メアリーの選択

 始めにこのメアリーの選択という話はメアリーの半生をメアリー視点で見ているものです。

 これには、「6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった」には説明がない、グローリア国、マルス帝国、戦場、そして世界という目視できない物や、魔導師、魔術師という者、狂った者の表現がありますが説明文はありません。別の長編の内容に関わってくるので、ふわっと感を醸しています。

 それでも宜しければ下へお進みください。


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 これから私は幸せになると思っていた。しかし、目の前の光景がそれを否定している。ウォルス侯爵家の当主であるロベルトと共にこれからの人生を生きようと約束をしていたのに・・・。




 私の名はメアリー・コークス。魔導王国と言われているグローリア国の辺鄙な田舎生まれ。殆んどが雪に閉ざされた貧しい農村だから、食べ物も満足に採れないし、食べれない。そんなところから出ていく為に、早く大きくなりたかった。

 なぜなら、魔力が一定以上あれば、魔導師として教育をするために王都に行くことができる。まあ、王都へ行くのは強制なのだけど、ここよりきっとましだと思う。

 こんな田舎さっさと出ていって、王都でお金持ちと結婚するの!


 王都の魔導師を教育するための施設に入っている間、段々と魔物が凶暴化し、先日なんて空が割れたと思ったら何か得体の知れない物が出てきた。丁度、外で訓練中のことで、すぐに施設まで戻らされた。噂では聞いていたけど、あんなものは魔物でも見たことがない。国の魔導師総出で倒したようだけど、丸1日かかったらしい。


 状況は段々と悪くなる一方で、他国と連携してこの危機を乗り越えようとなったらしい。訓練も厳しさを増していった。


 本当なら、あと一年魔導師として教育をしなければならなかったのに 、討伐隊を追加投入が決まったということで、16歳で戦場に立たされた。

 新人の魔導師がこの状況で何の役に立つと言うのだろう。まるで 、囮になって死ねと言われているみたい。絶対に生き延びて、金持ちと結婚してやる。



 泥と魔物の体液にまみれながら、ただ、戦場を駆けていた。身体も心も疲弊していたころ、一人の男性が目に入った。この死臭と血の臭いが混じった戦場であまりにも異質な姿だったのです。部下の兵士に指示を出している姿は綺麗すぎた。

 イケメンかどうかと言えばイケメンだけど、その容姿の綺麗さではなく、顔も汚れていないし、軍服も洗ったばかりのようにパリッとして泥に汚れていない。私なんて10日に1回しか水を浴びることができないのに、どういうこと。


 仲間に聞いてみると、マルスの魔道歩兵隊のウォルス隊長らしい。そして、爵位を持っているウォルス侯爵様だという噂を聞いた。もしかして、彼に付いて行けば生き抜けられるかもしれない。侯爵様が前線に出てきているのは不思議だけど、そんな偉い人が死ぬわけないよね。


 戦いと戦いの間にウォルス隊長に声を掛けていく。

 最初は、真面目に『戦況はどうですか?』から始まり、『今日はとても大変で』慣れた頃に愚痴を言ってみたりした。徐々に関係は深まり、男女の関係になるまでになった。


 どうやら、ロベルトには妻がいるらしい、しかし、恐ろしい女らしく、屋敷に住まわせて置くことが条件の結婚ということだった。

 それじゃ、私にもチャンスがある?その妻の女とは違う所に住めば、ロベルトと一緒に暮らせるのではないの?貴族なら1つや2つ家を持っているでしょ。


 戦況は激しさを増していった。遠目から勇者がすごい勢いで魔物を駆逐していっている姿をみると同じ人間かと疑問を抱いてしまいます。

 我が国の魔導師長様も勇者の側にいらっしゃるようで私では足元にも及ばない魔導術を繰りだされています。あの方の美しいかんばせを拝むと今日も頑張ろうと思えてきます。ロベルトの隣で・・・。

 ロベルトと共にいてわかったことがあります。何故か危機感知能力がすごいのです。ここにいたらヤバイと言ってその場を逃げ出したら、そこに魔物の大群が押し寄せて来たり、攻撃魔術が降ってきたりするのです。

 私の選択は正しかった。この人に付いて来て正解だったのです。


 そのロベルトと共にあの恐ろしい戦場を生き抜き、グローリア国から帰還命令が出されたとき、ロベルトが『俺の妻になって欲しい』と言われたので、もちろん返事は『はい』でした。


 そして、ロベルトと共にマルス帝国へ行き、皇帝陛下が最後まで生き残った3人の者たちへの報奨を尋ねられたとき、ロベルトは私を妻にって言ってくれたです。私はもう舞い上がってしまいました。農民の娘でしかない私が侯爵夫人になんて夢みたい。


 私はロベルト共にロベルトのお屋敷に来たのですが、すごい数の使用人です。この人たちが私のお世話をしてくれる人たちなのですね。


 感動をしていると、そこに一人の女性がロベルトに声をかけてきました。


「旦那様。その方があなたの妻だとおっしゃるのですか」


「お前は誰だ。新しい使用人か。」


「私は皇帝陛下の命であなたの妻となったユーフィア・ウォルスですが 、旦那様は皇帝陛下の命を無視してその方を妻に迎えるとおっしゃるのですか。」


 え。皇帝陛下の命で結婚していたの?でも、ロベルトはさっき皇帝陛下に私を妻にって言っていたけど、それって大丈夫だったの?


 え?前線に出る刑?もしかしてロベルトは罪人だったの?

 そんなことを考えているとじいさんの使用人に部屋に連れていかれ、ここで待つように言われてしまったけど、ロベルトはどこ?


 廊下に出てロベルトを探すと、いた。ブツブツ言いながら、ある部屋に入って行ったので、私も追いかけて部屋に入っていきました。どうやら、ロベルトの部屋のようです。ロベルトに近づき声を掛けてみるけど、聞こえていないらしい。

 「殺される。殺される。」と、うわ言のように言っているので、そこにあった長椅子まで導き座らせ、ロベルトの手を握っていました。きっと恐ろしい妻という女から何かを言われたのでしょう。


 少し経つと、下の方が騒がしくなってきました。その声や足音がだんだん近づいてきます。恐ろしく感じ、結界魔術を発動しようとしましたが、術が発動しません。

 もしかして、これは誰かから魔術阻害を受けている?

 足音は部屋の前で止まりました。ロベルトを見ると真っ青な顔で『早すぎる』そう言って、私の腕を取り長椅子から立たせ『早く逃げろ』そう言いながら私を突き飛ばしました。部屋の隅まで転がるように飛ばされた私が見たものは、部屋の扉が壊され、多くの兵士が部屋に入ってくる様子でした。

 その後から、キラキラ・・ギラギラとした服を着た貴族らしき人が入ってきました。入ってくるなりその人はロベルトを殴り


「この役立たずが、生きて帰って来たことは誉めてやるが、女を連れて帰ってくるなど、どういうことだ。それも皇帝陛下の御前で婚姻の許可まで欲しいと言ったそうじゃないか。貴様は何を考えているんだ。」


 と鞭を取りだし、ロベルトを打ち始めました。

 ロベルトはその間『すみません。すみません。』といい続けていたのです。私は怖くなって逃げようにも魔術が阻害されていて使えません。部屋の端のカーテンに隠れガタガタ震えているしかなかったのです。

 鞭の音が止み『おい、連れていけ』という声と何かを引きずる音と共に人の足音が去っていきました。


 すぐさま、魔術を発動します。魔術が使えそうです。そのまま、転移の魔導術を発動させようとしましたがマルス帝国国内の転移ポイントは設置していないことに気がつきました。これは行った所を記憶しなければならないので、こういうときには不便です。

 仕方がなく、後ろの窓からバルコニーに出て、外に向かうことにしましょう。


 あれから、いろんな所に行きました。冒険者というものにもなってみたのですが、教育期間が1年足りなかった私では魔導師というには中途半端で拙く。魔術師としては魔力量が普通なため、せいぜいCランク止まりだったのです。その日を過ごす分のお金と少しを稼ぐぐらいでした。

 いろんな所を回っているうちに、グローリア国がヤバイと言う噂を聞き付け、転移で村に戻って見ると唖然としてしまいました。村が、畑が、森が全てが黒く焼き尽くされていたのです。村を呆然と見渡していると、遠くで黒い炎が上がりました。

 隣村からのようです。遠見の魔術を発動し、隣の村の方向を見ます。


 あ、あれはもう狂っている。あんなものが暴れているなんてもう、誰も止める事なんて出来ないじゃない。

 恐ろしくなり私は逃げた。あんなものどうするの?魔王よりもたちが悪い者が、狂ってしまったなんて。


 私はあの恐ろしい者からなるべく離れるため、大陸を南下しました。そして、山間の長閑な農村にたどり着き、景色を見渡します。

 あの、黒く燃えてしまった村に似ている気がする。心の奥底から何か溢れ出てくるものがあります。結局、嫌で早く出て行きたかった村が私の帰るところだったのかもしれない。


 ここで、中途半端な魔導師なんて役に立つかな。まあ、行ってみたらいいかな。いい男がいるといいな。


_____________

補足

ロベルトの危機感知能力について

この能力が有れば全てのことを避けられたのでは?とのご意見もありましたが、見えざる手が働いたことに変わりはありません。しかし、全てはユーフィアの為と明記しておきます。

前書きに書いてありますように、この事もユーフィアの物語では語られません。

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