第14話 買い物タイム

  アルフェリズの目抜き通り、アレスタ通りの最高級の武具防具店に行くことにした。

 ガラス張りの店には装飾が施された豪華な金属鎧や盾、剣が誇らしげに並べられている。


 恐らくA帯よりさらに上、S帯の冒険者や騎士階級御用達だろう。

 冒険者然とした俺はお呼びでないとばかりに入り口で守衛に止められかけたが、テレーザが指輪か何か見せたら途端に態度が変わって入れてくれた。


「なんなんだ、お前は?」

「気にするな」


 取り付く島もなくテレーザが言う。

 気にするなって言われても気になるぞ。


 店員と話した彼女が奥の試着室に行ってしまって、手持無沙汰のまま店内をうろつく。

 外の人通りは多いが、結界でも貼られているかのように店内は静かだ。


 店内には様々な武具や防具が並べられている。

 耐魔銀ミスリル鎖帷子チェインメイルに反射の術式が込められた大盾タワーシールド。値札が付いていないところがまた恐ろしい。


「錬成術師殿とお見受けします。これなど如何ですか?」


 店員が一本の剣を差し出してくれた。漆黒に塗られた鞘から抜いてみる。

 白と蒼に分けられた波打つような文様を持つ片刃の刀身。丸い鍔には凝った細工が施されて、柄には交差するように布がまかれていた。

 柄頭に付けられた二つの鈴がちりんと涼やかな音を立てる。


「東方から伝来した風の魔剣です。かなりの業物ですよ」


 見ただけで確かに凄みは伝わってくるが……どう考えても買えるとは思えない。


「戦場には馴染んだ武器で行きたいんだ。俺はこれでいい」

「そうですが……しかし優れた錬成術師には優れた触媒が必要かと思いますよ」


 店員が笑顔を絶やさないままに食い下がる。

 今の魔剣は籠められた魔力はこの剣には劣るだろうが、バランスが良くて気に入っている。

 それに性能以上に使い慣れたものというのは結構大事だ。

 見栄を張っているわけではない、断じて。


「これが最高か?」


 しばらく待っていると、そう言って彼女が試着室から出てきた。



 上半身を覆う白い皮鎧に、体にぴったりした柔らかい布で作ったタイツのようなもの。

 革鎧には金の魔法の文様が刺繍されている。布は淡く緑色の光を放っていた。

 魔法使いから一転して軽戦士って感じだな。片眼鏡モノクルが今一つ似合っていない。


「どうなんだ?」

「革鎧は階層グレードBの対魔法防御と階層グレードCの対物理防御。それに状態異常の軽減つきでございます。

王都ヴァルメーロの工房より仕入れました。最新の魔法理論ロゴスを施した逸品です」


 店の店員が教えてくれる……一応多少の物理防御の術式は組み込んであるだけの俺の防具とは格が違うな。


衣服クロース退魔銀ミスリル糸を織り込みました。見た目は薄いですが鉄の鎖帷子チェインメイルに匹敵する堅牢さを備えています」

 

「私のマントに比べれば多少劣るが、性能は悪くない。しかしだ」

「何か不満か?」


「なぜこんな……なんというかだな」


 なにやら恥ずかしそうに鏡を見る。なんとなく言いたいことが分かった。

 ぴったりした感じでいままでの長めのローブと比べるとかなり趣が違うからな。

 ただ。


「肌はなるべく出さない方がいい。傷を避けられる。タイトな方がいい。森でもどこでも引っかかって動きを阻害したりしないからな。合理的にできているんだよ」

「それに、徹底的に軽く作ってあります。縫製にも工夫を加えました」


 店員が補足してくれた。


「お連れ様も一枚如何でしょうか。魔剣士殿。男性用もあります」


 にこやかに店員が訊いてくる。


「参考までに聞くが、値段は?」

「20000クラウンとなっております。大変お買い得です」


「……遠慮しておく」 

「では次の機会にお願いします。それでいかがいたしましょう?」


「仕方ないな」


 テレーザがもう一度鏡を見て渋々って感じで頷いた。

 店員が恭しく頭を下げる。


「お代はこちらとなります」


 店員が恭しく紙を一枚見せた。

 衣服クロースでも20000だ。革鎧まで含めるとあきれるような価格なのは想像に難くないが……テレーザが眉一つ動かさずに頷いた。



「やはりこちらのほうが落ち着くな」


 暫く待っていると、いつものローブに着替えたテレーザが出てきた。

 杖もいつもの様に浮いている。そういえばさっきは無かったな。


「その杖はどういう仕組みで浮いているんだ?」

「このチョーカーと対になっている」


 そう言ってテレーザが首を指さす。

 紋章が刻まれた留め金をつけた革のチョーカーが首に巻かれていた。

 これも何らかの魔法の装備なんだろう。


「鎧は後でヴェレン地区の風の行方亭に届けてくれ。支払いはその時で構わないか?」

「それで結構です」 

 

 店員が全員頭を下げて守衛がドアを開けてくれた。店の外から人の話し声が飛び込んでくる。

 挨拶に鷹揚に手を上げて答えて、テレーザが路面汽車トラムの駅に向かって歩いて行った。


 しかし、一体こいつは何なのか。 

 俺の中で謎が深まるばかりだ。






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