第48話 事実の証明

「聞いてくれ、皆。我々はこの魔族を討伐した。これが証拠だ」


 ローランがライフコアを高々とさしあげた。


「だがこいつらが我々を襲った」


 芝居がかった仕草でローランが俺達を指さす。


「魔族との戦いで魔力を消耗した我らにはなすすべはなかったが、皆が来てくれて助かった。感謝する」


 周りの冒険者たちが言葉を交わし合う。


「我々は今、アレクトール学園の主席を争っている。こいつは私の討伐評価点を狙ったのだ」

「貴様!いい加減にしろ!貴族の誇りはないのか!」


 どうにか立ち上がれる程度に回復したテレーザが普段とは違う怒りの声を上げて抗議する。


「私がウソなど言うわけがない。貴族の名において。皆、そうですよね」


 貴族ならではなのか、喋り方も堂に入っている。

 威圧的な口調でそういうと皆が俯いた。


 それにギルドの依頼を買い占めたくらいだ。金が回っているのか

 ……ヴァレス家は大貴族らしいからその家の者が言っていることに公然と歯向かうのは難しい。


 俺達もあいつらも傷を負った魔力を消耗した状態。

 そして残されたライフコアは一つ。

 事実は一つなんだが……証明するのは簡単じゃない。


 エンリケは黙って聞いているだけだ。

 どっちの肩入れもしないってことなんだろうが。

 

「いや、俺はライエルを信じるぜ」


 不意に大きな声がざわついた雰囲気を破った。


 

「ライエルはウソなんて言ってねぇよ。俺はそう思うぜ」


 そう言って人垣を分けて出てきたのは赤いマントを羽織ったロイドだった。

 ……意外な味方が現れたな。


 心なしか前と雰囲気が少し違う気がする。

 その後ろからヴァレンたちがやれやれって顔をしながら進み出てきた。

 

「ライエルは何の得の無いのに俺達を助けてバフォメットと戦ってヤベェ橋を渡ってくれたんだぜ。

そんな奴が手柄横取りなんてマネをするとは思えねぇな」

「貴様……」


 ローランが余計なことを言うなって感じでロイドを睨むが、気づいているのかいないのか、ロイドは平然とした顔をしている。

 むしろ後ろにいるヴァレンたちの方が何やら不安げだ。

 他人事ながらなかなか肝が据わっているのか、単に分かってないのか。 

  

「いや、ライエルは信用できるぜ……そんなウソつく奴じゃねぇよ」

「確かに……そうだな」


 周りからロイドに同調するような声が上がる。

 少し空気が変わってくれたな。


「お前……意外に人望があるのだな」


 テレーザが何やら感心したように言うが。


「意外に、とは失礼な奴だな」

「いや、すまない。そういう意味ではない」


「まあベテランの信望ってわけさ」


 ここ数年は練成術師はどうしても不遇な状況だったから、あちこちのパーティを渡り歩いた。

 ただその分、顔見知りも多い。

 長く組んだ奴、短かった奴、それぞれいるが、そこまで不義理はしていないつもりだ。


「そうだろ、ライエル!あんたは嘘なんて言ってねぇよな」


 ロイドがまた俺を見て言う。


「ああ、その通りだ。もちろん。俺の言っていることは事実だぜ」


 そう言うと、また周りがざわついた。


「ありがとうよ」

「ふん。俺のライバルがそんなセコイことするかよ」


 ロイドが言うが……ライバルだったのか?

 まあいい。それよりも。


「ロイド、すまないが魔力回復の治癒薬ポーション持ってるか?」

「ああ、あるぜ」


「譲ってくれ、金は払う」

「いいよ、そんなことは」


 ロイドがポーチから陶器の瓶を出して渡してくれた。

 封を切って飲む。少し間があって頭にのしかかっていた疲労感が少し薄らいだ。

 魔力が少し戻る。これで十分。


「聞いてくれ、皆!」


 そう言うと、全員がこっちを見た。


「今からそいつのデタラメを証明する」



 皆がどよめいた。


「そんなことができるのか?」

「どうやって?」


 周りからひそひそと訝しむ声が聞こえる。

 問題はこの触媒が持ってくれるかだが。剣から伝わってくる魔力は、ヒビだらけの石の壁を触っているような感じだ。


 戦いの前にローランが立っていた場所に当たりをつけて意識を集中する。

 頼むぞ。

 

「風司の93番【思いを運ぶ風の腕、その言葉の欠片をしばし此処に留め置け】」


 全員が静まり返った。遠くから波の音と鳥の鳴く声が小さく聞こえる。

 詠唱が終わって剣が軋んだ。

 

『ではライエルさん、貴方にお聞きしましょう。

この討伐は私の物にしませんか?対価はお支払いしましょう。30000クラウンです』


 何もない中空からローランの声が突然聞こえた。


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