第19話 赤隆丸と白硫丸

 辺境の村で生まれた私は戦争を知りませんでした。

 ラルフと旅をして人の戦争に巻き込まれ、ああ、とても悲惨なものだと思いました。


 そして魔王戦争が始まり、魔族と戦うことになりました。

 元は人でありながら、人と同じ姿をしながら、しかし会った瞬間に人でないと、直感で理解できる者達。


 彼らが魔族である内はまだ人の戦争でした。

 しかし彼らが羽化した後の戦いは、悲惨と感じるものがありませんでした。


 何もかもが無くなったからです。


* * *


「良いタイミングだぜロバート」


 白豹はくひょうの姿が弾け強烈な熱風が吹き荒れた。


「「ぐあ!?」」


 兵士達が飛ばされてテラスの上を転がって行く。

 唯一人、緑色の洸を放つ曲刀を掲げるササバットだけが立っていた。


「この化け物が!」


 ササバットが曲刀を振り下ろした。

 刃から迸った緑色の雷光を、ロバートの右拳が打ち散らした。


「どいう状況だモルダン」

仲介業者エージェントに総スカン喰らって、スティナから良いコネがあると誘われて、店に入ったらここに連れて来られた。で、そこにいる領主様にもてなしを受けていたところだ」


「なるほど」

「つ―かお前だけか? ナオとチェルシーはどうした?」


「空に捨て置けない奴を見付けてな。対応に向かった」


 モルダンが空を見上げる。

 夕暮れの光の中で、茜色に染まる雲が流れている。

 鳥や魔獣の影は無く、遠くで風の音が響いている。

 ただ、それだけの景色。


「……ああ、そういうことか。結界のせいで気付けなかったな」

「それもあるけど、ヤバい位の技量よあの片眼鏡。ここまで展開されているのに、本当に魔力の気配が無いわ」


「貴様ら、何の話をしている?」


「領主、すぐに町の者達を避難させろ。でないと多くの者が死ぬことになるぞ」


* * *


 上空。


 紅樺べにかば色の巨大なやじりから飛び降りたナオは、刃輪を目掛けて銀旋ぎんせんを振り下ろした。


「初めましてナオ・ジュノーク。私は白硫丸はくりゅうまる


 銀旋ぎんせんの切先が大槍の切先に止められた。

 

「魔族か」

「ええ、見ての通り」


 大槍を握るのは白い女。

 色素の抜け落ちたような白い髪に白い肌を包む白いローブ。

 そして女から溢れ出るのは、この世界の存在ものとは完全に異なる魔族特有の気配。


「魔王軍の導師を務める者よ。よろしくね死睡の冥王」

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