#2 青い森の魔物【2-27】
「ディアスは魔人堕ちしてから1度も人間を喰ってねぇ。魔宮の能力も消耗の大きいダンジョンの展開を避けてギミック特化にしてることで魔力の消耗を抑えてた。だがそれにも限度がある」
アムドゥスはディアスの身体に視線を向けて。
「ケケケ、んで起こってんのが自食。自身の身体を魔宮が喰って魔力を補ってる。絶食時に起こる永久魔宮化の初期段階だ」
「生きながらに自分の魔宮に喰われてるのか」
守衛は目を見張りながら言った。
アーシュもその表情を一層曇らせる。
「ディアス兄ちゃん、痛くないの?」
「もう慣れた」
「否定じゃなく慣れたって言ってる辺り、つまりは痛いって事だな。ケケケケ」
ディアスはアムドゥスをじろりと睨んだ。
「…………ま、悪い事ばかりじゃない。人を喰ってない魔人である事の手っ取り早い証明に使えるしな」
「その痛みって、どんな痛みなの?」
アーシュが追及する。
「他の自食がどうかは分からないがな。俺の場合はその自食が起こってる箇所の細胞1つ1つに刃物を突き立てられて、その痛み全てが脳髄に突き刺さるイメージ。それが常に起こってる」
「そうなんだ…………」
「ケケケ、言うて自業自得だがなぁ。人間を喰わないのはこいつの勝手なポリシーだ。俺様としては人間をもりもり喰って力を蓄えてもらいたいとこなんだが」
アムドゥスはやれやれと肩をすくめて。
「ソードアーツが使える魔人っていう特異性も、この縛りのせいで帳消しみたいなとこがあるしなぁ。いつまでも性能だだ下がりしたガラクタみたいな剣を
「あ、剣と言えばあの大剣てディアスの魔宮で生成した武具なの? あたし初めて見た」
エミリアが言った。
「ああ。本当は強化途中の段階で出すつもりはなかったんだけどな」
「強化途中って事はもっと強くなるの? あの剣!」
「え、そうなの?! すごいすごい! 魔人の力も使えて、強力な武器も創れてってディアス兄ちゃんが今勇者の中で最強なんじゃないの!?」
とたんにアーシュは目を輝かせて。
エミリアと一緒に前のめりでディアスに詰め寄る。
「いいや。俺はソードアーツが使えるだけの魔人堕ちだ」
「でもソードアーツの連続発動と
「使えないよ」
アーシュの言葉を遮って。
ディアスは心底嫌そうな顔をして言う。
「俺はソードアーツの連続発動『
「そんな! なんで!?」
アーシュが
「俺は元々魔力なしだ。生まれながらのステータス上限も高くない。それでも冒険者になることを諦めきれなかった俺は魔力なしを逆手にとった」
「ディアス兄ちゃんの使い魔から聞いたよ」
「使い魔って呼ぶんじゃねぇ。俺様にはアムドゥス様っていう偉大な名前があるんだぞ!」
アーシュが話し続ける中、アムドゥスが被せて言った。
「種類の違う魔力同士は反発するから人の身体に魔力を通すのは難しいけど、魔力なしならその抵抗を受ける事なく魔力の伝達ができる。それでソードアーツによるダメージで本来剣に吸収できないはずの魔力を別な剣に吸収させる事ができるって」
「いいか、主従としては俺様が上だかんなー!」
アムドゥスはアーシュの言葉になおも被せて。
不満げに羽をバサバサと振るって抗議する。
ガシリ。
ディアスは手を伸ばすとアムドゥスの顔を
強く押さえ込むとアムドゥスが動かなくなる。
「冒険者の間でも名高いソードアーツのジレンマ。俺はそれを克服した」
ディアスが言うとエミリアは首をかしげて。
「ソードアーツのジレンマってなに?」
疑問を口にしたエミリア守衛が答える。
「まず剣が吸収する魔力だがスペルアーツの補助や剣ごとの特性はあれど、その量は与えたダメージ量に比例する。ざっくり言えばダメージ量
エミリアがふむふむとうなずいた。
「だが剣の魔力ってのは一方通行でな。吸収と放出は同時にできない。魔力を解放してソードアーツを放つと、その放出を終えて攻撃が終わるまでは魔力のチャージができないんだ。そしてソードアーツは冒険者の切り札。最も効率良くダメージを与える手段になる」
「つまり大ダメージを出せばたくさんの魔力が回収できるのに、その大ダメージを出すソードアーツだと魔力が吸収できないのがソードアーツのジレンマって事だね」
「そういうことだ」
ディアスはエミリアに答えると続けて。
「だが俺は魔人堕ちになったことで魔力を持った。ダメージを与える事で分解、放出される無属性の魔力は俺個人に宿った魔力の反発を受けて伝達が不可能に。それによってソードアーツの連続発動もできなくなった」
「『
アーシュが聞いた。
「俺のステータスはアムドゥスいわく魔人堕ちの際にぐちゃぐちゃになったらしい。スキルツリーの至るところが欠損して欠損箇所以降のスキルの使用も習得も不可能」
ディアスは話しながらアムドゥスの顔をずっと押さえていて。
アムドゥスはされるがままで微動だにしない。
「ステータスは『
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