの味噌汁

・鮭のような焼き魚

・いも類の煮物のようなもの

・味付け海苔

・ベーコンのような肉

・卵焼き


 4人はこの料理を異世界と呼べる場所で当たり前のように食べられることに違和感を禁じ得ない。



『この和食に関しては、数年前にこの星に来た日本の料理人が伝えたものだと聞いています。今ではこの星もちょっとした和食ブームですよ』


「数年前に日本人が?」


 3人は驚くが、サトルだけは違う反応を見せた。


「それはあなたじゃないんですか?」


「「「えっ?」」」


 その言葉に場の空気が固まる。


「僕はあなたが日本人のような気がしてならないんです。確かに容姿は異国の王女様ですが、どこか日本人らしさというか、同郷の何かを感じるんです」


『ふふふ。私はこのイスタ王国の王女ですよ。今は、それ以上でもそれ以外でもありません』



(今は、と言ったなこの王女。やはり何かを隠しているが、これ以上突っ込んで敵にするのは得策ではないな)



「そうですか… 


ちなみに遺跡の探索はどうなりますか?」



 サトルは話を切り替え、本来であれば今日から調査する予定だった遺跡クエストについて質問した。


『もちろん、皆様がよろしければぜひ依頼を受けていただきたいと思っています。


(マサノリさんからは一週間時間を潰すよう言われているし、何としても遺跡探索で時間を使って欲しいのよ)』



 サトルは考え込んでいたが、やはり当初の予定通りに遺跡に行きたいと皆に告げる。そして意見を求めた。


「私は、やはり早くレベルを100に上げて、日本に戻りたいんだけど…」


 エリはやはり日本に残してきた一人娘のミナが気になる様子だ。


「でもサトルが、それがパーティーにとってベストだというのなら、それに従うわ。今後のためにアイテムを集めて強くなるのは重要だと思う」


「私もサトルさんの判断にお任せします」


「俺もリーダーに一任だな」


「わかった。じゃあ、このクエストを受けることにする」


『ありがとうございます。それでは手配しておきますね。いつから調査へ向かいますか?』



「今日の午後でもいい。早い方がいい気がする」


 サトルは長く王城に留まることは避けたいと考え、今日のうちに遺跡に向かいたいと考えを述べた。



 その後、様々な疑問を王女にぶつけたが、うまくかわされたようで核心を得るには至らなかった。


ただ今回の王女との会食はサトルにとって非常に有意義だったといえる。


 サトルはこの星や王女の秘密に一歩近付いたと思っているし、王女が使った魔法の秘密の一端に触れたことも大きかった。


 それは今後の旅において大きな武器となるが、まだこの時点では誰も気付いていない。



「先行者」へつづく

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