第49話 終わりの時
『魔族と対峙した我々は死闘の末、敵を打ち倒す。
しかし一人は魔族の魔法の前に倒れる。尊い犠牲を払いつつ我々は勝利を収めた』
『尊い犠牲がもう一人増えます。アルフェリズで活躍した錬成術師と魔法学園主席は魔族と命をかけて戦い、アルフェリズを守った。
皆が君たちの名を讃えるでしょう。私が確かに伝えます』
そこで声が止まった。
「これがこいつの言ったことだ」
皆が今度はローランに注目する。
「こんなことは……ウソだ。魔法で細工したんだ」
ローランが呟くが、流石に声が震えていた。
「貴族の誇りにかけて私はこのようなことを言うわけがない」
ローランの言葉を無視してエンリケがこっちをむいた。
「ライエル……これは、たしか、風の記憶だね」
「ええ、よくご存じで」
風の記憶は風の練成術に属するかなりマイナー魔法だ。
ある場所に残された音を再現する魔法で、使い方によっては伝言とか役に立つ。
ただ、さっき使った音を封じる魔法や浄化の風と同じく使い道があまりないから、使い手も少なくて知られてない。
これを知っているのは流石にギルドマスターだな。
「もう一度できるかな?」
「ええ、もちろん」
といいつつ触媒が限界に近いんだが。
もう一度詠唱すると、同じようにローランの言葉がもう一度再生された。
エンリケが頷く。
「風の記憶。これはその場で生じた音を留める魔法であって、音を作る魔法ではない。
というか音を作る魔法もなくはないが、
そう言ってエンリケが冷たい目でローランを見た。
「バカな、そんなことは認められない」
「だが、君の声は今の声とそっくりのようだが?」
エンリケが言うとローランが慌てて口をつぐんだ
「冒険者同士の交戦はこれを厳に禁ずる、仕掛けた側は冒険者の地位を取り上げられる。規約2条3項」
エンリケが淡々と言って、二人の戦士の方を見た。
「君たちの言い分は無いかな?今ならもう一度聞いてあげるけど」
エンリケが意味ありげな口調で問いかけると、二人が顔を見合わせた。
「こいつの命令で仕掛けました!」
「俺たちから……でも命令されたんです!」
「そう、仕方なかった!」
二人の戦士が口々に言ってローランの顔が引きつった。
「貴様ら!何を言う!デタラメを言うな!許さんぞ!」
「決まりのようだね」
ローランが叫びぶが、それを無視してエンリケがローランを冷たい目で見た。
「君が冒険者ギルドのメンバーにどういう風に接しようとギルドは関知しない。だが規約違反は許さない。これは明確に違反だ。看過できない」
「ギルド如きが私に言うのか、そんなことを!ヴァレス家の私に!そんなことは許されない。間違っている!」
「冒険者である以上、貴族であろうが王族であろうが規約違反の特例は認められない。知らないのかね?」
エンリケが宣言した。
「ふざけるな!そんなことありえない!」
「国王に伺いを立てるかね?好きにすればいい」
「そういうものなのか?」
「そうなんだよ、実はな」
だからギルドの権威はそれなりに強い。
冒険者ギルド内にいる限り、貴族や王族だからと言ってここまで明確になれば規約違反は許されない
「ぐっ………そんな………バカな」
暫く言い争いは続いていたが、エンリケのまったく譲らない気配に絶望したのか、ローランががっくりとうなだれた。
それを見てエンリケが俺達の方を向く。
「この討伐はアルフェリズの冒険者ギルドの名においてライエル、テレーザの両名の為したものと認める」
そう言うと、周りから大歓声が沸いた。
「そして、アルフェリズのギルドマスターとして君たちの活躍に改めて感謝するよ。スケルトンの群れで手一杯になりそうだったからね」
「ああ、そうだったんですか?」
そういえばスケルトンのことをすっかり忘れていた。
こっちを甘く見たのか、あの魔族がスケルトンをこっちに向けなかったのは幸いだったな。
「強くはねぇんだが、数は多いし切っても壊しても倒れない連中でよ。魔法でどうにかなったけど、厄介だったぜ」
ロイドが教えてくれた。
「偶発的な戦闘であり、討伐点については事前評価がされていなかった敵だ。
評価は後日行い報酬についてはギルドより拠出する。いいかね?」
エンリケが言って、テレーザが頷く。
「それでいいそうだ」
ようやく肩の荷が下りたな。
◆
ローランは馬に乗せられて悄然としたままアルフェリズに連れていかれた。
「……あの後どうなるのだ?」
「さあな。処刑されたりはしないぞ」
ギルドは処罰機関とかじゃないから、処刑されたりとか罰則を受けたりすることは無い。
冒険者としての登録は取り消されるだろうが。
ただ、冒険者仲間に自分から攻撃を仕掛けて冒険者登録を取り消されるなんていうのは、ほとんど聞かない話で相当な不名誉だ。
家はかなり立派な貴族で魔法使いの家系らしいから家名に大きな傷はつくだろうな。
魔法使いとして活躍できる場はもうないかもしれない。
「そうか……」
テレーザが小さくため息をついた。
対立した相手であっていい感情はないだろうが、こういう結末になって色々と思うところがあるのかもしれない。
この辺は俺には計り知れない。
「そういえば……あの魔法は助かったよ」
睨み合いの時に発動したあの魔法。
あれが無ければ雷撃を使う間を取れなかったから、ここで倒れていたのは俺達だっただろう。
勝ったから今は気楽にして入れるが、勝敗は本当に僅かな差だった。
「全魔力を注いだんじゃなかったのか」
「そのつもりだったのだがな……お前に倣ったのだ。少しだけ余力を残した」
テレーザがちょっと自慢気に微笑んだ。
「なるほど。善い心がけだぜ。歴戦の冒険者みたいだな」
不測の状況に備えて余力を残すのは大事なことだ。
自分で気づくとは大したもんだな。
「お前の戦いも素晴らしかったよ」
「ああ、見てたのか?そりゃそうか」
あのタイミングで魔法で援護してくれたんだから当然見てただろうな。
「中途半端ではあるが、攻めに転ずれば一応あの位はできるってことさ」
「さすがは
「証明できたか?」
テレーザの硬い表情が緩んだ。小さく頷く。
砂と血で汚れた整った顔、柔らかい笑みを浮かべて青い目が俺を見つめた。
「……ありがとう。私のために戦ってくれて」
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