第96話 その後の彼ら・6(旧パーティ視点)

「で、魔族と戦うときはどうすればいいんだ?」


 真剣な顔で冒険者の一人が聞いてきた。

 周りには年齢も性別も武装も様々な冒険者たちが人垣を作っている。

 皆が俺達に注目した。

 

 正式に移籍してその後。

 ここしばらくジルヴァたちと行動を共にしてヴァルメーロのギルドで依頼を受けて戦っている。


 そして、気づいたのは明らかに魔族との接触が多いってことだ。

 俺達はまだ二度だが、俺達以外にも魔族との接敵報告がギルドに寄せられている。

 そもそも魔族なんてトロールがごくたまに出る程度だった。俺達がすでに二度戦っている時点でおかしいともいえるんだが。


 魔族との本格的な戦闘経験を持つ冒険者はほとんどいない。

 特にトロール以上の奴との戦いとなると文献が頼りな状態だ。


 俺達がアルフェリズで魔族と戦ったという話は、ジルヴァがギルドに報告している。

 こういう経緯もあって、今日はギルドのホールで魔族との戦闘経験を話すことになった。


「前衛で倒せるとは思わない方がいい。武器での攻撃で倒すのは難しい」


 そう答えると周りの囲んでいた冒険者たちがざわついた。

 今までの魔獣との戦いとは全く違う戦い方だ。無理もない。

 

「俺の剣が通じないって言うのか?」


 鍛えあげた体に、顔に傷がある前衛風の男が険悪な声で言う。

 背中に背負っている大剣には複雑な装飾が入っている。かなりの業物っぽい。

 年は俺やライエルよりも上っぽい。


 ベテランなら納得いかないのも分かる。

 俺自身も前衛としてそれなりに経験を積んできたから、この状況は複雑な気分もあるが、事実は事実だ。


「ああ。恐らくダメだ。俺はA3、このロイドはこの年ですでにB3だが、それでも俺達の攻撃は通じなかった」


 そう言うと周りがまたざわめいた。


「じゃあどうすればいいのよ!」


 赤い髪を短く切りそろえた女の子が言う。

 腰には細身の刺突剣をさしていた。鎧が新しい所をみるとまだ駆け出しか。


「魔法で倒すしかない。前衛や練成術師で徹底的に足を止める。相手の魔法も詠唱段階で止めて、魔法で仕留める」


 なんでも魔族と言うのは、魔獣より異界の力が強く、不死属の幽霊ゴーストに近い存在らしい。

 マナの結晶体だから武器での攻撃が効きにくく、魔法でないとダメージを与えにくい。


 あのライエルと一緒に居た魔法使いのように一撃で魔族を仕留める威力を持つ魔法を使えるものは少ない。

 だが、無いものねだりをしていても仕方ない。


 二度の戦闘で、魔法を何度も当てれば倒せるらしいことは分かってきた。強敵ではあるが不死身ではない。

 魔法使いがいないという編成でなければ対処のしようはある。

 ただ……俺達が戦ったバフォメットクラスがそれで倒せるかは分からないが。


「よくわかりました。ヴァレン君、ありがとう」


 ギルドの職員が言って周りを見回した。


「魔族との交戦はまだ稀ですが……依頼内容的に魔族の疑いがある場合、魔法使いがいないパーティが依頼を受けることは禁止します。

不意の接触に備えて攻撃系の魔法を使える魔法使いをパーティに編入することが望ましい。前衛でも対抗可能な装備を各工房に研究を依頼します。いいですね?」

 


 ギルドでの講義が終わって酒場に移動した。

 あんまりこういうことをする機会はなかったから緊張して疲れたな。


「なんでこんな風に魔族が出るんだろうな」


 ジルヴァがエールをジョッキを傾けつつ言う。


「わからないな」


 アルフェリズで戦ったのは不幸な偶然かと思っていたんだが、どうもそう言う事じゃないらしい。

 一つ言えることは、なにか良くないことの前触れだろうってことだ。


「まあでも苦労はしてるが……稼ぎにはなってるな」


 フェリクスが先日の魔族討伐の報酬の銀貨を指先でいじりつつ言う。


 魔族の遺すライフコアは冒険者ギルドが高く買い取ってくれる。

 なんでも魔族のライフコアを国が高く買い上げているからということなんだそうだ。 


 俺達にはよくわからないが……何かの研究に使うとかいうことらしい。

 魔族との戦いは危ない橋を渡っているのは確かだが、懐が温かいのもまた事実ではある。

 金になるからこそ無理して依頼を受けようとする連中がいるのも事実なんだが。


「そういえば、ヴァレンはアルフェリズで戦ってたんだろ?ライエルってやつは知ってるか?」


 ジルヴァから思わぬ名前が出てきた。

 ロイドが少し顔を伏せて、イブとエレミアが気まずそうに視線を交わした。


 ライエルの活躍は俺も聞いている。

 対魔族宮廷師団に編入されて、また強力な魔族を倒したらしい。

 しかも中心的な役割を果たしたらしく、ヴァルメーロの中央駅の前で凱旋式が開かれて功績をたたえられていた。


「名前くらいは」

「やっぱり知ってるのか。あんたらと言いライエルと言い。アルフェリズ出身は優秀なやつが多いよな」

「まったくだぜ」


 ジルヴァとフェリクスがこっちの気を知ってか知らずか顔を見合わせて言い合った。



 食事を済ませて部屋に帰ると、ロイドが窓の外を眺めていた。

 もう夜だが街灯が道を明るく照らしていて、馬車が行きかう音と話し声が窓越しに聞こえる。

 夜もアルフェリズより格段ににぎやかだ。


「さっきの話……気にしてるのか?」

 

 ヴァルメーロに移籍していくつかの依頼を受けて戦ったり、他の冒険者と交流して、こいつはますます腕をあげている。

 いろんな要素はあるんだろうが……ライエルを意識しているから、というのが大きいのは間違いない。


 ただ前衛と練成術師じゃやることも違う。意識するのは良いが、しすぎるのも実は良くはない。

 ロイドが考え込むように目をつぶった。


「俺は……よくわからないんだよな……ただ」

「ただ?」

「調子に乗ってあいつにひでぇことを言ってよ、追い出した挙句助けられて。今やあっちは英雄候補、立場逆転だ」


 自嘲気味にロイドが言った。


「だがそれより……俺は……あいつを助けられるような男になりたいんだ。あいつにあの借りを返せるように。もうバカなダセェガキじゃねえってことを証明したい」


 そう言ってロイドが俺を見た。


「それによ、助けられっぱなしじゃな……格好つかねぇ。そうだろ、ヴァレンの旦那」

「……ああ、そうだな」


 ライエルに借りがあるのは俺も同じだ。借りっぱなしでいるのは寝覚めが悪い。

 ヴァルメーロにいれば、そういう機会もあるかもしれないな。

 


 本章はここで終わり。次章は書き始めているので、さわりだけ近日中に公開しようと思います。

 あと、カクヨムコンにエントリーする予定です。引き続き応援いただけると嬉しいです。

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