第24話 更衣室にドキドキは転がっていない。だって男子更衣室だもん

 車を降りたところで全員の自己紹介が終わった。


 「姪っ子か~よくこんな逸材見つけましたね。」


 白米さんが尋ねてきた。


 「たまたま電話を横で聞いてた氷雨ちゃんがやりたいと言ったみたいよ。親御さんの了承も取れたので今回参加してもらいました。」


 真理恵さんが答えた。


 「よろしくね~氷雨ちゃん。」


 氷雨にはまだハンドルネームとかコスネームとかないのでそのまま本名である。

 端から聞けば、本名なのか偽名なのか判断し辛いし良いかと親である霙の承諾済である。


 「よろしくね~おねにーさま」


 はっ何その懐かしいフレーズと俺は思ったが、みゅいみゅいさんは一言で言えばおねにー様と言っても過言ではないのである。


 マジでこの中で一・二を争うくらい女性っぽいし。でもツイてるし。


 「あれ?この子私の本質見極めちゃってるね。」


 と言うみゅいみゅいさん。


 偏見があるかもしれないけど、この業界同性愛とか両刀とか結構いる。


 目の前に実際一人いるし。


 性を超えた素晴らしいものなのかもしれないけどね。


 みゅいみゅいさんは男性である事を否定し女性である事を否定しない、どっちも兼ね備えてるという感じだ。


 恋愛対象も性の対象も両方だそうで。


 それはともかく、自己紹介が終わったのだが…


 まだ友紀さんと話せていないのである。


 


☆☆☆


 これ、多分真理恵さんの策謀だよな。


 友紀さんと真理恵さんは昔からの知り合いらしい。


 というか五木さん含めて高校の先輩後輩だとも紹介された。


 うん、やっぱり何かの意図を感じる。


 更衣室で着替えを終えるとみゅみゅいさんが爆弾を投下してきた。


 「そういえばまこPさん、ゆきりんさんを大晦日の日に家まで送ったんだって?」


 なぜ知ってるし、あー真理恵さんだなコンチクショウ。


 個人情報とかどこいった。プライバシーどこいった。


 「ええ、まぁ。駅前で人身事故の影響で電車が止まってて、声をかけたらそういう話になって。」


 「へたれのまこPさんがよく声かけましたよね。」


 中々辛辣だなーみゅいみゅいさん。まぁヘタレとか否定できないけど。


 「なぜでしょうね、駅と会場を交互に見てた姿を見たら思わず声かけてました。」


 「惚れたな…?」


 ストライク過ぎるだろー


 「なな、そんなんじゃないです。ほっとけないなと思って。」


 「まーそういう事にしときましょう。ちなみに他の困ってる人には声かけてないんですよね。」


 みゅいみゅいさんは続けて質問する。


 「確かに。不思議と惹かれていたのは事実だと思ってます。」


 それは一目惚れもしくは既に惚れてる、もしくはそれに近い感情じゃないかとみゅいみゅいと白米は思った。


 「それはさておき、一押しのレイヤーさんと一緒に合わせが出来る事になってよかったじゃないですか。」


 白米さんが真面目に言ってきた。確かにその通りである。


 以前にどこかで会えたら一緒にという話はしたけど、まさかこんなに早く実現するとは。


 それも共通の知り合いの手によって。


 「うちの嫁がいろいろ合わせに関して動いていたので…」


 五木さんは忘れられていた。


 「意図はどうあれ、楽しみますよ。」 


☆☆☆


 「じゃじゃーん」


 真理恵さんがうざったらしく登場した。

 金糸雀らしいかもしれない。


 ある意味女性人の纏め役だろうし早めに出てきたのだろう。

 友紀さんは雛苺をやる事になった氷雨ちゃんの着替えで忙しいそうだ。

 まだ4歳ということでメイクはしないとのこと。


 「これだけ人がいると纏めるの大変ですよね。」


 「そんなこたないですよ、旦那が男性陣を纏めてくれるでしょうし、女性陣は一応私が纏める事になってるし。」


 と話していると更衣室から友紀さんと氷雨ちゃんが出てきた。


 「あ、あにーちゃんがかわいくなってるー」

 と言って突進してきた。

 ぼふっと受け止めたがその瞬間を真理恵さんに撮影されていた。


 「おぅ、元気いっぱいだね氷雨ちゃん。というか真理恵さんそれ盗撮…」


 「盗撮じゃないよ、ゆきりんさんと氷雨ちゃんには更衣室で撮影許可貰ってるし。」


 「そーだよー、今日はみんなでいっぱい写真撮るんでしょー。」

 俺の許可は?まぁいいけど、仲間内だし。


 「今日はよろしくお願いします。ゆきりんさん。」

 声を掛けられた事に驚いたあと少し残念そうな顔をしていた。


 「こちらこそよろしくお願いします、ま、まこ…Pさん。」



 真理恵にはわかっていた。友紀の残念そうな表情の意味が。

 呼び方について残念がっていたのが。

 でもここは本名ではなくコスネームで呼び合うのが通例、仕方のない事でもある。

 真理恵は五木の事を旦那と呼ぶ事が多いが、旦那は真理恵と呼んでいる。


 このメンバーがもっと深い仲になれば本名で呼び合っても悪い事ではないとも思ってる。

 果たしてそんな時がくるのか。


 なにはともあれ賽は投げられた。


 これからはずっと真理恵のターンなのだ。

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