#3 赤の勇者 【3-25】

「愚弟!」


 スカーレットの叫び。


「伏せろ! ソードアーツ────」


 シアンはアーシュの腕を引くとその身体を倒した。

それと同時にスカーレットが床に伏せる。

シアンはいで槍をぐるぐると回し、スライムをいなしながら振り返った。

そしてシアンの深い赤の瞳がスカーレットに迫るスライムを捉える。

シアンは短槍の魔力を解き放って。


「『雷の青き波紋エルヴス・サークル』!!」


 バチバチとぜる音。

シアンは青白い閃光に覆われた槍を振りかざす。


────刹那、シアンの背後からスライムがおどって。

だがそれを阻む一条の矢。

スカーレットが伏せた状態からボウガンを撃っていた。

放たれた矢はスライムに深々と突き刺さり、その身体を凍てつかせる。


 シアンとスカーレットの目が合った。

お互いに、にやりと笑う。


そしてシアンの槍から全方位に放たれたのは青い稲妻の輪。

稲妻は輪の形を保ったまま周囲に拡散した。

スライムからスライムへとその雷は飛び移り、対象を焼き焦がす。


 黒焦げになるスライム。

そして形を失って崩れていく骸骨兵。

シアンの放った青い稲妻は周囲一体をぎ払った。


 シアンが再び構えた槍の切っ先からは黒煙がたなびく。


「このまま一気に走るわよ!」


 スカーレットは起き上がりながら叫んだ。

同時に矢筒に手を伸ばし、再び青の矢をボウガンにつがえる。


 その時、頭上に浮かぶ王冠のようなスライムがまた違う色に発光して。

その大きな身体から放たれるのは緑の光。

それを受けた黒焦げのスライムは身を震わせる。

煙を上げながら小さくしおれていたその身体から、ダメージを免れた部分だけが噴き出して。

それらは混ざり合いながら再びスライムを形成する。


 その光景を横目見ながら走り出す3人。

シアンが先頭を走り、その後ろをアーシュ、スカーレットが続く。


 周囲ではスライムが大きく肥大し、そのてっぺんから細長い突起が伸びた。

その先端がみるみる膨らみ、ついには弾ける。


 周囲に撒き散らされる色とりどりの胞子。

拡散する胞子が3人に迫る。


「アーシュガルド、炎のソードアーツ!」


 スカーレットの声にアーシュが応えた。

アーシュは剣を振りかぶって。


「ソードアーツ『炎よ、斬り裂けライト・スラッシュ』!」


 明々と燃え上がる炎をその刃に灯し、アーシュは剣を振り下ろす。


 放たれた炎の剣閃は迫り来る胞子を焼くと、瞬く間に拡散した。

燃え拡がる炎の特性を持つアーシュのソードアーツは周囲の景色を赤く染め上げる。


「アーシュガルドくん、ナイス!」


 シアンが言った。


「……でもないんじゃない、これ!」


 スカーレットは周囲に視線を走らせて。

すでに3人をほぼ取り囲むように炎が拡がっていた。


「この炎、どのくらい燃えるの? アーシュガルド」


「えーと、普段おれが戦ってた獣型の魔物に使った時は、だいたい全身を炎が包んだら消えてったけど」


 アーシュが答えた。


「こんな延焼型のソードアーツだとは思ってなかったわ。しかも炎が拡散し過ぎて実際の威力は大したことないんじゃないのこれ」


 スカーレットは眉をひそめて。


「実際これで仕留められた魔物いるの」


「…………」


「あ、これいないやつだ」


 無言のアーシュを見てシアンが呟いた。


「ここを出たらアーシュガルドは次の町で鍛冶屋に剣を調整してもらいなさいよ」


 スカーレットは言いながら再び首から下げたペンダントを手に取った。

魔結晶アニマに再び魔力を流し、魔物を召喚する。


「ねぇちゃん、使いすぎだ!」


「うっさい! 魔力が枯渇しても死ぬわけじゃなし、炎に巻かれる方が問題よ!」


 スカーレットの周囲に3体の骸骨兵が姿を現した。

だがそれと同時にペンダントにはまっていた魔結晶アニマが砕ける。


「私の残りの魔力だと足りないわよね、やっぱり砕けたか。また買いなおさなきゃ…………」


 スカーレットが半眼でペンダントを見下ろしながら言った。

その顔はみるみる青ざめ、冷や汗が吹き出す。


「魔力欠乏だ」


 スカーレットの様子を見てシアンが言った。


「知ってる」


 スカーレットは短く返すと矢筒から青い矢を3本手に取った。

その矢を1本ずつ骸骨兵の頭蓋に突き立てる。


 矢を突き立てられた骸骨兵はみるみる凍っていって。


「固まって」


 スカーレットが指示すると、3人は固まって屈んだ。

凍りついていく骸骨兵が3人に覆い被さる。


 魔力で燃えるソードアーツの炎は周囲一帯を焼いた。

その炎が鎮静化すると、シアンの槍とアーシュの剣で凍りついた骸骨を砕く。


周囲のスライムは炎に舐められた箇所を薄皮を剥ぐように捨てると再び活動を再開。

跳ねながらアーシュ達に向かって進む。


「ねぇちゃん、立てるか?」


 シアンがいた。


 スカーレットはぺとんと座り込んだまま、ぼんやりと視線をさ迷わせていて。

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