#3 赤の勇者 【3-6】

 少女は背中まである真っ赤な髪をポニーテールに結わえていて。

目は切れ長で瞳は深い青。

赤と白で配色されたローブを身にまとい、背中にはボウガンを背負っていた。


「ねぇちゃん、やっぱり迷惑だって」


 赤い髪の少女の背後で青い髪の少年が言った。


 少年は短く切り揃えられた青い髪をツンツンに逆立てていて。

目は切れ長で瞳は深い赤。

赤い瞳ではあるが発光はしていない、普通の人間のものだった。

青を基調とした服と黒い軽鎧けいがいを身にまとい、背中には短い槍を背負っている。


 2人の顔立ちはよく似ていて。

一目で血縁だとわかった。

歳はアーシュより1つ2つ上くらいに見える。


「ちょっと黙ってなさい愚弟。今私が交渉してるでしょ」


「さっき交渉失敗したのはどこの誰だっけ?」


「……あんたよ」


「嘘つくなよ! ねぇちゃんが────」


「うっさい、うっさい、うっさい! あんたがちゃんと私のフォローしてたら上手くいってたの!」


「…………ケケ、なんだこいつら」


 アムドゥスがエミリアのフードの中で呟いた。


「けけ、なんだろうね」


 エミリアが小声で返す。


 赤い髪の少女はディアスに振り返って。


「クリフトフさん、でしたか? 私達、今とても困ってまして」


 もじもじと体を揺らしながらチラチラと上目遣いを送る。


「やめとけ、ねぇちゃん。可愛くねぇぞ」


 赤い髪の少女はおもむろにディアスの腕にしがみついて。


「どうか永久魔宮に一緒に連れてってもらえません?」


 ぎゅっと胸を押し当てる。


「やめとけ、ねぇちゃん。まな板押しつけられてもさばかれる魚の気持ちにしかならねぇぞ」


 青い髪の少年はそう言うとへらへらと笑った。


 赤い髪の少女はギロリと青い髪の少年を睨む。


「やっべ────」


 青い髪の少年は後ろに飛び退いて。


だがそれよりも速くローブの裾から鋭いヒールが。

そして引き締まった脚が現れて。

鋭い後ろ蹴りが青い髪の少年のみぞおちを捉える。


「おっふ……!」


 後ろ蹴りを受けてその体が跳ねた。

青い髪の少年はみぞおちを押さえながら膝をつく。

その顔は痛みに歪んでいて。


「鎧のないとこ狙うなんて卑怯ひきょうだ!」


「あんたが防御してないのが悪いんじゃない。この愚弟!」


「えーと……これ、どういう状況?」


 アーシュが目をぱちくりさせる。


「んー、あたしだったら金的狙うなぁって話?」


「え」


「え」


 アーシュと青い髪の少年はエミリアの言葉を聞くと顔をしかめて。

2人は股間を手で隠しながら内股で後ずさる。


「いくら愚弟相手でも、さすがに私もそこまではしないわ」


 赤い髪の少女が言った。


「けけけけけ」


 エミリアは意地悪く笑うと赤い髪の少女へと視線を向けて。


「…………それで、どうしてあたし達と一緒に魔宮に入りたいの?」


 エミリアの問いに赤い髪の少女が答える。


「私達、見ての通り駆け出しの冒険者なんだけど、力試しにここの永久魔宮を潜ってみたいなって。ここの難度はE判定。ランクとしては最低のレベルだし、魔物の数も定期的な討伐で多くないからちょうどいいと思ったの」


 赤い髪の少女はそこで眉をひそめて。


「それで永久魔宮に入るための申請を出そうとしたんだけど、私達まだギルド登録を済ませてないからはいれませんって言うのよ」


「まぁでも、そういう決まりなら仕方ないんじゃないかな」


 アーシュが言うと赤い髪の少女はアーシュをキッと睨んだ。

慌ててアーシュは股間をガードする。


「いや、私は金的とかしないし」


「偉そうにしてた男の子が痛みにもだえてうずくまってるの見るの結構面白いよ?」


「あなた、結構ドSね…………」


 エミリアの言葉を聞いて、赤い髪の少女は苦笑を浮かべた。


「ケケケ、俺様は嬢ちゃんのそういうとこ好きだぜぇ?」


 アムドゥスが小声で言った。


「けけけけけ」


 笑うエミリアをアーシュはまじまじと見つめていた。

その視線に気付いたエミリアはアーシュに視線を返して。


「アーくんには金的しないかって? さぁどうでしょーう?」


「いや、絶対しないでよ!」


「けけけ。…………で、クリフトフ・・・・・どうする?」


 エミリアがディアスにいた。


 ディアスは思案するとアーシュを横目見て。


「かまわないよ。同行を許可する」


「やった!」


「おっしゃ!」


 姉弟していは喜びの声をあげた。


「ただし条件がある」


 ディアスが言葉を続けると、2人はディアスに視線を向ける。


「俺は手を出さない。魔宮の踏破とうはは君達姉弟していとうちのアーシュがパーティーを組んでおこなってもらう」

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