#3 赤の勇者 【3-27】
「私は大丈夫よ、落ち着きなさい。操作が乱れてるわ」
スカーレットに言われ、アーシュは剣の操作に再び意識を集中させる。
スカーレットはシアンに歩み寄って。
「愚弟、歩ける?」
「歩けない」
「意地でも歩け」
「えー、なんで聞いたの」
シアンは顔をしかめる。
「私が可愛い弟を
スカーレットの言葉にシアンはさらに顔をしかめる。
「なによ、文句あるの?」
「ありません。ねぇちゃん優しくて大好きー」
棒読みでシアンが答えた。
「なら歩きなさい」
スカーレットはそう言うとシアンに肩を貸した。
シアンはスカーレットに支えてもらいながら立ち上がる。
「アーシュガルド、このまま進んで!」
スカーレットが言った。
「……少し、待って」
アーシュは周囲のスライムを斬り裂きながら剣に魔力を蓄える。
「急いで」
スカーレットが言った。
周囲を照らす頭上のスライムの光の色がまた変わっていた。
スライムは徐々にその動きが複雑なものになって。
アーシュの操る剣を越えるスライムが増え始める。
スカーレットが矢を放って。
シアンは片腕をスカーレットの肩に回して体を支え、片手で槍を振るってスライムを倒す。
だがスカーレットが矢筒に伸ばした手が空を切った。
「属性矢が、尽きた」
スカーレットが矢筒を見ると、残っているのは通常の矢だけで。
その時、旋回する5つの剣のうちの1つがアーシュの足元に突き刺さった。
そこに突き立てられたのは加速のソードアーツを宿す長剣。
アーシュは長剣の柄に手を伸ばした。
柄を握り締め、その剣の魔力を解放する。
「ソードアーツ『
アーシュの頭の中でカチリ、と音が鳴った。
鳴り響く無数の歯車。
加速する歯車の音がアーシュの脳内を満たす。
それと同時に
その景色の中を動くもの全てがアーシュの目には
アーシュは周囲に視線を切った。
迫り来るスライムの位置と自身の操る剣の位置を確認して。
スカーレットとシアンの目の前で、突如凄まじい加速を見せる4つの剣。
さらにアーシュは先ほど『
5本の剣が鋭い風切りをあげてアーシュ達の周囲を回る。
アーシュは次々と『
だが頭上のスライムが苛立たしげにその身体を震わせて。
その身体から伸びる無数の触手。
その触手は広間にひしめく全てのスライムと繋がる。
王冠型のスライムの上部の先端と同じ黄金色。
そして色を変えたスライムにアーシュの操る剣が当たると、キーンと甲高い音をあげてその刃を弾く。
アーシュは続けざまに刃をぶつけて。
だが硬質化したその身体にアーシュの剣が通らない。
アーシュは刃の軌道を変えると、スライム本体ではなく頭上のスライムから伸びる触手へと刃を振るった。
だが刃が触れた瞬間、触れた箇所が黄金色に染まってその刃を阻む。
「剣が通らない……!?」
アーシュが言った。
その声はスカーレットとシアンには速くて聞き取れなかったが、弾かれた剣を見ると察する。
「ねぇちゃん、スライムのあの姿なんなの?!」
シアンが
「分からない。本当になんなのよ、あいつは!」
スカーレットが頭上を見上げると言った。
頭上に浮かぶ王冠のような巨大スライムを睨む。
「『
アーシュは操る5つの剣から右手に握る長剣へと意識を移した。
加速した身体でスライムの1体に肉薄し、長剣を振り下ろす。
「
振り下ろす刃が加速し、その力を増した。
その威力は複数本の剣を操作していた先ほどまでの斬擊とは桁違いの威力を持っていて。
だがそれでもなお、アーシュの剣は弾かれた。
スライムの体表には傷1つ、ついてはいない。
アーシュは操作を切った5つの剣へと視線を向けた。
その剣を1つ1つ視認すると、順々にそのコントロールを取り戻す。
アーシュは長剣を地面に突き立てて。
「『
加速する4本の短剣。
それらは無数の触手の間をすり抜け、巨大スライムへとその切っ先を突き立てる。
だがそれも弾かれる。
アーシュの攻撃全てが通らない。
アーシュはスカーレットとシアンを見た。
アーシュの視線に気付いた2人はアーシュの表情を、その顔を不安に歪めるのが見えて。
────その時、アーシュ達の来た通路の先から轟音。
アーシュが通路へと視線を向けると、1人の男が飛び出してくるのが見えた。
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