第16話 参拝時は住所と名前と感謝を述べるようです。
本殿までの列は長い。
友人、恋人、夫婦、家族……色々な人が並んでいる。
どうみてもヲタな人も見かける。
人の多さに反して大きなトラブルも見当たらないし、一時期に比べたら人数が多いだけで普通の参拝だと思う。
ふっと横を見る。
ちょこっと視線を下に落とし、小動物のように袖を持つ友紀さんが可愛い。
(なにこれ、本当に1年分の運とかが今日に集中してない?
もしかしたら来年の分も?
俺、来年死ぬの?魔法使いのまま死ぬの?
友達になれたのが嬉しかったのかな。
でもそれにしては顔赤いけど…寒いのかな?)
心の中で真人は色々考えては照れて悶えていた。
真人はこの歳になってから異性の友達は嬉しい。
会社と家の往復がほとんどなので友人知人は増えない。
実際コスを一緒にした仲間くらいしか仕事以外の付き合いがある人いない。
結婚も半ば諦めかけていた。
そこにきての友紀との出会いである。内心でひゃっはーしないわけがない。
2~3歩進んで一旦停止を繰り返す事30分。
並び始めてからはほとんど会話出来ていない。
(トイレ我慢してる……じゃないよな。←バカ
やっぱりおばちゃんの言葉で照れてるってのが濃厚だけど……
引きずり過ぎやしませんかね。
あ、いけね。思い出したら俺まで意識し始めちゃった。あ、これ照れ臭いは。
やっぱそう見えたんだろうか。)
おばちゃんも伊達に年齢重ねてない。商売上色々な人を見てきてるのだ。
ただの友達とそうでないのとでは違うのを見分けられても不思議はない。
真人はドンキーの頃から、友紀の表情がたまに赤くなったりしてるのを見てはいる。
それで自分に気があるのではと考えるのは危険だと感じている。
もちろん友紀が、そんな気もないのに勝手に勘違いしないで、気持ち悪いとか言ってくる可能性もゼロではない。
しかし例え気がなくてもこれまでの対応から、そういう言い方はしない人物だとは察している。
高校の時のあのクソ女とは違うのだ。クソクラスメイト達とは違うのだ。
自分にそう言い聞かせながら……友紀を見ていると和んでくるのがわかる真人だった。
友紀をそっと見ていると……童貞センサーが反応して……いない……だと?
注:童貞センサーは悪女の騙しとか、よいしょとか美人局的な事とかに過敏に反応する。
童貞ヲタという種族が身に着けた最終防衛障壁なのだ。
たまに高校時代の事を回想してるが、当時はまだこのセンサーを持ち合わせてはいなかった。
その結果が示すものは……友紀は良い子だ、それは間違いないということである。
そうするとこの沈黙は何であろうか。真人の心臓はドキドキと鼓動が早くなっている。
鏡がないからわからないだろうが、真人の顔も真っ赤なのである。
真人は心の中で「うるさいっ心臓の鼓動よ止まれ……って心臓止まったらじきに死ぬわ。」そうツッコミを入れていた。
「……っ……さん、真人さん。もう少しで私達の番ですよ。」
はっ……そして真人の時は動き出す。
友紀に呼ばれて焦点を合わせると、確かにあと3グループくらいしか前にいなかった。
(ん?何か違和感が……)
(あ……呼び方!)
「わんもあぷりーず。」
「へ?」
友紀は驚いた表情で聞きした。
「あぁあ、あの呼び方……本名の方だったので。」
今更気付いたお互いの呼び方。随分前から名前で呼び合っていたのに。
「ああああ、ごご、ごめんなさい。つい……」
慌てて謝る友紀の姿は可愛かった。あわあわしていて可愛い。中学生と間違えられても可笑しくないくらいの戸惑い方である。
「あ、いえそうではなくて、家族以外に下の名前で呼ばれたの随分久しぶりだったんで。」
嬉しくてちょっと涙が出ちゃいそうな真人。
「なんか……良いなって思って。」
素直に呼んで欲しいと言えばいいだけである。
「そ、それじゃぁ私の方も今後は本名でお願いします。」
だから大分前から名前で呼んでいたのだが気付くのが遅い。どれだけフィルターがかかってたのだろうか。
「えぇぇ?そんな恐れ多い。」
手を振って反対アピールをしたが。
「ぶー、平等じゃないです。そういう事言う人嫌いです、パート2」
「あ、ハイ。友紀さんと呼ばせていただきます。呼びます。」
「よろしい。」
どうやら友紀はこれにて再起動完了したようだ。
なんて会話をしていたら自分達の番が回ってきた。
財布から555円(500円玉、50円玉、5円玉)を取り出し賽銭箱に投入する。
なぜ555円なのかは某仮面なライダーさんの影響ですと真人は答える。
5円は御縁がありますように等の意味を孕んでいるといわれているし、所謂縁起物というものである。
そして2礼2拍手1礼する。
同じタイミングで友紀さんも行っていた。息ピッタリだった。
……………
それから拝礼所でおみくじを買い引いてみる。
友紀は何吉だろうか、気になって真人は友紀の方へ向いた。
………へんじがないただのしかばねのようだ。
さっきから友紀さんが少々ふくれっ面である。
真人はその理由が何かわかっている。
先程の参拝で何をお願いしたか教えなかったからだ。
恥ずかしくて言えるか!!と、言えれば良いんだけど。
参拝における一人当たりの時間というのは短い。限られた時間で何かを言うのが間違いである。
参拝時は昨年の礼を言うのが良いとされている。
故に真人は昨年一年の感謝を述べた。
正確には住所と名前と感謝を告げた。
欲張って、新年は旧年よりも充実し満ち足りた1年でありますようお願いします。
なんてつけ添えたなんて言えないが。
抑々アバウトだし、聞き取りようによっては友達以上の関係になりたいとも受け取れる。
恥ずかしくて具体的になんて言えるはずもない。童貞舐めんな神様と真人は思う。
さらに欲張ってもう一つお願い……というか意見を問いかけた、神様に。
それは今は言えなかった。
「教えるんで許してください。」
真人は根負けした。
五木さんの事を強く言えない、男は女に弱いのだ。
男は女の尻に敷かれるのだ。
「住所と名前と、神様に旧年の感謝の言葉を伝えたんですよ。」
するとふくれっ面を見せていた友紀さんは驚き……
「私も……です。」
なんだよもう息ぴったりじゃんパート2が発生した。
「素敵な出会いをありがとうございますって。」
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やっと参拝出来ました。長かったです。
本当は並んでる時に会話とかさせたかったけどグダりそうだったので照れて終始無言となりました。
さて、最後のセリフはどっちが言ったのでしょうね。
それにおみくじの結果は?じゃかじゃん
ようやく次、家に送れるよ。
今話の友紀さんサイドを交えて帰ります。
拗らせてるから何もありませんよ。
童貞はその辺警戒心強いはずです。
それと自分なんて……とも思う生き物です。
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