第8話 後輩の嫁も腐ってるっぽいよ。そして再会。

 みんなと合流した後しばらくして携帯が鳴った。


 「先輩、嫁が迎えに来るんで15時前に撤収したいんですけど、片付け手伝って貰っていいですか?」


 後輩はこの後嫁さんと娘と合流し嫁さんの実家に行くことになっている。

 

 子供が生まれてからは嫁さんの実家で年越しするのが通例となっているらしい。


 コ○ケと被る今回はハードだと会社で言っていた記憶がある。


 「あぁ。すぐ行く。」


 チケットの恩があるのでこの辺は想定内の仕事である。


 「すいません。会社の後輩が撤収するのでスペースの片付けに行ってきます。皆さんはこの後どうされます?」


 「僕たちはもう少し撮影巡りして15時過ぎには撤収を考えてます。一応自分のサークルを妹に任せっきりなので。」


 五木さんはコスプレで使う小物系を作成するサークルを営んでいる。趣味が高じて作成するうちに商品に出来るんじゃない?と思ってサークル参加したら思いのほか売れたらしい。


 それ以来自分と同じくチケットをエサに五木さんの妹も売り子をするようになったという。

 

 某大手の新刊が手に入るためなら、午後全部売り子しても構わないと言っているそうだ。


 「では、今日は解散ですね。またの機会があればお誘いください。それではお疲れ様でした。」


 真人はそう言って後輩のスペースへと向かい歩き出しす。



 「あ、まこPさん気付いてない。後輩さんにどこまでゲロってるかわからないけど、あのまま行く気かな。」


 みゅいみゅいさんが言った言葉は真人には届かなかった。


 「カメコやってる事は教えてるみたいですけどね、あのまま行ったら多分驚かれるか爆笑されるか、ネタにされて腐った女子が好きなルートに進むか……フフフ」


 いや、真理恵さん貴女が腐ってます、と3人が思っていた。


 「後輩さんは奥さんいるそうですからね、そんなルートはないんじゃないかと思うけどなぁ」


 白米さんは心配していない様子。


 「それはそれで面白いんじゃ?私のようにリアル男の娘になるのもありなんじゃないかと。今日の出来を見ればアリなんじゃないかと思うよ?」


 みゅいみゅいさんが煽る。みゅいみゅいさんは自分の事を男性である事を否定し、女性である事を肯定しない中性だと言っている。


 そのせいか、実は5人の中で客観的に一番可愛い・綺麗なのはみゅいみゅいさんだったりする。


 「ま、場合によっては仲間増えそうですね。飛躍しすぎかもしれませんが、奥さん昔コスプレしていたらしいですし理解もあるかもしれませんよ。」


 五木さんが爆弾を投下した。

 

 「その時はその時かな?知り合いの知り合いが友達になるかは、会ってみないとわからない。」




☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 「おう、おまたせ」


 後輩のスペースに到着すると戦利品を整理していた後輩に声をかけた。


 「あ、待ってました。撤収準備始め…ハァッ???」


 後輩は真人の姿を見るなり大声を上げた。


 「ちょ、ちょちょ、誰ですか。って声は先輩…いやちょい待って…ハァ?」


 後輩は混乱の魔法を受けたかのようにパニックになっていた。越谷真人、30歳童貞、魔法使い。異性の友人極少。

 


 そこで真人ははっと思い出す。コスプレスペースで後輩に呼ばれてそのまま来たために、普段着に着替えてないわメイクは落としてないわで……


 「あー、言い忘れてた。俺今日コスプレデビューした。」





 それから撤収準備はそっちのけでコスプレするに至る経緯と今日の西4階で撮影したりされたりの事を話した。


 「つまりなんですか、前からの知り合いとコスプレ合わせをしていたと、要約するとそういう事ですね。じゃぁ、俺も1~2枚撮らせてもらっていいですかね?大丈夫です。脅しのネタには使いません。」


 そういや後輩がさっきからスマホを操作していたのが目についた。


 「いえね。話を聞きながら嫁に先輩がコスプレデビューした、しかもめっちゃ可愛いと送ったら。「よし、撮影してすぐ送れ!撮影するまで家にも実家にも入れない。娘を近付かせない。」と返信してきたんですよ。」


 「むしろ脅されてるのは俺の方っす。嫁最強なんす。可愛い顔して範馬○次郎なんす。」


 項垂れる後輩を見て、勝手に人の個人情報を漏らすからだ。この取引は真人にはなんの得もない、むしろ損ではなかろうか。


 「まぁやってしまったものは仕方ない。スペースで撮影はよろしくないが、周辺に邪魔にならない程度になら許可する。」




 ということで数枚撮影され早速嫁さんに送信していた。


 これ一番ダメージを受けているのは真人である。

 何が悲しくて会社の後輩の嫁に女装コス写真を見られなければならないんだろうか。


 「あ、返信きた。」


 後輩が返信メールを見せてくれた。


 「これ、越谷真人先輩でしょ?ナニコレちょー可愛いんですけどー。写真見ながら日本酒3升はイケる。」と返ってきた。


 真人の苗字が越谷であり、高校も越谷にある学校に通ってたのでややこしくて仕方ない過去があった。


 同級生に千葉とか小山(おやま)とか宇都宮とか結城とか桐生とかもいて、北関東の地名の名字多すぎでしょ。埼玉や千葉は北関東じゃないけど。


 

 「お前の嫁とは一度じっくりと会話する必要があるようだな。」


 「ちょ、華子は俺の嫁ですよ、口説いても先輩にはなびきませんよ。」


 「口説かんわ、ガミガミ説教するだけだわっ」


 そうこうしているうちに15時を回っていた。


 「って早く片付けるぞ、更衣室の時間の事もあるしゆっくりはしてられん。」


 「そうですね。今日の事は山梨家の秘密にしておきます。」


 ここでもう一つ人物紹介、今更ながらに出てきた後輩の名前、「山梨光琳」(やまなしこうりん)。


 東○に出てるあのキャラとは何の関係もありません。梨なのに林檎みたいというのも関係ありません。名付けた彼の親のセンスの問題です。


 



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 スペースの片付けも終わり後輩とはその場で別れた。


 嫁がりんかい線の駅近くに到着したらしい。


 更衣室の時間締切には充分間に合い、どうにか着替えとメイク落としを済ませた。


 「しかしウィッグネットで締め付けられたべちゃべちゃの髪はどうにもならんな。」


 持参したミストで髪を濡らして多少は変な跡は消えたが、髪のべた付きそのものは取りきれなかった。


 コ○ケ終了直後は電車も道路も混むので、終了の拍手を聞く前に車に移動することにした。荷物多いし周りに迷惑かけてしまうためである。


 「さて、詰め込めたな。」


 車の後ろに旅行鞄と少しの戦利品を詰め込んだ。


 駐車場に向かってる途中で終了のアナウンスが流れていたため、道は駅や駐車場に向かう人で溢れつつあった。


 「しまった喉乾いたけど、自販機駅の方に行かないとないじゃないか。」


 面倒ではあるが買いに行くには仕方がない、駐車場が駅側で良かったのか悪かったのか。


 人間これが欲しいと思ったら、多少の面倒くささは些細な事なのである。


 帰る人の波をすり抜け自販機で飲み物を買う。


 「あ、ここにも売ってたのか。」


 MAXコーヒー


 「疲れたし糖分は必要だな。」


 迷わずボタンを押した。


 商品を受け取り駐車場へ戻ろうと歩を進めた時、駅と会場をきょろきょろ交互に見渡してる女性を発見した。


 「ん?彼女は……」


 無意識に俺は彼女の方へと向かっていった。


 「あれ?貴女は……」


 そういって声をかけ、俺の方を向いた彼女は…


 2か月程前に公園で出会ったMAXコーヒーの彼女だった。


 何故わかるかと言うと、真人の異性の知り合いは会社の女性事務員数人と、同僚の奥様方と、真理恵さんくらいしかいないためである。


 ほぼみんな人妻じゃねーかよと言われそうではある。


 そして何より、彼女の手にもMAXコーヒーが握られていたので、結び付けるのも容易だった。


 そしてそのMAXコーヒーは、反対の手で引いている大きな旅行鞄よりも目に留まった。

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