9話:『勇者の葛藤』
ゴシゴシ、ゴシゴシ
ピーチ:「なんだー真夜中にうるせーなー」
物音がする方に進んでいく。
勇者が必死で手を洗っていた。
勇者:「消えない。消えない」
:「なんでだ。消えない」
:「取れない。取れない」
嫌なものを見てしまった。
勇者が独り言を呟きながら、手を洗っている。何度も何度も。
『血』という単語がところどころ聞こえるが、
血がついているようには見えなかった。
ピーチ:「見なかったことにしよっと♪」
・・・
勇者の家に寝泊まりするようになって2ヶ月が経った。
案外平凡な奴だということが、ここ最近分かってきたことだ。
子供と遊び、
訓練をし、
戦の命令が下ると戦場へ出かける。
家に敵を残して戦場に行く神経を聞いてみたいものだ。
帰ってきたら、
また鍛錬。飽きずによーやる。
なんとなくスーみたいだと思った。
今、勇者はまた戦場に行ったところだ。
王宮の隅の隅にある、小さな家でまた一人。
ひまだなー。
勇者について分かったことがいくつかある。
1つは、子供が好きということ。
1つは、週に1回程度、アナスタシアという王家の女がやってくること。
目的は、バレバレ。
うちはそういうのに鼻が聞くのさ。
勇者の方は、気づいているの気づいていないのか。
明らかな好意をスルーしていた。
まぁまぁ可愛いってのに。もったいない。
戦場にいた雰囲気とは、違うんだよなぁ。
こう、なんていうか、ボーっとしている。
イメージと違うなぁ。残念。
もっと自分が国の英雄だ。
みたいな傲慢な奴だと、葬りがいがあるんだけどなー。
調子狂っちゃうよ。
後日勇者は帰ってきた。
雰囲気はいつもと変わらない。
いつものように夕食を食べた。
夜は気のままに過ごしているように見えた。
あの光景は一体何だったんだ?
何日か後の真夜中
ガシャーン。
ピーチ:「なんだなんだ!」
慌てて起きる。また物音の方に近づく。
ガシャーン
ガシャーン
ガシャーン
泥棒かと思ってそーっと居間を見る。
勇者が部屋で暴れていた。
家具という家具を倒し、
壊せそうなものはぶん投げた。
呼吸は乱れており、ハァハァと音がした。
目が合った。
勇者:「なんだ君か。驚かせたね。すまない」
暗くてよくは見えないが、
顔が青白いようにみえた。
行動とは裏腹の冷静な勇者の声が、
より一層恐怖を駆り立てた。
ピーチ:(見てないふりはもう出来ないなぁ)
どうしようか迷っていたが、勇者はこちらの方を気にしていなかった。
突然泣き出した。
泣いている。
なぜ?
恐怖が消え去り、好奇心が宿る。
ピーチ:「なんで泣いているの?」
勇者:「寒い寒いんだ。寒いんだ」
ピーチ:「なんで?」
勇者:「寒い、、、助けて」
勇者はピーチの胸に頭をやる。
ピーチも空気を読んだ。
勇者:「寒いんだ」
ピーチ:「もう寒くないじゃないかなあ?」
勇者:「ああ。暖かい」
無言の時間が流れる。
勇者は我にかえり、ピーチから少し離れた。
勇者:「すまない」
一呼吸
勇者:「少し話を聞いてくれないか?何も返事をしなくて良いから」
ピーチ:「分かった」
勇者:「私は人殺しなんだ。しかも大量の」
:「大国で1番人を殺している」
ピーチ:「それってゴブリンのことだろ?人じゃないじゃない」
勇者:「そうゴブリン」
:「でもゴブリンと人との違いって一体何なんだ?」
:「私が生まれた村はゴブリンに滅ぼされた」
:「生き残りは私だけだった」
:「大国に保護され施設に入った。父と母の仇とそこで剣を磨いた」
:「ようやく軍に入り、ゴブリンを殺しまくった」
:「最初は気付かなかったが、殺していくたびに気が付くことがあった」
:「村や町が戦場だと、どういう生活をしているのが嫌でも分かった」
:「ゴブリンの子供を庇う親を切り、子供を切って分かる」
:「私は今、私の村を襲ったゴブリンと一緒だって」
:「あいつらは見た目以外、ほとんど人間と変わらない」
:「そう思うようになってから、人間を切っているように感じ始めた」
:「いつも夜中表れる。殺したゴブリンの悲鳴が」
:「子供が、なぜ殺したの?って聞いてくる」
:「頭がおかしくなる」
ピーチ:「そうか、、、」
ピーチは勇者の頭を胸にやった。
そのうちに寝た。
ピーチ:(こいつもまた復讐者だったのか、、、)
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