第1話 箱男様へ

       ―この作品を、『箱男』(阿部公房【著】)に捧ぐ―



[箱男様へ

 おめでとうと、ありがとうを、貴方に。


 同じ意志を湛えた貴方と私は、ついに運命の出会いを果たした。

 この本――『箱男』に導かれた二人。


 我々が暮らす「護見島」は……いえ、この世界そのものは。

 なんと窮屈で、閉塞感に満ちているのだろうか。

 貴方もご存知の通り、ここは一見すると都市開発された観光名所。

 だけどその実、どこまでも土俗的で閉鎖的。監視の目が張り巡らされている。

 立ち小便一つするだけで個人を特定され、噂が立ってしまうような狭いコミュニティ。

 大人は表面上、自由や個人の尊重を謳いながら、実際はそれを拒んでいる。

 私たちを監視し「逸脱は悪である」と暗に躾け、出た杭を偏執的に打つ。


 逸脱は悪なのか?


 みんな特別になりたいのに、自分に自信がないから他人の足を引っ張る。

 私は世界が、醜いものだとしか思えない。

 たまらない孤独に胸を押し潰されそうになりながらも、私は貴方に希望を見出した。

 掃き溜めの中でただひとり輝く、箱男という存在。共鳴する運命の人。

 私と同じく『箱男』という作品を愛する、貴方に会いたい。

 世界を捨て、私と運命を分かち合う覚悟のある方。お返事を。


                                私は箱女 ]

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