第3話 軍に報告されない理由
「一体今度は何が起こったのですか?第1層門を強行突破されたと聞いたのですが?」
ルジオーネさんが少女に尋ねます。何度か何かがあったのですか?第1層門って強行突破できるものなのですか?
「門は普通に歩いて通りましたよ。皆さん心地よく挨拶もしてくださいましたよ。」
「その目を使ってですか?団長もその目のせいですか?」
「ああ。ごめんなさい。無意識でした。」
少女がまばたきを数回すると、空気が軽くなった気がしました。私の隣にいる方も緊張感が抜けたのか、大きくため息をしました。
「第6師団長さんはそこのユーフィア・ウォルスさんが作り出した薬でそうなっているので、わたしは何もしていませんよ。」
「では、何しに来たのですか?」
「まあ、目的は果たしたので帰りますよ。剣を下ろしてもらえますか?」
「質問に答えなさい。また、弟絡みなのでしょ。」
「はぁ、マルス帝国の商人に扮した者達がそこのユーフィア・ウォルスさんの作り出した薬を使って、シーラン王国の獣人を連れ出しているのですよ。どうやら、借金奴隷として売り出すそうです。そして、わたしのかわいいルーちゃんも連れて行かれたので、今からコートドラン商会を潰しに行くので退いてくれませんか?」
「「「は?」」」
ルジオーネさんや少女の周りにいた人たちの声が重なる。皆さん唖然とした顔をされています。ルジオーネさんが慌てて
「ちょっと、待って下さい。何ですかそれ、そのような話、軍には上がってきてませんよ。」
「上がるわけないじゃないですか。そこの団長さんみたいに突然意識を失い眠り続ける病を作り出し、薬を探し求めている人に接触し、高額な薬の代わりに人を対価として求めれば、お互いが納得した形となります。
拐われた訳でも、行方不明でもない。自ら行ったとすれば、軍に報告が上がることもない。再び発症しても、薬が手にはいらないと嘆くだけ。
良くできているでしょ。ここまで、調べるのに随分と手間取ってしまいました。」
なんですって。
「再び発症しているのですか!」
「何を今さら言っているのですか。だから、呪い紛いのだと言っているのです。呪いの上に呪いを上掛けしている。本当に悪趣味。余程の腕のいい聖魔術使いじゃないと解けないものになっています。」
なんて物を私は作り出してしまったのでしょう。
「わたしはルーちゃんを助けに行くので通してもらえますか。」
少女が押し通ろうとするのをルジオーネさんが阻み。
「その前に団長を治して行って下さい。」
「はぁ?そこにいるユーフィア・ウィルスさんに頼めば宜しいのでは?作った張本人がそこにいるのですから。」
「先程ご自身で言いましたよね。腕のいい聖魔術使いでないと治せないと。団長を治していただければすぐに帰ってもらってかまいませんよ。」
「ちっ。」
少女は舌打ちをし、こちら方に向かってきました。少女は横になっているクストの横に立ち、足を振り上げクストの腹に少女のブーツの踵が直撃した。
「『呪術浄化』」
「ぐおぉぉ。痛っ!」
え。それでいいの?しかし、先程まで何も反応しなかったクストがお腹を押さえ床でのたうちまわっていた。
「クスト!」
「団長」
クストは側にいた師団の隊員に起こされ床に座り、私は側に寄り手を握ります。よかった。本当によかった。
「第6師団長さん。あなたの番が作り上げた薬の味は如何でしたか?」
少女がクストに問いかける。少女がクストを治したということはこの少女は聖魔術が使えるということ!どうして、そのような貴重な聖魔術を使える少女が一人でいるの?聖魔術を使える者は皆、シャーレン精霊王国で管理されるというのに。
「薬?おお、薬を飲んだ後の記憶が全くもってない。それも、なんでこんなに皆が集まって、どおした?」
クストはいつも通りのようです。少女が言っていたように薬を含んだ時から記憶が全くなくなるようです。
「団長。要注意人物が第1層門を突破したと聞けば、第1部隊を引き連れて対応しなければならないでしょう。それも行き先が、ナヴァル公爵家。」
「ルジオーネか。ああ、すまん。」
「それでは、わたしはマルス帝国へ向かうので失礼します。」
少女は壊れたドアの方へ歩いていきます。私は思わず
「マルス帝国へはどうやって行くつもりですか?」
少女は振り向かないまま
「わたしはルーちゃんのところへ跳ぶことができますので」
「他国の者がマルス帝国で転移で入れば後々大変なことになりますよ。」
少女は振り向き
「知っていますよ。第16部隊と第17部隊ですよね。それが、どおしました?連れて行かれて10日です。10日も経ってしまいました。5歳の子供が奴隷として10日も過ごしているのです。」
5歳の子供!私の子より年下ではありませんか。
「わ、私なら問題なくマルス帝国に転移することができます。私の侍女として入国「ユーフィア!ダメだ!」」
クストに止められてしまいました。しかし、
「クスト。私はとても恐ろしい物を作ってしまいました。薬として作り上げた物でさえクストを殺してしまう程の物を・・・。」
「俺は生きているじゃないか。」
「ええ。聖魔術を使える彼女が治してくれたからです。ですから、サウザール公爵との契約に基づき『病を作る薬』や『治す薬』自体を無くすことはできませんが、せめて『治す薬』の基盤を差し替えることぐらいはしたいのです。それで、マルス帝国が他国から奴隷といて連れ去ることが無くなるわけではありませんが、私は・・・。いえ、ただの自己満足ですね。私の罪が無くなるわけではありません。」
「わかった。俺も付いて行く。」
は?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます