#2 青い森の魔物【2-15】

「────くそガキ、下がれ!」


 ソードアーツの発動をさえぎって。

 アムドゥスは後ろに飛び退くとアーシュのえりを掴んで後ろに引いた。


「うわっ」


 アーシュはアムドゥスに引かれて上体をらせた。

その眼前を風切りと共に魔物の尾が横切る。


「今だぞ、くそガキ」


 アーシュは今度こそ剣の魔力を解放。


「ソードアーツ『炎よ、斬り裂けライト・スラッシュ』!」


 アーシュは炎をまとった剣を振り下ろした。

人面の魔物の尾を断ち斬り、剣から放たれた炎は魔物に拡がっていく。


「斬ったら、すぐ下がれ」


 アーシュはアムドゥスに言われるまま魔物から距離を取った。


「アーくん、ナイス!」


 足に大きな傷を負って体勢を崩した魔物に、エミリアはハルバードを叩きつけた。


 2人の少年もそれに続いて攻撃を加える。


「なぁにが畳み掛けるだ、ケケケケケ」


 アムドゥスはアーシュの肩に戻るとやれやれと肩をすくめる。


「調子に乗んなよ、くそガキ。さっきのは不意を突いたから攻撃が通ったんだ。この戦闘スタイルでいくなら追撃は剣の軌道を自在に操って相手の攻撃を弾いたり、いなしたりしながら戦えるようになってからだ」


 アムドゥスは、攻撃を加えるとすかさず回避に移る少年2人を顎で示して。


「あっちのガキ2人はお前さんより経験も能力もあるがヒットアンドアウェイで戦ってんだろ。相手は格上。お前さんは駆け出し。死に急ぐな」


「……わかった」


「ケケ、そう気を落とすなよ。不意打ちとはいえお前さんの攻撃は通用したぜぇ? 次は魔力操作を絡めていくぞ。白の勇者の踏襲とうしゅうがどこまで通じるか、試してみてぇだろ?」


 アーシュは剣を握り締めた。

その顔には不安と期待が入り交じっている。


「そっちの長剣のソードアーツも使ってくぞ。使用者を加速させる剣てのは練習にはうってつけだ」


 アーシュはちらりとアムドゥスに視線を向けた。


「……おい、くそガキ。勝手にソードアーツ使っていいのかなとか言い出すなよ?」


「う、うん。言わない、言わないよ!」


 アーシュは苦笑しながら人面の魔物へと視線を戻した。

深呼吸すると体勢を整える。


「ケケ、んじゃいくぜ? 言っとくが俺様の指示には必ず従えよ」


「わかった」


「んじゃソードアーツを使いな。そのまま攻めるぞ」


 アーシュはうなずいた。

いで長剣を構え、その魔力を解き放つ。


「ソードアーツ

加速する剣オールター時をも越えて・スウィフト』……!」


 カチリ、と音が鳴った。

アーシュの脳内で響いた歯車の音は断続的に響きながらその速度をあげる。

視界が色褪いろあせていくのと同時に、周囲の動きが緩やかになって。


 そして人面の魔物目掛けて駆け出したアーシュ。

アムドゥスはアーシュが加速したのを感じるとその肩から飛び立った。   


「ケケ、まずは炎の剣から魔力を溜めていきな!」


 アムドゥスはアーシュの走り去る背中に言葉を投げる。


 アーシュの接近に気付いた魔物が視線を向けた。

だがその動きはアーシュの目にはひどく緩やかに映って。

片目だけをぐるり、と回して真っ黒な瞳がアーシュを捉える。


 いで首もとまで真っ二つに斬り裂かれた顔の半分は、笑いとも怒りとも取れない不気味な表情にくしゃり、と歪んだ。

その顔の断面からは真っ黒な血が、ダラダラと流れ落ちている。


 ボタリ。

ボタリ、ボタリ。


 おびただしい量の血。

だがしたたる血の1滴、1滴までアーシュには見えていた。


 魔物がアーシュに視線を向けると同時に無数の尾がしなる。

だがその動きは、遅い。


 その尾が攻撃に移る前にアーシュは魔物のもとへとたどり着いた。

アーシュはすかさず剣を振りかぶって。


 アムドゥスが見つめる先で魔物へとまたたく間に肉薄したアーシュ。


 無数の尾がアーシュやエミリア、2人の少年に同時に迫った。

エミリアはハルバードを振るって一薙ぎに。

2人の少年は互いにフォローし合いながら迫る尾をいなして。

そしてアーシュは尾が迫るより早く無数の斬擊を放ち、自身に迫る尾はその全てを斬り伏せる。


 斬擊と共に魔力を吸収する剣。

アーシュはその魔力の流れに介入し、長剣が吸収する魔力を自身の体を通してもう一方の剣へと送り込む。

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