第12話 魔法使いは極めれば賢者になれると聞いた気がする。でも胡散臭い黄昏の賢者にならすぐなれるよ。
「大丈夫?」
真人はお花摘みから戻った友紀さんの様子がおかしかったので心配になる。
食べ過ぎた?飲み過ぎた?いや、そういうのとは違う。表情が暗い、何かあったのだろうかと。
「あ、いえ。大丈夫です。」
そう言った友紀さんは強がってるように見えた。男の勘だ。
ただ、踏み込んで良いのかわからない。これが10年来の友人なら聞けたのだろうけど。
「何かあったら、遠慮なく言ってください。一番好きなレイヤーさんであるゆきりんさんのためなら死ぬ以外の事ならなんでもしますから。」
途中の過程を色々飛ばして既に付き合って1ヶ月くらいのカップルの会話に聞こえてくる。
そのくらい一気に距離の縮まっている。
「え?え?ははは、はきゅ~ん」
そのセリフ大丈夫ですかね、2005年くらいに一大旋風巻き起こしましたが。
友紀は再びテンパりました、沈んでるよりは良いだろうけど。
友紀の表情は、「ザー…ボンッ」て感じで、沈んだ表情から照れた表情に素早く変わりました。
そもそも良く考えたら分かる事だが、一番好きな〇〇とかなんでもするとか……歯の浮くようなセリフを放った真人のせいである。
そういう意味で言ったわけではないが…じゃあどういう意味だと言われても困るけどさ。
こういう時は三十六計逃げるにしかず。
「俺もお花摘んできます。」
いそいそとトイレに向かう。
「あー、自分でも何を言ってるんだか。中高生の初々しいカップルかっての。」
そう言って気付いた。この感情はそれに近いのではないかと。
異性として意識している。まともに会話したのなんてまだ数時間前なのに。
鏡に映る自分の顔が赤い。酒は飲んでない。つまりはそういう事なのだろう。
意識するの早すぎない?世の中にはビビビと来たといって結婚まで早い人も存在はするけども。
童貞か、みんな童貞が悪いのか。
ちょっと会話出来たらみんな彼女か。
いけない、それは飛躍しすぎだ。でもそうか、10年以上そういう相手いないし、積極的になれなかったけど。
いや、高校時代のアレはノーカンだ。思い出しただけでも反吐が出る。というかせっかく食べたものがリバースしてしまう。
ゆきりんさんと、友紀さんと同じ土俵で考えちゃだめだ。
でもだからこそ先走ったり強引にいったりしてはいけない。過去の過ちはもう御免だ。
信じて裏切られるのは御免だ。
ここまでを思い出して、真人は少なくとも嫌われてはいないはず。
ならばどうやって関係を向上させて行くか……まずは文通から…って昭和初期かよっ
鏡の前で一人妖怪百面相をしていたところに電話がかかってきた。
個室三つあるしちょっとくらい良いかな?と思い、個室に入る。
相手の名前を確認して通話ボタンを押した。
「もしもし?」
「しもしも?」
電話の相手からは昭和のギャグで返された。声でわかるがこういう事する人は超少ない。
抑々電話帳に登録している人数は少ないのだが。
「どうしました?真理恵さん。旦那さんが構ってくれないとかいう電話じゃないですよね。」
「あ、いやそういうわけではないけど。ちょっと聞きたいことがあって。」
そう言って切り出した真理恵さんの声は至って真面目に感じた。
「あ、はい。」
いつものノリならスリーサイズ以外なら答えますよと返したところであるが、そういう雰囲気ではなさそうだった。
「今日、一人で撮影行ってる時に名刺貰った人、覚えてる?」
ん?どういう事だろう。
「ゆきりんさんの事ですか?昨年の冬○ミでおとなしい方の進藤たんコスしてるの見て、凄いな~懐かしいな~俺この娘好きだったな~この人再現半端ないな~って思ったのがきっかけで気になってました。」
「その時に名刺もらったんですけど、あ、その名刺のキャラは東鳩のマ○チだったんですけど、これもまた凄くて……でもそういえばマ○チの時の表情は凄い明るい感じがしていて、輝いてるなって思いましたね。」
「そ、そう。どこで息継ぎしてるのってくらい捲し立てるからツッコめなかったけど、陶酔というかコアなファン魂みたいなのを持ってるのはわかったわよ。」
少し呆れた感じで返された。確かに信者みたいな怒涛の褒めラッシュだったと思う。
でも、五木さん達に誘われたからという理由だけで今回コスはしていない。
昨年のゆきりんさんのおとな進藤たんに出会ったから始めたと言っても過言ではない。
もしかしたら一緒に一枚の写真に入れるかもなんて下心はあったかも知れないけど。
「まこPさん、貴方、彼女の事どう思ってるの?」
ん?これはどういう質問だ?
「笑顔を見たいと思ってます。」
携帯の向こうの真理恵は「は?」となってるに違いない。
真人は自分で言っていておかしい事に気付いている。
「マ○チの時と進藤たんで違和感を感じたんですよね。表情にフィルター掛かってるというか。コスの再現度は尊敬に値するんですけど。」
「うまく言えないけど、1枚仮面を被ってるような?せっかく知り合えたし、またマ○チの時みたいな生き生きしたコスを見たいと思ってます。」
それは偽りも飾り気もない素直な言葉だった。
真人のその言葉は電話先の真理恵にも伝わったようだ。
「そう、ごちそうさま。貴方はそのままで良いと思うよ。また近いうちにイベントかスタジオか誘うと思うけど、もしよかったら参加してね。そうね、多分進修館とかかな。」
そう言って真理恵さんは先に通話を切った。
なんだったんだろうか。
トイレから戻ると友紀さんの表情は戻っていた。
「そろそろ出ましょうか。遅くなってしまいますし。」
「そうですね。長居してもお店に迷惑ですし。」
会計を済ませて車に戻ろうとする。
「あの、自分の分くらいは払います。」
「いいんです。いろいろな表情を見せてくれたお礼です。」
然程インパクトのある言葉ではないのだが、色々意識をし始めている友紀にはヒットしていた。
「ぷしゅー」
いやほんと、面白い。本当にころころ表情が変わって……と思うと。
「あははっ」
真人はつい笑ってしまう。
「もー!もーっ!」
ぽかぽかと友紀さんが背中を叩いてきた。
なんか自然な友紀さんを見た気がする。これが本当の姿なのかもしれない。
真理恵の電話で言った時の事は気のせいだったのかな?
店員が最後に挨拶をしたのだが、「ありがとうございました。」の後に「このバカップルめ、ごちそうさまでした。」と言ったような気がした。
車に乗る前に友紀さんが荷物から何か出したいというので取り出した。
そして少ししゃがんでと頼まれた。
友紀さんは慣れた手つきで俺の頭に手をやり、持っていたネットを被せた。
そのままはみ出ていた髪の毛をネットの中に収めて…
シルバーのウィッグを俺に被せた。
「うん、やっぱりエ○リーのウィッグは良いね。」
あ…
「あ、私ついタメ口を…」
「別に良いですよ。30にもなったけど、そういうのあまり気にしなくなりましたし。」
「そうですか。それなら真人さんも敬語は基本なしで…お願いします。というか私も30ですしおすし。」
色々カミングアウトをしているが、友紀は「真人さん」と自然に呼んでいた。
「えーーー!マジで?タメ?え?24くらいかと思って…た。」
敬語なしは徐々になれていきましょう。ぎこちないのでという結論に落ち着く。
「マジです。30です。魔法使い上等です。女だから、魔女になっちゃいま……あ」
なんかとんでもないものをぶっちゃけちゃた友紀。
なぁにぃ、やっちまったなーって顔をしている。
ここは場を収めなくては…
「だ、大丈夫。俺も魔法使いだから。」
ここは男がさらなる恥で上塗りしてスルーするのが優しさである、と真人は信じている。
俺達バカなの?ねぇ、バカなの?
会話して数時間の関係なのに年齢とか魔法使いバラすなんてバカなの?うましかなの?誰得なの?
二人して失態に恥ずかしさのあまり真っ赤となりそれ以上の言葉が出てこない。穴があったら入りたい事だろう。
「そのウィッグとても似合ってますよ。シルバーだと日本人離れして見えがちだけど、真人さんにはとても似合ってます。」
唐突に話を軌道変更をする友紀、このままでは凍死してしまうのでナイス軌道変換である。
「そう?普段使いしたことないからわからないけど、というか友紀さんは今日最初からウィッグですよね。」
敬語なしは中々難しそう、しばらくは敬語とタメ口とが混ざるなと思った。
そしていつの間にか真人も「友紀さん」と呼んでいる。
聞けばやはり女性レイヤーは、コスの帰りは帽子だったりウィッグだったりで跡を隠す人が多いらしい。
キャラクター用ではなく自然な色や髪型であれば、知らない人が見れば地毛にしか見えないとのこと。
エ○リーや秋葉原にあるコス○ードのウィッグは質が良い。
「あ、いい加減寒いよね。乗って。家の場所はなんとなくわかるし。」
俺は振り返り運転席へ行こうとすると背中をつまむ彼女の手が伸びていた。
「……まだ、帰りたく……ない。」
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後書きです。 補足も兼ねてます。
え?帰りたくないって……何度も言うけど会話して数時間の関係っすよ?
友紀さんの真意や如何に。
少なくとも男女の云々ではないのはゲロっときます。
魔法使い同士がそう簡単にそういった事しようとするはずないじゃない?
そもそも現状恋人ですらないし。
ヲタである事、2人の住んでる地域と今日が大晦日である事を加味すれば答えは一つしかございません。
その前に、次は幕間的な話で、電話をした真理恵たんサイドに焦点を。
「ちょ、私聞いてないよー」
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