第32話 その後の彼等・3(旧パーティ視点)

 ロイドの炎を纏った斧槍ハルバードが一閃した。

 周囲を囲んでいた巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーが切られた後にそのまま炎上する。金属的な悲鳴を上げながら蜘蛛がのたうち回って倒れた。


 もう一度ロイドが斧槍ハルバードを振る。火の粉が飛び散って蜘蛛が怯えたように奥に下がった。

 周りに張り巡らされて柱のように視界を遮っていた蜘蛛の糸が溶ける。視界が広がって奥に親蜘蛛の姿が見えた。


 親蜘蛛が糸の束を吐くが、空中で大きく網のように広がった糸をロイドのハルバードが撃ち落とす。

 周囲にはもう蜘蛛の姿は無い。


「ヴァレン!切り込む!いいか」


 指示するより前にロイドが叫んだ。


「いけ!」

 

 ロイドが駆けて、向かってくる蜘蛛を次々と切り裂いた。後ろからエレミアの魔法が飛んで他の蜘蛛がバタバタと倒れる。

 ロイドが少し歩を緩めた。イブがサッとその間に前に飛び出す。


「行くわよ」

「頼むぜ、姐さん」


 バリスタの矢のような太い蜘蛛の足がイブに向かって振り下ろされるが、それを華麗に避ける。

 イブが槍で堅い胴や足を刺し貫いた。体液が噴き出して蜘蛛が怒ったように体を震わせる。

 イブが槍で脚をさばきつつすっと下がった。蜘蛛がそれを追うように姿勢を変える


「蟲ケラ!こっちがお留守だ!」


 斧槍ハルバードが赤い炎を放ちつつうなりを上げる。

 木でも切り倒すように片方の足が三本まとめて断ち切られた。焦げ臭い嫌なにおいが漂う。

 蜘蛛が大きく姿勢を崩した。返す刀で斧槍ハルバードが胴を薙ぎ払う。


 蜘蛛の顔がロイドの方を向いたところで、今度はイブの槍が蜘蛛の胴に突き刺さった。

 蜘蛛が大きく体を震わせて地面に突っ伏す。


「終わりだぜ!」


 ロイドの斧槍ハルバードが真上から振り下ろされて、蜘蛛の頭を叩き割った。



「お疲れ様」

「乾杯」


 依頼が片付いて、今日もいつも通り、いつもの酒場で反省会をしている。

 ロイドは相変わらず一人で飲みに行ってしまった。これはあいつのジンクスらしい。


 まあ反省会と言いつつ、今日は反省することは全くないんだが。

 万全の態勢で蜘蛛を蹴散らし、終始危なげなく親蜘蛛を仕留められた。報酬も高めだったから美味しい仕事だったな


「しかし……変われば変わるもんよね」

「それはそう思う」


 イブが言って、エレミアが同意する。


 イブとエレミアの治癒を待ってから受けた仕事。これがあのバフォメットと戦ってライエル達に助けられた後の初めての仕事だったが。

 あいつは別人かと思うほどに変わった。


 今までは俺が俺がって感じで周りを見ずにひとりで無茶な切り込みとかをしていたが。

 火力の高さはそのままに、戦場を広く見る意識を持った。


 ライエル一人いなくなったらパーティの戦力がガタ落ちしたが、ロイド一人の戦い方が変われば戦力が大幅に上がる。

 ただ、これほどまでに変わるとは思わなかったが。

 

「ライエルのおかげかね」


 あの自信家のロイドもあの後はかなり落ち込んでいたが、しばらくして黙々と訓練を始めていた。


「そうだと思う……机上演習もしてたわ」

「へぇ、あいつがね」


 今までは訓練と言えば斧槍ハルバードを振り回していただけだったが。見向きもしなかった、卓上盤面を使っての位置取りの仕方もやっていたとは。

 明らかにあの時の戦いでのライエルの動きを意識したもんだろう

 

 強いというのはただ大火力を叩きつけるだけじゃない。

 ライエルの立ち回りや考えを聞いてパーティで戦うってのはどういうことか相当考えたんだろうな。


「じゃあ、ライエルには感謝しないとな」

「でも、それを言うとあいつ怒るわよ」


 イブリースが言ってエレミアが苦笑いする。


「二度とあいつにデカい面させない様に強くなってやるんだってさ」

「机上演習をしてたけど……今回は助けられたが……やっぱりムカつくぜ、あの野郎。俺はあいつを超えてやる。すぐにな!って言ってた」


 エレミアがロイドの口調を真似て言う。

 まあ、素直に尊敬するとかそういうやつじゃないか。だが。


「仲間から学ぶは並み。仲間から学び敵からさらに学ぶは賢者の道、だな」


 冒険者の格言だ。

 ただ、敵を認めることは簡単じゃないし、そいつから学べるのはもっと難しい。

 だからこそ、それができるものは賢者と呼ばれるのだ。



「帰ったぜ」


 そろそろお開きにするかってところで、ロイドがいつも通り酔って帰ってきた。

 今日は女の連れはいないようだが。


「お帰り」

「相変わらずね」


「いいだろ?なにか問題あったか?」


 ロイドが不敵に笑いつつ応える。


「いや、特にないさ」

「まあ当然だな。この俺、ロイド様がいれば」


 そう言ってふらふらと階段を昇っていく。

 部屋に入る前にロイドが振り向いた。


「ああ、そうだ。ヴァレンの旦那にイブ姐さん、明日訓練に付き合ってくれよ。複数との戦いの位置取りを確認しておきたい」

「ああ、いいとも」


 ロイドが手を振って部屋に入っていった。


 あのままの火力頼みで猪突猛進しているだけじゃ、ロイドはいずれ絶体絶命の場面で後悔する暇もなく死んでいたかもしれない。

 俺達だってどうなっていたか分からない。

 あの危機を救われたという以上に、ロイドにとっても俺達にとっても大きな助けになった。


「俺たちのパーティに」

「ライエルに」

「感謝を込めて」


 グラスを軽く触れ合わせてグラスのワインを飲み干した。


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