第51話 そういやさくらんの撮影で使われたんだっけ権現堂

 4月になれば桜は満開となり、3月末からは既に屋台なんかも出ている。

 勝太郎は年中客が入ってるのに、花見シーズンは一層来客が多い。

 幸手市商工会も鷲宮と同じで迷走している。


 地酒の幸手にらきすたラベルは……。

 鉄道むすめの栗橋みなみちゃんもいる。

 声が……馴染めないのであまり応援していない。

 

 さて、聡明な皆様ならここまで言えばお気づきかと思われますが、権現堂の桜堤に来ております。


 前に軽く紹介した西口セブンイレブン脇の川沿いに歩いてやってきました。

 既に友紀さんは少しお疲れのご様子。

 でも本当は歩き疲れたからではない事を知っている。

 

 不特定多数の男性がいるため、足が思うように進まないという事を知っている。

 乗り越えたとはいっても実際集団の中で平気になったわけではない。

 それに無理をして急いで慣れる必要もないのだが、友紀から花見を一緒にしたい、人の集団は頑張るというたっての願いだったので権現堂に行くことにしたのである。

 


 途中、屋台でラムネと焼きそばを買って、メインストリート中程にある椅子で小休止。

 水分は何かあってはいけないと水筒も持参している。

 「祭りといえばラムネと焼きそばかなって。」


 子供かと言いたくなるけど、屋台のこうした飲食物って妙に食べたり飲んだりしちゃうんだよね。

 それにしても人が多い。友紀さんじゃなくても人酔いしてしまう。

 土曜日だから仕方ないのだろうか。

 一応満開ピークは数日過ぎたんだけどね。


 目の前のパチンコ屋も賑わってるな。

 そういえばまだ杉戸高野台駅が出来る前、バスで幸手駅から幸手団地に帰ると、途中にパチンコ屋のコンドルって店があった。

 パのとこの電球が一式点灯してなくて『チンココンドル』と2段で点灯してたんだよなーと思い出した。 

 

 流石に奥までの1.6kmは歩いて行けないかな。

 すれ違う人の量を考えると。

 

 焼きそばを食べ終わり、ラムネも飲み干すと空容器をゴミ箱に入れ、メインストリートから降りて土産物を売ってるテントを見に行く。

土産物屋を買うためなんだけれど、なんでかと言うと。


 今日は天草家の都合が合わなかったので2人きりなのだ。

 いわばデートなのだ。土産何か寄越せと言われました。

 ちなみに妹からもだ。まだウチの家族とは会ってないのでウチの家族と花見ってわけにもいかない。

 じゃぁ金子家はとなるけど、せっかくだから二人でデートしてきなさいと言われたそうな。


 これで何かあって友紀さんに嫌われたら、生きていける自身ないな。いろんな意味で。

周りをこれだけ固められてるからね。

 破談になったら、命奪われるかも。


しかしお土産ったって、地元の人に地元の物買って来いと言われても、酒か米しかないような気がする。

 饅頭と米で良いだろう、友紀さんの実家にはそれに加えてさくらの入った酒はありかな。

 なんだかんだと悩みつつも三つの家庭にお土産。酒2本は重いな。米も1kg2個だしな。

 饅頭だけなのはウチだけか。

 

 やはり車で来るべきだったかもしれない。

 「このまま下側から東へ行って、そっちの入り口から撮影する?入り口がアーチになってるはずだから。」


 2人は荷物を(ほとんど自分がだけど。)持って東側へ。


 ようこそ権現堂へのアーチ門を発見する。

 東側には桜と菜の花以外の花も植えられてる。

 ある意味穴場スポットである。


 「結構撮影しましたね。」

 

 たくさんの写真を撮影。撮影しているお互いの姿をも撮影。

 花や桜を見にきてるのか、撮影しにきてるのか、どちらもなんだけど時間も経ったせいか小腹の一つも空いてくる。


 ピークも過ぎたのか、ストリート上の人も少しはまばらとなり、屋台に向かうにはちょうどいいのかもしれない。

 友紀さんに大丈夫そうか聞くと、多分と返ってきたのでアーチをくぐり桜を鑑賞しながら屋台の方へと歩み出した。


 当然途中桜も撮影する。色々な角度や技法を駆使して撮られた桜はとても綺麗だった。

 君の方が綺麗だよとか言いたいけどベクトルが違う、比べるものではない。


 悔しいけど自分が撮影した写真より、友紀さんが撮影した写真の方が同じ花びらなのに全然違う。

 年期の違いだろうか。


 屋台でお好み焼きとたこ焼きとカステラを買って道反対側の広場へ。

 ここでレジャーシートを張って桜と菜の花を鑑賞しながら酒をやっている人が多い。


 酒飲みの中に混ざるのは一抹の不安があるので、若干人の少ないいかにも寄ってますという人が少ない箇所にシートを敷いて座った。


 今日はたくさんの炭水化物を摂取してるなぁなどと思いながら食事する。

 飲み物は友紀さんが持ってきた水筒の中のアイスティ。

 食べ物も水筒も間接キッスなのは言わなくてもわかるよね。

  

 「食べたー。」

 こちら側には全国の桜の若木が植えられている。

 各地でいろいろな桜があるんだなと、素人ながらに教えられる。

 ソメイヨシノだけじゃないんだよ。


 すると友紀さんがすすっと近付いてきて

 「膝枕しても良いですか?」

 そう言ってきたので、喜んで腿を貸し出した。

 「動物公園の時は俺がしてもらったしね、そのお返しになるかな。」


 うん、と言って友紀さんは俺の腿に頭と頬を乗せた。

 横顔しか見えないけど、なんだろうか。髪を撫でたくなってくるのはなぜでしょうね。

 「綺麗な黒髪だよね。」


 ちょっと赤くなった友紀さんは

 「な、撫でても良いんですよ?」

 

 「じゃ、じゃぁ遠慮なく。それでは失礼します。」


 そっと赤ちゃんのお尻を撫でるように優しく友紀さんの髪を撫でた。

 さらっとして気持ち良かった。いつまでも撫でていたくなるような。


 「さ、流石に長い時間は恥ずかしいので…」


 

 15分くらいそうして膝枕をしていただろうか。

 ふと周りを見渡すとこの光景というかアングルに見覚えがあった。  

  

 そういえば映画『さくらん』で使われてたんだよな、権現堂の桜と菜の花が見えるアングル、ラストシーンで。


 「さて、そろそろ帰りますか?」


 気付けば15時は過ぎていた。桜も咲いて暖かくなってはいるが油断しているとまだまだ冷える。

 ちょうど薄着になりかけてまだ身体が慣れきっていない時に冷やすと身体を壊してしまうかもしれない。


 それに行きに通ったルートは街灯がないので、想像以上に暗く感じる。

 シートを仕舞い、ごみを捨てたところで気付いた。

 「荷物多いから歩くのはきついかな。」


 と4号線の歩道に出たところで

 

 「へい!そこのラブラブバカップル!車をご所望かな。たこ焼き1パックで乗せてってあげるよっ」

 最近聞いたばっかなこのやかましい声は…


 「千奈か。」

 邪魔したくないとか用事とかあるとか言ってなかったか?


 「千奈さんのお兄様、チィーッス!」

 ついでにいくつかのちょっと怖めの女の子複数の声が聞こえた。


 あー、うん。ろくでなしブルースとかに出てきそうな強面の、でも美人な女子が数人挨拶してきたよ。


 「あぁ。こんにちは。今日は屋台やってたの?」

 でも違和感なく俺は彼女らに話しかける。


 どうやら千奈のお仲間は俺達が買ったたこ焼きの屋台とは別の場所だったみたいだ。

 知ってたら最初からこっちで買ったのにな。


 「たこ焼き1パックって、お前が食べるの?それともここで買ってけという事?」

 自分らで作ったものを兄が買って、それを妹が食べるとかナニソレ。


 「お兄様、そちらの麗しいお方は?」

 屋台の中から一人の女子が語りかけてきた。


 「俺の嫁さん…になってくれる予定の友紀さん。君らとは正反対だからビビらしたらだめだよ。」

 何がとは言わない。それにこの子らも見た目は強面だが、心は純真なのだ。

 

 「やですねー、お兄様の奥様ってことは、千奈さんの姐さんなんッスから。ウチらにとっても姐御ッス。」

 何そのプリニーッスみたいな、矢部君みたいな見事な「ッス」は。



 「というわけで、2個もらおうか。」

 お兄様からお代は取れないッスとかいうもんだから、そういうわけにはいかない、商売は~と言い聞かせて千円を払う。


 「うおー。伝説のお兄様の手が触れた千円札ッス。家宝にするッス。」

 いや本当に「ッス」が好きだね。というかちょろまかしたら、屋台取り仕切ってる商工会と怖い人に目を付けられるよ。

 それに俺を神格化するな。大した人間じゃないんだから。

 千奈の兄ってだけで持ち上げすぎだろ。


 「ねー。でも私、本気でタイマンしたらおにいちゃんに勝てる自信ないよ。」


 「俺だって可愛い妹を殴れるわけないだろう。」


 「出た、お兄様の天然ジゴロッス。」

 何か聞こえたが、流行ってるのか天然ジゴロとッスは。


 焼きたてのたこ焼きを2パック受け取り屋台を後にする。

 元レディースの彼女達が「お幸せにーッス」と叫んでくる。

 恥ずかしいんだよな、友紀さんも照れて真っ赤だし、ついでに千奈も。なんで?

 

 千奈の車までくると…

 「あれ思ったより普通の車だな。てっきり喧嘩上等!とか男には媚びぬ引かぬ省みぬ!とか描かれてると思ったよ。」

 いつの時代の族車だよと突っ込まれてしまった。


 だけどあぁ、見えてしまった。

 トランクに、『マッポ上等!』とピンク色の塗装がされているのを。


 「なぁ…」


 何も言わないで、中古で買ったんだけど最初の車検がすぐきて、あの子のとこに出したら此れ描かれて戻ってきたの。と言われた。


 「流石に二重の極みで殴ってやったよ。」

 殴ったんかい。

 もう口調が男になってるよ千奈さんや。


 消すのも悪いしそのまま乗ってると。


 「面白い人達でしたね。」

 友紀さんあんたこの数分何を見てたの。

 面白い子達ではあるけど。


 「それで屋台で働くまでに怪我が治らなくて、代わりに手伝ってたんだよ。」

 それごく最近の話ってことですよねぇ


 よし、たこ焼きが冷めてしまうから車の中で食べてしまおう。


 助手席には友紀さんが座る事に、俺は後部座席に。

 荷物もあるしね、揺れて落ちたら大変だ。

 そしてなぜか1パックを友紀さんと千奈で半分こ。

 1パックは俺が全て平らげる事に。


 夕飯は無理かな…


 「では出発しんこー茄子のおしんこー」

 春日部の幼稚園児か。

 


 この後、運転手を千奈にしたのを後に後悔する事になる。



――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 元レディースの子らの名前は特にありません、チーム名も。

 彼女らが真人に一目置いてるのは理由があります。

 兄だからというだけではこうは慕われないかと。

 

 真人が彼女らを平気な理由もあります。

 男の娘とかではありませんが。

 語る時はあるのかないのか。


 中々夏になりませんねぇ


 水着が思いつかないからじゃないんだからねっ

 スク水で良いやとか思ってないんだからねっ

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