第五章 シン・いちゃいちゃ婚約生活編

第1話  婚約者との日常

 それはゴールデンウィークが開けてから、少しした……

 ある日の休日のこと。


 高瀬川由弦は駅の改札付近で、一人立っていた。

 何度か腕時計を見て、それから携帯を確認する。


 しばらくすると……


「由弦さん」


 小さな可愛らしい声が聞こえてきた。

 由弦が振り向くと、可愛らしい女の子が立っていた。


 色素の薄い茶髪に、白い肌、翡翠色の瞳。

 由弦の恋人であり、婚約者。


 雪城愛理沙がそこに立っていた。


「すみません、お待たせしてしまって」


 申し訳なさそうに愛理沙はそう言った。

 一方、由弦は大きく首を横に振る。


「いいや、俺も今、来たところだ」


 実際は少し待ったのだが……

 様式美というやつである。


 それに十分程度の遅刻で怒るほど、由弦の器は小さくない。


「あ、でも……」


 ふと、あることを思いついた由弦はそう呟いた。

 一方、愛理沙はきょとんと首を傾げる。


「……どうしましたか?」

「ちょっぴり、待ったから、お詫びして欲しいな」


 そんなことを由弦は言った。

 一瞬、愛理沙は首を傾げる。


 由弦の意図を図りかねたからだ。

 見たところ怒っているわけではない。

 謝罪を求めているわけでもない。


 この場合、お詫びとは何を意味するのか。


 と、少し考え込んでから愛理沙の頬が僅かに赤く染まった。


「……分かりました」


 愛理沙はそう言うと、そっと由弦の肩に両手を置いた。

 そして僅かにつま先立ちになる。


 由弦の碧い瞳の中に、愛理沙の翠の瞳が写り込む。

 

 由弦の瞳に映った少女は、恥ずかしそうに目を僅かに伏せた。

 そして瞳を閉じ……


「んっ……」


 由弦の頬へ。

 その柔らかい唇を押し当てた。


「……これで、よいですか?」


 瞳を潤ませ、由弦を睨むようにしながら愛理沙はそう言った。

 白い肌が真っ赤に染まっている。


 後から恥ずかしくなってしまったようだ。


「うん……ありがとう」


 由弦はそう言うと、軽く愛理沙の体を抱いた。

 そして頬に接吻する。


 すると、とろんと愛理沙は目を蕩けさせた。


 由弦はそんな愛理沙の手を握る。


「じゃあ、行こうか」

「はい」


 顔を僅かに赤らめた愛理沙は嬉しそうに頷いた。






 さて、本日のデートの舞台はすでに何度も訪れたことがある場所。

 いわゆる、総合娯楽施設だ。


 初めてデートに行った場所でもあるので、二人にとって思い出深い。


「着替え、終わりました」


 デート用のお洒落な服から、動きやすい服装へと着替えを終えた愛理沙は由弦にそう言った。

 ショートパンツにTシャツというシンプルな姿だ。

 髪は珍しく、ポニーテールにしている。


「……どうしました?」

「いや、何を着ても似合うなと思って」


 動きやすさを重視した服装ではあるが、それでもお洒落で可愛らしい。

 もちろん、着ている本人が可愛らしいのだから当然なのだが。


「おだてても、何も出ませんよ? ……それで今日は何をしましょうか?」


 由弦の賛辞を軽く流しつつ、愛理沙はそう言った。

 もっとも、仄かに頬が赤く染まっているのは御愛嬌だ。


「そうだねぇ……」


 もうすでに何度もここで遊んでいる。

 ダーツやボーリング、バッティングなど一通り経験した。


「久しぶりにテニスでもする?」


 初めてここに来た時は、二人でテニスをした。

 そんなことを思い出しながら由弦はそう言った。


「懐かしいですね。……いいですよ」


 一方、愛理沙も昔を思い出したらしい。

 目を僅かに細めてから、頷いた。


 早速、ラケットとボールを借り、二人はテニスコートに立った。


 手始めに軽くラリーを始める。

 二人の間を緑色のボールが何度も行き交う。


「試合だけど、何回やる?」

「そうですね。……三回にしましょう。勝敗がはっきりします」

「じゃあ……何か、罰ゲームとか決める?」


 由弦がそんなことを言うと、愛理沙は挑発的な笑みを浮かべた。


「いいですよ。……勝った方が負けた方にお願いを一つ叶えてもらえるというのは如何ですか?」

「いいよ。……勝つのは俺だしね」


 勝ったらまたキスでもしてもらおうか。

 そんなことを考えながら、由弦は一球目のサーブを打ち込んだ


 ここからは仲良しカップルと言っても、真剣勝負だ。

 「勝った方が負けた方にお願いを一つ叶えてもらえる」という報酬があるのだから、尚更だ。


 そして一回戦目の結果は……


「むむ……」

「私の勝ちですね」


 由弦は愛理沙に勝ちを由弦結果になった。

 汗を拭きながらも、上機嫌な愛理沙に由弦は尋ねる。


「前より上達した?」

「実は亜夜香さんたちと、何度か遊んでるんですよ」


 どうやら由弦の知らない間に特訓していたらしい。

 これは真剣にやらないと負ける。

 彼氏としての沽券に関わる。


「次も私が勝っちゃいますね」

「そうはいかない」

 

 由弦は気合いを入れて、二回戦目に挑む。

 そして二回戦目の結果は……


 由弦の勝ちだった。

 勝因は一回戦目よりも緊張感を持って挑んだというのが一つ。

 もう一つは……


「体力や筋力では、さすがに負けないからね」

「なんか、狡くないですか?」


 身体能力には男女で大きな差がある。

 運動音痴の男子と運動神経の良い女子ならば前者が負けることはあるが……幸いにも由弦の運動神経は決して悪くない。


 だから勝負が長引くほど、由弦が有利になるのだ。


「次も勝つよ」

「……絶対に負けません」


 三回戦目。

 由弦も愛理沙も互いに譲らない激戦となった。


 そして最後に勝利を手にしたのは……


「やったぁー!」

「なん……だと?」


 愛理沙だった。

 由弦の敗因は二回戦目の勝利で油断してしまったことだった。

 逆に愛理沙は気を引き締めることができたため、由弦に勝つことができたのだ。


「じゃあ、後で私のお願い、聞いてくれますよね?」

「……まあ、いいけど。何をすれば?」


 由弦がそう言うと、愛理沙は僅かに頬を赤らめた。

 そして僅かに躊躇してから、唇を動かす。


「え、えっと……その……」


 何かを言おうとする愛理沙。

 が、しかし何かに気付いたのかハッとした表情を浮かべ、頬に手を当てた。


「……どうした?」

「お願いは後です」


 タオルで汗を拭きながら愛理沙はそう言った。

 由弦は首を傾げるしかなかった。



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愛理沙ちゃん不安度:0%






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