第2話 路地裏
次の日
冒険者ギルドに行ってメンバー募集の手続きをした。パーティからの離脱手続きはヴァレンがしてくれたらしい。すんなりと話は通った。
ただ、まがりなりにも俺はA帯だ。引き合いはあるはずだ、と思っていたが、何日待っても募集に応じてくれるという連絡は無かった。
その間にも手持ちは容赦なく減っていく。
今日も一応ギルドには顔を出したが、まったく音沙汰がない。
報酬の分配をしていたり、依頼を物色している冒険者を見ると物悲しい気分になってる
「ライエルかぁ」
声を掛けてきたのはアルフェリズの冒険者ギルドのギルドマスター、エンリケだった。
「まだ声はかからないのかい?」
40歳より少し前。
いつも通りちょっと日焼けした顔ににこやかな笑みを浮かべている。ただ目が笑ってないのがちょっと怖い。
いつも通り黒いくせっのある毛を後ろで乱雑に束ねて、白いローブを着ている。
地味な格好でギルドマスターという重鎮と言う感じはあまりしないな。
もと魔法使い。俺が冒険者として活動するより少し前、前衛の地位が上がって魔法使いの地位が下がったところでさっと引退してギルドの職員に転じたらしい。
もともと戦術眼には定評があった人らしく、順調に出世して今やアルフェリズのギルドマスターだ。
冒険者から転身して叩き上げで出世してきたからなのか、個室に引きこもったりせず、割と普通の冒険者にも気楽に声をかけてきてくれる。
ただ表面的には愛想はいいんだが、何と言うか内心が全く読めない。
「生憎と」
「そうか。お前ほどの腕があるのになぁ」
いつも通りの明るいように見えて事務的な感じで返事が返ってくる。
「……どこか紹介してもらえませんかね」
正直言うと今はちょっとした糸口でも欲しい。
「……ギルドメンバーはパーティ編成に口出しはできない」
一転して硬い口調で答えが返ってきた。
予想通りの答えだ。この人は良くも悪くも公平で規則にうるさい。
「戦術的観点からお前の能力を惜しむ気持ちはあるが、規則は規則だ……だが個人的にはお前にオファーがあることを望んでいるよ」
ギルドマスターがどの程度そう思っているのかさっぱりわからない淡々とした口調でそう言って、くるりとカウンターの方に歩み去っていった。
周囲のにぎやかな感じを見ていると気分が沈む。
今日もオファーがなさそうなので、早々に撤退した。
◆
ごとごとと揺れながら坂道を下る
モンスターを倒して得られるライフコアを砕いて魔力源にする
窓越しに流れる景色を見た。
通りには普通の市民に混ざって冒険者たちの姿も見える。
ここアルフェリズは低いいくつかの丘にまたがる都市であり、モンスターの進出を阻む城塞都市でもある。
……冒険者はいっぱいいるが。だが俺を必要としてくれるやつはいるんだろうか。
全くいないんじゃないかという気分になる。
確かに一度成立したパーティに新メンバーを入れるのは結構面倒だ。
連携も変わるし新規メンバーとの意思疎通には難しさがある。そいつが厄介者の可能性だってある。
勿論俺もそれは知っている。
ただ、俺自身はそこまで弱くはないと思う。長くやってきているし、一応冒険者ランクもA帯だ。上位と言って良いはず。
正直言うと引き合いはあると思っていたが、甘かった。
「二週間か……ここまで声が掛からないとは……」
今までならなんだかんだで次がすぐ決まっていたが、今回は全く駄目だ。
要するに、本当に中衛の錬成術師というポジションが必要とされていないということなんだろう。非常に暗い気分になってしまう。
赤と白のレンガで作られた町並みは普段は明るく見えるが今は色あせて見えた。
俺みたいなはぐれた冒険者は
道の隅で一人立っている姿を揶揄する表現だが、その言葉は正しいことが身に染みた。
「一人でやってみるか……いや」
一瞬考えたがその考えは打ち消した。
隊商の護衛程度なら兎も角、魔獣との戦闘を伴う討伐や採集は論外だ。
一人で戦うのは危険すぎる。たとえそれがどんなザコであっても。
「車掌ね」
職にあぶれたり大きなけがを負って引退した冒険者が車掌を務めることも少なくない。
そういう点では最悪でも食いっぱぐれることはないともいえる。
それがいい話かどうかは別として。
腰に差した愛刀を見た。風の魔力をこめた5年来の相棒だ。
これを売れば一財産にはなるだろうな。売れば引退は確定だが。
まだ戦えるとは思う一方でもう潮時かな、とも思う。
今は28歳。冒険者としてはもう若くはないのだ。
●
「まってたぞ、ライエル」
昼下がりの風の行方亭に戻ったらマスターがすぐにこっちに来た
「どうかしたか?」
「お前をパーティにほしい、という人がいる」
どんな物好きだ、という言葉を飲み込んだ。
隠居して車掌をやるのは最後の手段。冒険者として戦えるほうが稼ぎが圧倒的に良い。
それにわざわざオファーを出してくれるっていうなら、そう簡単には戦力外通告はしてこないだろう。
ただ、マスターが嬉しそうというより何やら微妙な顔をしているのが気になるんだが
マスターががらんとしたホールの一角を指さす。
指さした先、窓際のテーブルに座っていたのは、青みがかった銀色の髪の女の子だった。
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