黄昏の中の神器使い 〜 勇者パーティーを追放された元村人少女はA級冒険者パーティーの仲間になりました 〜

大根入道

第一章 戦鎌使いの冒険者

第1話 序奏

 八柱の聖霊に護られし、金と銀と銅の太陽に照らされて、白と黒と赤と青の月が巡る世界がある。


 大いなる力、魔力に満ちた果ての無い大地と海と空。


 数多の英雄の物語が紡がれる。

 千里の大地を裂く剣技の使い手たる剣士。

 海を氷に閉ざす魔法の使い手たる魔法使い。

 空を超え星空の世界を旅した錬金術師。


 神々の神話の時代から人の伝説の時代への、悠久なる時の流れの中で輝く者達。


 英雄達は立ち向かう。

 無辜むこの民を守る為に、襲い来る絶大なる脅威へ、剣を抜き杖を掲げて。


 そして魔王が現れ、数多の国々に侵略を始めた時代があった。


 氷の魔王と呼ばれたその怪物は、自らの配下たる魔族を生み出して軍を作り出した。


 魔王の軍勢は村や町を焼き払い、多くの人々を殺していった。


 人々は嘆き悲しみ、怯え震える手で聖霊に救いを求めた。


 神殿の聖選した勇者や聖女、英雄達が立ち上がった。


 そしてその中に一人、『首狩り人形』と恐れられた神器使いの少女がいた。

 勇者や聖女達とたもとを分かち、それでもなお彼女は戦場を歩いて行ったという。


* * *


 波動が灼熱の嵐となり、広大な迷宮ラビリンスを震わせる。


 かつて『白炎獣』と恐れられ、数多の戦士を燃やし尽くし、数多の国々を滅ぼして、精霊の王に挑み破れ封じられた力が解放された。


『人の技など、この魔力量十万の出力の前には些末さまつなこと! 貴様と貴様が助けた者どもを灰にして! 我は復活を遂とげようぞ!!』


 炎の怪物と化した古の大魔法使いの前に立つのは、一体の死霊と一人の少女。


 東方風の鎧を纏う死霊は刀と呼ばれる剣を右手一つの中段に構え、左手を柄の下に添えている。


 魔法使いに対する独特の構え、白刃の如き研ぎ澄まされた殺気を放ちながら大樹のように自然なたたずまい。

 そこからの者が歴戦の猛者であり、卓越した技を持つ武芸者であると、容易く汲み取ることができる。


 だがしかし。

 その鎧武者の後ろに控える少女の姿は戦場に立つ者として、非常に場違いなものであった。


 絹糸のような黒髪と水晶玉のような黒目を持つ、命を感じられない程に可憐な相貌に、紺色のメイド服を纏って立っている。

 まるで至高の職人が魂を込めて作り出した人形のようであり、それは怪物達の戦う戦場に在るよりも、貴族の館の奥で硝子ケースに納まっている方が自然であった。


「イゼーア」


 大魔法使いの前に敵として立つ少女が生きている存在だと思い出させるように、朱の唇から玲瓏れいろうな声が響いた。


「あれを少し抑えておいてください」

『御意』


 鎧武者の背後で燃える滅紫けしむらさき色の炎が竜の翼となり、鎧も竜の意匠を強く出したものへと変わる。


「展開せよ【冥王廟めいおうびょうすい】」


 少女が宙に浮かべる宝玉が滅紫けしむらさき紫色のひかりを放ち、古き闘技場に無数の影が照らし出される。

 彼らは夜色の笛を持ち、聴く者を深き眠りへと落とす魔性の音色を奏で始めた。


冥水晶の戦鎌ハデスよ、私の手に」


 宝玉が水晶の戦鎌いくさがまへと姿を変え、少女の両手が柄を握った。


『何と!? それは神器ではないか!!』


 遥か遠き時代に生み出された秘法であり、今にのこる古代の奇跡の一欠片。


『まさかこの堕落した時代に使い手が現れ、それが我の敵として立ちはだかろうとは! 何たる僥倖ぎょうこう!! 思わず聖霊に感謝の祈りを捧げてしまったわ!!』


 死霊の武芸者と少女の神器使い。

 共に他を隔絶する、圧倒的強者の匂いを放っている。


 遥か地の底に封じられていた大魔法使いが笑う。


―― 我と戦え。

―― 我を見よ。 


『戦の火は永久とわに尽きまじ。語りは無粋。さあ死合しあおうぞ』



 


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