第11話

 成人式から数日後。

 その日は高校の同窓会があった。


 宗一郎と亜夜香はもちろん、聖や千春、天香も出席した。

 当然、由弦と愛理沙も参加した。


 高級ホテルでの立食形式の同窓会は和やかに進み……


「由弦さん、おんぶしてください。歩けないです」

「嘘つくなよ……結構、足取りしっかりしてるじゃないか」

「やだやだー」


 愛理沙はすっかり、出来上がっていた。

 駄々を捏ねる愛理沙に由弦は困り果てる。


 愛理沙は酒に弱く、酔いやすいが、酔ってからが長い。

 泥酔する癖に潰れたりしない。


 つまり面倒くさい。


「二次会、どこ行く?」


 当然、行くよね?

 そんな顔で言ったのは亜夜香だった。


 亜夜香は酒に強い。

 同窓会でもそれなりに飲んでいたが、まだまだ飲み足り無さそうな様子だ。


「いいですね! 行きましょう、行きましょう!!」


 千春は宗一郎の肩に掴まりながら叫んだ。

 由弦の記憶では千春は大して飲んでいないはずだが、すでに出来上がっていた。


 愛理沙に似たタイプだ。


「俺は飲まないが、行くなら付き合うぞ」


 千春を支えながらそう言ったのは宗一郎だ。

 宗一郎は飲めるけど、たくさんは飲まないタイプだ。

 そこまで好きではないらしい。

 同窓会でもビールを一杯、付き合いで飲んだだけだった。

 

「私は飲めないけど、それでいいなら」


 そう言ったのは天香だ。

 天香は飲めないから、飲まないタイプだ。

 同窓会でも、一滴もアルコールを摂取しなかった。

 

「俺ももう飲めないけど……飯はまだ食いたいな」


 そう言ったのは聖だ。

 聖は飲めるけど、たくさんは飲めないタイプだ。

 同窓会では数杯、アルコール飲料を飲んだ程度だが、もうキツいという顔をしている。

 お酒は好きらしいので、本人としては歯がゆいと感じているようだ。


「いくー! 私も行きます!!」


 愛理沙は片手を上げて自己主張した。 

 愛理沙については先ほど説明した通り。

 弱いくせにたくさん飲むタイプだ。

 本人的にはまだまだ、飲み足りないらしい。


「ほどほどにするって、約束できる?」

「する、する!」


 愛理沙はこくこくと頭を縦に振った。

 酔っ払いの言っていることなど、あまり信用できない……

 と、言いたいところではあるが、そこは由弦が目を光らせていれば済む話だ。


 何より、せっかくの同窓会だ。

 集まる機会も今後、どんどん減っていくだろうと考えると、ここで解散してしまうのは惜しい。


「俺らも行くよ」


 由弦は亜夜香にそう告げた。

 ちなみに由弦はかなり強い方だ。

 亜夜香と同程度に強いと自負しているし、お酒も好きな方だ。


 もっとも、愛理沙を介抱しないといけないし、何より愛理沙に控えるように言っている手前、たくさんは飲めないが。

 

「ソフトドリンクもたくさんあって、料理が美味しいところって感じかな? ……このお店とか、どう?」


 亜夜香は携帯の画面を面々に見せながらそう尋ねた。

 そこそこ評価の高い居酒屋のようだ。


「俺はいいよ」

「私もー!」


 由弦が答えると、続けて愛理沙は画面も見ずに元気な声で答えた。

 宗一郎たちも問題ないと答えたことを確認し、亜夜香は歩き出した。


 目的地には十分ほどで到着した。

 清潔感のある、お洒落なお店だ。


「ほら、愛理沙。ちゃんと座って」

「座ってます」

「そこは俺の膝だろ? 椅子はこっち」

「だめですか?」

「だめ」


 そんなやり取りをしながら、由弦は何とか愛理沙を自分の隣に座らせた。

 愛理沙は不満そうな表情を浮かべたが、すぐに上機嫌な顔で由弦にしな垂れかかる。

 由弦の腕に柔らかく大きな胸が押し当てられる。


「愛理沙。人目があるから……」

「いいじゃないですかぁ」


 由弦は思わずため息をついた。

 それからこちらをニヤニヤと笑みを浮かべながら見てくる亜夜香たちを、軽く睨みつけた。


「なんだ? 見世物じゃないぞ」

「いやー、別に? 相変わらず、ラブラブだなって。ドリンク、何にする?」


 亜夜香はそう言いながらメニューを渡した。

 由弦はそれを一瞥してから、自分の腕に頬を擦りつけてくる愛理沙に見せた。


「ほら、愛理沙。どれにする?」

「由弦さんのおすすめがいいです」

「じゃあ、とりあえずお冷二つ」

「えぇー!」

「えぇー、じゃない。君は少し、水を飲んだ方が良い」

「でもー」

「水を一杯飲んだら、頼んでいいから」


 由弦は何とか愛理沙を説得し、ドリンクを決めた。

 注文してしばらくすると、ドリンクとお通しがテーブルに運ばれた。


「ほら、愛理沙。飲んで」

「ん……」


 由弦がお冷を渡すと、愛理沙はそれを一気に飲み干した。

 何だかんだで喉が渇いていたようだ。

 それから愛理沙は由弦に尋ねた。


「お酒、頼んでいいですか?」

「いいよ。どれにする?」

「由弦さんのおすすめがいいです。……お酒で」

「はいはい」


 新しい料理が運ばれて来たタイミングで、由弦は一番弱そうなお酒を注文した。

 愛理沙は少し不満げではあったが、運ばれて来たお酒を一口飲んだら、すぐに機嫌が良くなった。

 甘いお酒だったのが良かったのかもしれない。


「愛理沙さん、相変わらず可愛いですねぇ。お持ち帰りしたいです」

「俺のだからダメだ」


 ニヤニヤと笑う千春に対し、由弦は愛理沙を庇うように抱き寄せた。

 そんな由弦に愛理沙は「私は由弦さんのモノです」と嬉しそうに答えた。

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