根暗な俺がヤンデレ幽霊に憑依された結果

空色 一

第1話

 ここはとある市立高等学校。

 この学校は普通の学校だが、一人だけ異端の男子生徒がいた。

 その男子生徒の名は斎藤と言った。斎藤は黒い髪で瞳の色も黒く、身長は高くやせ型だ。しかし、ガリガリというわけではない。程よい筋肉がついたいわゆる細マッチョというやつだ。


 ここまで聞くと普通の生徒のように思えるが、問題は顔だった。

 頬がこけていて、目にもクマがある。暗い顔をしていて、青白かった。まるで死人の顔だ。

 さらに、男子生徒からは負のオーラ漂が漂っていて、近寄りがたい雰囲気を出している。

 その顔と負のオーラが相まって、近づきにくくなっているのだ。

 

 しかし、以前はイケメンともてはやされていた。その面影もあり、顔のパーツは整っている。以前はクマもなく、頬もこけていなくて、かっこいい容姿だった。そのためたくさんの異性に告白された。その中には学校のマドンナといわれるとても美人で性格の良い生徒もいた。しかし何故か斎藤はすべて断った。


 そんなある日がやがやとにぎわう教室で、一人ぽつんと座っていた斎藤に、クラスの委員長が明るく斎藤に話しかけてきた。


「もう、斎藤さん、こんなに暗い顔をしていては友達出来ませんよ」

「俺の勝手だろ」


 斎藤はそう言って顔をしかめた。すると委員長はムキになったようにこう続けた。


「斎藤さんがクラスで浮いているとクラス委員長である私が迷惑するのよ」

「うるさいな」


 委員長は正義感が強く、クラスに浮いている人物がいればクラスになじむようおせっかいを焼きたがる性格の持ち主であった。うまくいかないとなると意地になる性格でもあった。


「ではこうしましょう。私が斎藤さんの友人第一号になります」

「は?」


 斎藤が迷惑そうに言った。


「早速明日遊びに行きましょう! ちょうど土曜で休みですし」

「勝手に話を進めるな!いやだ!」


 斎藤は委員長の提案を拒否する。委員長は誰にも好かれる性格の持ち主で、容姿も整っている。髪は手入れの行き届いているロングヘアで、黒く、真面目な印象だ。そんな美人な委員長に遊びを誘われるのは、男ならば喜ぶべきことだが、斎藤は即答し、拒否した。


「来ないと先生に言いつけますよ?」


 委員長が意地悪な顔をして、そう言った。


「何を?やましいことは何もしていない!」


 斎藤は慌ててそう言った。


「本当に?クラスの女子生徒何人泣かせたか私知っていますよ」


 以前、女子生徒の告白を断ったときのことだ。かなりの数の女子生徒から告白され、振った覚えがある。その時泣かれたこともあった。その時の様子を委員長に見られてしまっていたのだ。


「なっ!?」


 斎藤が思わず言った。


「もし、先生に言いつけたら、斎藤さん、退学になってしまうかもしれませんね……」


 委員長は不敵な笑みを浮かべ、そう言った。


「……」


 退学は本当に困る。斎藤には退学になってはいけない理由があったのだ。斎藤は黙ってしまった。


「これで決まりね。斎藤さん、明日は楽しみにしているわ♪ 明日、A遊園地前で朝10時集合ね」


 委員長は嬉しそうに笑顔で言うと、その場を後にした。




 次の日の朝10時、A遊園地にはラフな格好をした斎藤が待っていた。遊園地は開園直後ということもあり、人はまばらだった。そんな中、斎藤はひときわ目立つ負のオーラを醸し出していた。これなら待ち合わせに困らない。すぐ見つかるだろう。


 退学になりたくないので仕方なく斎藤は来た。

 委員長の気が済むまで、必要最低限の遊びに付き合うだけだ。あくまで事務的に、淡々と。そう斎藤は思っていた。


「ごめんごめん、待った?」


 そう言って委員長は小走りで走っていた。委員長は普段の堅苦しいイメージとは違い、かわいらしい白のカーディガンと白いワンピースを着ていた。化粧はしていないが、リップクリームは付けているのか、唇は艶を出していた。


「……」


 斎藤は無反応だ。必要最低限の会話で済ませる予定だったからだ。


「今日はいっぱい遊びましょう!まずは何に乗りましょうか……」


 そういい、委員長は斎藤を引き連れて様々なアトラクションに乗った。

 ジェットコースターやお化け屋敷、ウォーターライドやメリーゴーラウンドなどなど。たくさんの乗り物に乗った。

 ジェットコースターでは委員長はのどがかれるほど叫んだ。


 だが、たいていの人間は叫ぶジェットコースターに乗っていても、斎藤は叫ぶどころか、表情一つ変えず、反応がないので委員長が心配していた。


 斎藤の反応がないのは緊張のせいで景色を見れていないからである。もちろん委員長のことを意識しての緊張ではない。もっと別の恐ろしいことに対して緊張していた。


「ねえ、聞いている?」


 委員長はジェットコースターが終わった後、我慢できずに斎藤に尋ねてみた。


「……」


 斎藤は無反応だ。


「ねえ……」

「……」

「もしかしてつまらない?」

「……ああ。」

「聞こえてるじゃない」


 そう委員長は言い、くすくす笑った。斎藤は顔をしかめてしまった。


「あら不満? ならばもっと今を楽しめばいいじゃない?」


 委員長はそう言った。斎藤はその言葉を聞き、顔色を変え、過剰に反応した。


「それはできない!!それをしてしまうと……」


 そう斎藤が言い、口を止めた。


「してしまうと何?」

「……何でもない」

 

 委員長はその斎藤の反応を見て、何か隠している……そう思った。しかし、問い詰めれなかった。斎藤が聞けない雰囲気を出していたからだ。

 委員長と斎藤は気まずい空気を出しつつ、観覧車に乗った。

 

 2人は狭い部屋の中、向かいあって座る。

 観覧車はどんどん上に上がっていった。


「うわぁ高い。見て見て斎藤、あんなに町がちっちゃいよ!」

「……」


 委員長はその気まずい雰囲気を壊すように、子供のようにはしゃいだ様子で窓に手を当て、窓の外の景色を見て明るく言った。斎藤は黙ってその様子を見ていた。


「まるでおもちゃみたい!」

「……はあ、まるで子供みたいだな。」


 斎藤はその委員長の子供じみた表現に思わず、我慢できずにそう言った。


「子供? 言ったな斎藤! 許さんぞ!」

「……ふん」


 委員長が怒る。その姿を見て、すぐ感情的になる姿がますます子供だなと思い、斎藤が思わず少し笑ってしまった。

 すると、ハッと斎藤が表情を変える。……しまった。そう思った。しかしもう遅い。しばらくして委員長は苦しみだした。


「!?」


 首が痛い。苦しい。誰かに首を絞めつけられているようだった。


「く……苦しい……さ……斎藤……」


 委員長は意識が朦朧としていた。遠のく意識の中、斎藤の名前を呼んでいた。それは何故だろうか……。

 いつも斎藤は一人ぽつんと教室にいた。その斎藤に毎日のように話しかけていた。もちろん委員長としての務めのためだ。それに恋愛感情はなかった。

 しかし、話していくうちにどんどん気になり始めた。斎藤の容姿にひかれたわけだはない。何か時々思いつめた表情をするのだ。委員長は立場上、様々な悩みを持つ生徒と出会ってきた。しかし、斎藤のような一人で抱え込むには重く、つらい悩み事を持っているようなそんな顔をする人はいなかった。

 

 だから、思い切って今日、遊びに誘ってみた。その悩みを少しでも晴らせたらいい……そう思って半ば無理やり誘った。


 しかし、結果は全然楽しんでいなさそうだった。

 がっかりする……。

 そしてこの始末だ。

 なぜかわからないが息ができなくなる。この苦しむ姿を、醜態を、斎藤に見せる羽目になる。

 なぜか涙が出てきた。

 この涙は自分の不甲斐なさのせいで出た涙なのか、苦しいから出た涙なのか、自分ではわからなかった。


「委員長!? 委員長!!! ……貴様……委員長まで……」


 斎藤はそう言い、壁を睨みつける。そこには何もなかった。


 委員長はそうしている間に、意識が遠のいていった。

 

 

 

 そして、委員長は絶命してしまった。



 時は過去に遡る。




 これは私の物語


 私はとある中学に通う女子中学生。とある男に恋している。その男の名は斎藤。とっても優しくて、思いやりがあって…イケメンで…気配りができる最高の男子なの。

すごく頭がいいから、きっと私の告白もOKしてくれるはず。


 ……でも、だめだった。ダメだった。ダメだった。ダメだった。だめだった。ダメだった。

 だめだった。ダメだった。ダメだった。ダメだった。だめだった。ダメだった。だめだった。ダメだった。ダメだった。ダメだった。だめだった。ダメだった。だめだった。ダメだった。ダメだった。ダメだった。だめだった。ダメだった。だめだった。ダメだった。ダメだった。ダメだった。だめだった。ダメだった。だめだった。ダメだった。ダメだった。ダメだった。だめだった。ダメだった。ダメだった。だめだった。ダメだった。


 仕方がないから私は自殺して、あなたの守護霊としていつまでも守るね……。


 そうして、斎藤はこの女子生徒の霊に付きまとわれることになる。

 霊なので当然斎藤含め、周りの人間からは見えない。

 最初は、斎藤に降りかかる不幸を取り除いてあげた。例えば2階から花瓶が落ちた時にさりげなく斎藤をぶつからないよう押してあげたり、飛んできたボールに当たらないよう引っ張ってあげたり……様々な身近に起こるちょっとした不幸を回避させてあげた。

 

 なのに、斎藤はモテたため、女子生徒の霊以外の女子生徒と楽しそうに話をする。

 その様子を見て、女子生徒の霊は嫉妬に狂った。

 なんで!? 私はいつも斎藤を守ってあげているのに、私に振り向かず、あんなにほかの女子生徒と楽しそうに会話をする!! 私だけがあなたを幸せにできるのに!!

 そう、女子生徒の霊の心は失恋から歪んでしまっていた。

 自分以外に斎藤にふさわしい人はいないと信じ切っていたのである。

 自分だけが、斎藤を本当に幸せにできる。そう本気で思っていた。

 

 だから、私以外の女のほかの女子生徒は斎藤にふさわしくないと思っていた。ふさわしくない女子があんなにべたべた斎藤にくっついて……。斎藤の隣は私だけがいていいの。あなたなんかがいていいはずがない。不快だ。邪魔だ。目障りだ。

 そう思っていたら、気づくと、斎藤にべたべたくっついてくる女子生徒の首に手をかけ、絞め殺した。

 女子生徒が苦しむ。その姿を見て、痛快だった。邪魔者の命が消えていくのがとてつもなく爽快だった。

 一人の女子生徒を殺したことで、女子生徒の霊の心の中の、人としての大切な何かが壊れてしまった。

 斎藤に近づき、親しそうに話す女子生徒を何人も殺した。 

 それは嫉妬心からだろうか。斎藤を自分だけのものにしたい独占欲からだろうか。

 それもあるだろう。しかし、一番の理由は、邪魔者を排除する、あの爽快感がたまらなく好きになってしまったからだった。


 斎藤は自分の周りの女子生徒が次々に亡くなっていったため、恐怖を感じていた。


 そんなある日、突然斎藤はこの女子生徒の霊が見えるようになってしまった。

 斎藤と目が合った。


「私が見えるの? 本当に!? うれしい!! やっと振り向いてくれたわね! 斎藤君! ずっとこの時を待っていたの!!」


 そう話す女は体が半透明で、実体がないように見える。おそらく幽霊なのだろう。女はおかっぱ頭で、典型的な日本女性といった感じだ。見覚えがある。前に告白してきた女だ。顔は覚えている。ニュースになったからだ。俺に告白した後、遺書も残さず自殺して地方のニュースになった。学校ではあらゆるうわさが飛び交い、一時期その話題で持ちきりだった。


「今まで周りの人が死んでいったのは、すべてお前のせいか!?」


 恐る恐る聞く。自分に好意を持っていた女性ならば、嫉妬で女子生徒を殺してもおかしくないと思ったのだ。


「すべてあなたのためよ。悪い虫がつかないように私があなたを守っているの」


 悪びれることもなく幽霊はそう言った。


「話にならない!! じゃあ俺が学校に行かなければいいんだな!!」


 これ以上死人を出すわけにはいかない。斎藤はそう思い言った。


「そんなことしたらあなたの家族を殺すわ。」

「!!」


 幽霊は斎藤に学校に行ってほしかった。自分が通って斎藤と出会った学校に、いつまでもいてほしかった。そのために、家族を殺すという出まかせを言った。


 斎藤はそのことを聞き、黙ってしまった……。


 これ以降幽霊の殺しはエスカレートしていった。幽霊は、斎藤から認識されたことに舞い上がり、邪魔者を早く殺してしまい、一刻も早く邪魔者がいない、2人っきりの環境を作りたかったからである。なので、殺しの対象は、好意を寄せている女子生徒のみならず、男子生徒までも対象になっていった。


 主人公は自分と親しい生徒は死んでしまうので、ほかの生徒を死なせないようにするため、次第に誰とも話さなくなり、孤立し、明るい性格は、暗くなってしまった。


 それにより、斎藤に近寄るものもいなくなる。斎藤が遠ざけているのと、暗くなった性格により、女子生徒どころか、男子生徒にも話しかけてこなくなった。


 これで幽霊の仕事は減り、やっと邪魔者がいなくなった。これで斎藤と二人っきり……そう喜んでいた時、邪魔するものが現れた。


 あの委員長だ。委員長は暗くなった主人公ですら優しくし、付きまとい、とても邪魔な存在だった。


 いつも通りすぐ、殺してやろうと思ったが、ふと、幽霊は考えた。逆に利用してやろうと。斎藤と仲良くさせ、その最高潮になったところで殺してやろうと考えた。

こうしてやることで斎藤はより絶望を味わい、気がふれ、より人が寄り付かなくなるだろうと思ったのだ。

 そしたら、斎藤と私、2人っきりでずっといられる。邪魔者も寄り付かなくなる。

 第2第3の委員長のような存在が出てくるのを防ぐためでもある。いくら委員長のような人でも、気がふれている人を相手にしたくないだろう。そう思ったのだ。


 こうして、幽霊は今すぐ殺したい気持ちを我慢し、斎藤と委員長が仲良く遊園地で遊ぶ姿を見守った。正直イライラで斎藤よりも先に自分の気が狂いそうだったが、何とかこらえた。

 そして、斎藤と委員長がいい雰囲気になったとき、殺してやった。


 成功した。


 斎藤は委員長が死んでしまったショックで、幽霊の思惑通り気がふれてしまった。

 斎藤は気が狂い、奇行に走るようになった。

 これにより、もう斎藤に近づくものは一切いなくなった。


 そんなある日、斎藤は幽霊に話をした。


「……あんただけだ……」


 斎藤はそうつぶやいた。


「?」


 幽霊は聞こえなかったので、耳を澄ませた。


「もうあんただけだ。ずっと俺のそばにいてくれるのは!! ……そうだ、俺にはお前がいる……俺と付き合ってくれ!!」

「!!」


 斎藤はそう叫んだ。幽霊は満面の笑みを浮かべた。やっとだ……。やっと、自分の努力が実を結んだ。そう思った。そして、ガッツポーズをした。


「もちろんOKよ!!」


 こうして主人公と幽霊が付き合うことになった。


 そして、主人公と幽霊はデートのため主人公の気がふれた原因となったあの遊園地に行くことになった。


「幽霊が遊園地に来るとか……神様は許してくれるのか?」


 斎藤は疑問に思った。幽霊は入場料金を払っていない。そんなことが許されるのだろうか……。


「いいのよ。大丈夫」


 幽霊が答える。どうやら大丈夫らしい。


「来るのは二回目だな」


 斎藤がそう言った。


「そうね。あの時は邪魔者扱いだったけど」


 そう、幽霊が不貞腐れたように言う。


「ふっ」


 斎藤が少し笑った。もう、自由に笑っていい。その解放感でいっぱいだった。そして斎藤と幽霊はあの観覧車に乗ることになる。2人向かい合って座った。観覧車が上に上がる。


「きれいね……」

「ああ……」


 観覧車の外の景色を見て、うっとりとした様子で幽霊は言った。


 すると、主人公がいきなり立ち上がり、隠し持っていたハンマーで観覧車の窓を割った。


「何!?いきなり……」


 幽霊は突然の出来事に突然の出来事にびっくりした様子で言った。


「これが自分の恋した人が死ぬ苦しみだ!! お前は何度も俺にこの苦しみを味わわせた!! これは復讐だ!!!」


 そう主人公は言い放ち、観覧車の窓から飛び降りた。

 あの幽霊の驚く顔が見える。いい気味だ。

 俺が本気であの幽霊のことを好きになるわけがない。

 今までさんざん俺の大切な人を殺されてきた。

 あの幽霊には憎悪の感情しか抱いていなかった。

 気が狂いながらも、何とかして幽霊に復習したい。そう思い、思いついたのが、この方法だった。

 もうどうせ生きていても、あの幽霊に付きまとわれるだけの人生はうんざりなのでちょうどよかった。

 ああ、もっと早くこうしてればよかったかもしれない。そうすれば周りの大切な人が死んでいくことがなかったかもしれない。

 しかし、俺だって死は怖かった。今まで踏ん切りがつかなかったのだ。

 だが、委員長が死んでしまったことで気が狂い、もうすべてがどうでもよくなったから、できたことだった。

 

 そんなことを思っているうちにもう地面がすぐそこまで迫っていた。

 もうすぐ死ぬ……覚悟はできている……。

 斎藤は目をつむった。

 



 そして……絶命した。


 その様子を観覧車の中から下を見下ろしていた幽霊は言った。


「……。これで斎藤君は幽霊になったのね……これで永遠に一緒だね……」


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