第37話 嵐の前
雨が酷い。水がめをぶちまけたような雨がトラムのガラスを叩いている。
車輪の音と雨の音が社内まで響いていた。
風が唸って木と鉄で作られた車体が軋んで揺れた。
サーグレアを出たときは綺麗に晴れていたが、アルフェリズに近づくにつれて急激に天気が悪化した。
「酷い雨だな」
「ああ」
心ここにあらずって感じでテレーザが答える。
酷い雨は気分を滅入らせる。
サーグレアに来ていた依頼はすべて片付けたが、討伐点としてはそこまで大きなものにはならなかった。
色々と感謝されて冒険者として戦うってことがどういうことなのか、テレーザにも伝わったようだが。
それはそれでいいことだが、はたしてローランとの順位はどうなっているのか。
「この後はどうなるんだ?」
「ギルドから討伐評価点がアレクト―ル学園に送られている。その評価がアルフェリズに来ているはずだが……それを見ないとわからない」
テレーザの話だと、魔法実践の訓練は討伐評価によって学校の評価点も変わるらしい。
稼げないとローランに追い抜かされる。
今は正確にどのくらいの差があるのかはわからない、アルフェリズで学園からの通知を待つしかないのか。
アルフェリズはどうなっているんだろう。
さすがに全部の依頼を買い占めるような真似が続けられるとは思えないんだが。
まだそんな状況だったら、他に行かなければいけない。
次に行くとしたらどこがいいのか。頭の中で地図を思い出す。
そんなことを考えていると、不意にトラムが止まった。
●
まばらな乗客たちが不審そうに言葉を交わしあう。
駆動音が消えて、雨の音だけが車内に響いた。
ここは駅じゃないから止まるような場所じゃない。
「どうした?」
運転室の窓を開けて声を掛ける。
運転席のガラスは雨と靄で殆ど前が見えないほどのあり様になっていた。
初老の運転士がこちらを振り返る。
「誰かが戦っています……おそらく魔獣がいます」
遠くの方から爆発音が聞こえる。確かに……誰かが戦っているようだ。
ここはアルフェリズからも近い。町の近くには魔獣は現れにくいもんなんだが。
「見に行ってもらえますか?」
「ああ、わかった」
車内には冒険者は俺とテレーザしかいない。
ここで足止めを食らっているわけにもいかないな。
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