#3 赤の勇者 【3-11】

 アーシュと青髪の少年は時計塔の前へと戻ってきた。

ギルド支部の入口のかたわらでディアス、エミリア、赤髪の少女が話している。


 赤髪の少女は戻ってきた2人を見つけて。


「遅いわよ、愚弟!」


「えー。それはないよ、ねぇちゃん。武器選んでたのアーシュガルドくんだし」


 青髪の少年が不満そうに言った。


「口答えしない! 返事!」


「……はーい」


 青髪の少年がため息混じりに返した。


「で、それがアーシュガルドが買った短剣?」


 赤髪の少女はアーシュの腰と右足に巻かれたベルトと、そこに留められた4本の短剣を見て言った。


「うん、これが買った短剣だよ」


 アーシュは時計塔の前で待っていた3人の前までくると息をついた。


「アーくん、重そうだけど大丈夫?」


 エミリアがくとアーシュは首をかしげて。


「うーん……、ちょっとキツい」


「クリフトフ、武器をいっぱい持ち歩くコツは?」


 エミリアがディアスにたずねた。 


「剣の操作を常に行うことだ」


「あー、なるほど!」


 アーシュは大きくうなずいた。

すぐに4本の短剣に意識を集中させる。


「どう? アーシュガルド」


「…………」


 アーシュは赤髪の少女に答えない。

無言のまま意識を集中させて。

前に進んだり後退したりを繰り返した。


「アーシュガルド?」


 再度赤髪の少女が声をかけた。


「…………うん?」


「うん? じゃなくて。大丈夫そうなの?」


 アーシュは立ち止まると赤髪の少女に振り向いて。


「重さは楽になるけど常にそっちに集中してなきゃいけないから結構難しい」


 そう言うとアーシュはディアスに振り向く。


「ディアス兄ちゃんはいっつも剣の操作してるの?」


 いつも通りの名前で呼ばれてディアスは眉をひそめた。

小さくため息を漏らして。


「…………ああ」


「10本全部?」


「ああ」


「そうなんだ。やっぱりディアス兄ちゃんはすごいね!」


「…………」


 ディアスはフードの陰から赤髪の少女をうかがうと、案の定怪訝けげんな面持ちを浮かべていた。


「アーシュガルド、この人のお名前なんだったかしら」


 赤髪の少女が目線でディアスを示した。


「ディアス兄ちゃんの名前はディアスだよ?」


「ケケ、この馬鹿ガキ」


 アムドゥスが呟いた。


「けけけ、あたしはアーくんのそういう素直なとこ好きだけどね」


 赤髪の少女はディアスに迫って。

手振りで青髪の少年に警戒を促した。

青髪の少年は赤髪の少女の隣に並ぶ。


ディアス・・・・さん?」


 赤髪の少女が言った。

その深い青の瞳がディアスを見つめる。


「クリフトフは偽名だ。ギルドと冒険者の間で使われるな。隠語みたいなもので君達に説明するのも躊躇ためらわれたから、そのまま通そうと思った」


「なるほど」


 赤髪の少女は言葉とは裏腹に納得している様子はなかった。

探るようにディアスを、いでエミリアに視線を向ける。


「差し支えなければ事情を説明していいただいても?」


 赤髪の少女は再びディアスを見た。


「ああ」


「ではアーシュガルドに説明してもらいましょう」


「ああ────」


 ディアスはフードの下で目を丸くして。


「ああ!?」


 思わず声を荒らげるディアス。


「え、おれ!?」


 アーシュも驚きの声を漏らす。


「旅の目的地は?」


 赤髪の少女がアーシュにたずねた。


「えっと……」


 アーシュは助けを求めるようにディアスを見た。


「アーシュガルド、即答!」


 だがその視線をさえぎって。

赤髪の少女がアーシュに迫る。


「白竜の魔王のテリトリーにある山岳の、街?」


「目的は?」


「おれの切断された腕をくっつけるため」


「その腕を?」


 赤髪の少女はアーシュの左腕を見る。


「その切断された腕は?」


 アーシュはエミリアの持つ袋に視線を向けた。


「いいかしら?」


 赤髪の少女はエミリアの持つ袋に手を伸ばした。

袋の口を開けて中を覗き込もうとしたが、途中でとどまって。


「愚弟!」


「え、俺やだよ!?」


「愚弟!!」


「やだやだ、怖い!」


「ぐ! て! いっ!!」


「…………はーい」


 青髪の少年は観念すると、赤髪の少女が促すままに袋の中を確認した。


「どう? 愚弟」


 赤髪の少女が恐る恐る聞いた。


「ねぇちゃん」


「ん?」


「わぁ!」


「きゃあ!」


 青髪の少年は袋の口を広げて赤髪の少女に中身を見せようとした。


 顔をそむけた赤髪の少女は流麗りゅうれいな動作で後ろ蹴りを放って。

振り上げられた足が青髪の少年のみぞおちを捉える。


「おっふ……!」


 青髪の少年はたまらず崩れ落ちた。


「で、結局中身は?」


 赤髪の少女がいた。


 青髪の少年は痛みに顔をしかめ、うめき声を漏らしていて。

うずくまったまま、手振りで中身に間違いがなかった事を伝える。

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