無題

匿名

無題

あの頃の僕らは無敵だった。公園でカードゲームをして、友達と映画のVHSを見て、対戦ゲームをして。遊びすぎて怒られて、それでも懲りずにまた集まって。

今となっては「今度遊ぼう」なんて当たり前のように嘘をついて1人でいる時間ばかり増えた。あの頃の僕らは秒単位の時間さえ搾り尽くして遊びまわったのに、今ではただ動画を見てSNSをして無意味に時間を浪費している。

時間を有限だと理解した大人達より、時間は無制限にあったはずの子供達の方がより世界を遊び尽くしていた。

いつからだろう。僕が死のうと思ったのは。

あの頃の世界は優しかった。正確に言うならば、悪意が見えなかった。

多分僕たちを嫌う大人達はたくさんいたのだろう。でも低い目線で、少ない語彙で見上げる空は広く高かった。

目線は高くなった、公園のブランコなんてもう座れないんじゃないかな。数多の語彙で嫌う言葉を吐いた。吐かれた。読んだ。眺めた。インターネットの普及とともに悪意は流れ込んできた、沢山の善意もあった筈なのに。

いつからだろう。空を見れなくなったのは。

上を向いたら顔が見えるんだよ。視力を補強してまで生きているのに、人の顔だけが覗けない。それはきっと、顔の中の心まで考えてしまうからだと思う。

正面を向いて話せるほど昔から堂々となんてしていなかった。全力で努力なんてバカげてるなんて嗤っていたら、努力の仕方も忘れてしまった。

俺は何がしたかったんだろう。ゲームを作りたかった、アニメの話だって考えてたさ。宇宙飛行士にだって憧れてた。歌だって好きだったよな。

何か成し遂げられたか?

言い方を変えよう。何かを成し遂げようとしたか?

何も出来ていない、何も始めてすらいない。血の滲む努力なんてしたくない。僕にはそんなことは出来るわけがない。

二束三文でも売れやしない廃棄物の自尊心だけ立派に育った。たまごっちだって育てられなかった俺が良くできたもんだよな。あれは学校に持って行けなかったから、家に帰ると死んじゃってたんだっけ。

虎にもなれないさ、こんな世の中じゃいい笑い話だ。声を気付いてくれる友だって居ないだろう。遠吠えなんてした日には、家の壁なんか叩かれたりしてね。

こんな話聞いてどう思った?つまらないと思ったか。

僕もそう思うよ。

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無題 匿名 @Muser_wga

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