すべてのあとで
カーテンの隙間から差し込んだ光が、少年たちを優しく照らしている。
ベッドで眠っている少年の穏やかな表情はいつもと変わらない。隣に座っている二瑠は、そんな少年を静かに見守っていた。
来週から三学期が始まろうとしていた。
過ぎてしまえば、時間というのはあっという間だ。永遠に続くと思われる今というこの瞬間だって、いずれは過去となり、いつか忘れて去られてしまうのだろう。
二瑠がそんな風に時間に思いを巡らせていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。ドアの向こう側が、ざわざわと騒がしい。
クラスの皆が到着したことに、彼の顔に自然と笑みが広がっていく。彼はベッドに立てかけていた松葉杖を手に取ると、ゆっくりと立ち上がろうとした。
今日という日が辛くても、明日があるから僕たちは生きるのだろう。きっと今日よりも素晴らしい明日があると、信じているから。
「きっと、明日は今日よりもいい日になるよね」
二瑠はベッドで眠る少年に微笑みかける。そのとき少年の口元が僅かに動いたように見えた。
「仁栄!!」
ドアが開き、クラスの皆がガヤガヤと入って来る。
病室の外で、若林が看護師に静かにするようにと、注意されている姿がちらりと見える。
クラスの誰かが持ってきたカメラと三脚。
セルフタイマーがセットされて、ベッドで眠る少年を皆で囲むように寄り添う。
「みなさーん、笑ってくださーい! さん、にー、いちー、はいチーズ!」
「カシャッ」
四年一組の皆の笑顔が、四角いフレームの中に思い出の一枚として記録される。
写真は皆のアルバムの中に保管されるだろう。そして時が経って、いつかアルバムを開くとき、その度に思い出すことだろう、この瞬間を。本当に皆と一緒だった、この瞬間を。
きっと人生で、一番強く友達を、仲間を、そして夢を意識していたこの限られた瞬間を。
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