#2 青い森の魔物【2-30】
「え、ずっと一緒にいていいの?」
「ケケ、お前さんが望むんなら。いいよなぁ、ディアス?」
「アーシュが来たいのなら構わない」
「あたしもアーくんと一緒にいれたら嬉しいな」
「だが────」
ディアスは守衛へと顔を向けて。
「あなたはどうです? 俺達魔人堕ちとアーシュが旅を続ける事について。魔人と行動を共にしている人間。それが知れ渡ればアーシュは人間社会での居場所を失いかねない」
ディアスはアムドゥスとエミリアに目配せすると続けて。
「そして俺達はいずれ黒骨の魔宮の再攻略に乗り出す。それに
「ついてこれなきゃ死ぬ。ケケケ、全ては自己責任ってこった」
アムドゥスが言った。
「俺は、反対だ」
守衛が答えた。
「俺は今までアーシュの成長を見守ってきた。俺がアーシュに望むのは健やかで平穏な生活だ。願うのは誰にも虐げられる事なく、年老いて穏やかな最期を最愛の人達に看取られて迎えることだ」
「おじさん……」
守衛はアーシュへと視線を向けた。
大きくため息を漏らすと頭をボリボリと
「と、ここまでが保護者代わりにアーシュを今まで見てきた者の意見だ。だが俺は魔宮の攻略から離れても冒険者だ。冒険者だと思っている。魔人討伐は人命を救うという大義もある。だがそれ以上に駆り立てるものがそこにはあった」
守衛は虚空を睨むと過去の冒険を思い起こした。
「結論から言えば選ぶのはアーシュだ。アーシュのしたいようにすればいい。どうせ俺が止めてもアーシュはやめないさ。にいちゃんなら俺なんかよりもアーシュの気持ちが分かるだろ? 冒険者への憧れがアーシュを変えた。それを奪うことは俺にはできん」
「やった! ありがと、おじさん!」
「別に俺が礼を言われるような話じゃないよ。俺はお前の無事を祈ってる。そのうち名を上げて俺の耳にアーシュの活躍が届くのを心待にしてるよ」
「いいんだな?」
ディアスが再度
「ああ、アーシュは任せた」
守衛はそう言うとにやりと笑って。
「にいちゃんはさっきアーシュがにいちゃんの技を
「……ああ。善処するよ」
「頼むぜ」
守衛はディアスの肩を叩いた。
ぎゅっとその肩を掴んで。
「アーシュを、頼んだ」
守衛はそう言うとディアスのもとを離れた。
持ってきたのは長い袋と小さな鞄。
守衛は小さな鞄に物を次々と詰め込む。
「少ないがポーションにアーシュの食料と水。あとはなにかと入り用だろ」
守衛は銀貨の入った小袋も鞄に押し込んで。
「持ってきな」
「ありがとうございます」
差し出された鞄をディアスは受け取った。
「こっちは腕を持ってくのに。そのまんま抱えてったら守衛や
守衛は長い袋も手渡した。
「あとアーシュ。これを持ってけ」
守衛は丸薬の入った小袋を懐から取り出した。
「狂戦士が使う薬だ。痛みが酷くなったら小さく砕いて薬草なんかと一緒に飲むといい。さっきあげたやつと違って効果が強いからそのまま飲むなよ?」
「わかった。ありがと、おじさん」
アーシュは受け取った小袋を外套のポケットに押し込んだ。
「じゃあ、行こうか」
ディアスが言った。
ディアスが扉に向かって歩いていき、その後ろをエミリア、アムドゥス、アーシュと続く。
ディアスは扉に手をかけると守衛に振り返って。
「ご無事で」
「にいちゃん達こそな」
守衛が手を振った。
その視線がアーシュと交わると、アーシュの紫の瞳が一瞬で潤んで。
「…………おじさんっ!」
アーシュは駆け出すと守衛に抱きついた。
服の裾を強く握るとすすり泣く。
守衛はやれやれと肩をすくめるとアーシュの背中を優しく一定のリズムで叩いた。
少ししてアーシュが泣き止むとその体を引き剥がす。
守衛は屈むとアーシュの頭を撫でた。
次いでとんと肩を押して。
「いってこい!」
アーシュはうなずいた。
そしてディアス達の方へと駆け寄る。
ディアスは会釈すると扉をゆっくりと開いて。
周りに人影が無いことを確認してから外へ。
「守衛さん、元気でね」
エミリアは守衛に手を振るとディアスに続いて家を出た。
その肩にアムドゥスが飛び乗る。
「じゃ、いってきます!」
アーシュが言った。
アーシュが家を出ると扉が、パタリと閉じる。
「…………」
守衛は無言で扉を見つめていた。
木製の扉。
金属の取っ手。
すりガラスの小さな窓。
染みや傷。
見慣れた、いつもと代わり映えのない扉のはずなのに。
守衛は扉をただただ見つめたまま立ち尽くしていた。
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