5分後にぜんぶ『はじめて』な恋/恋する実行委員会

私たちはそれを知らずに恋をした 烏海香月


 こんなぐうぜんってあるだろうか?

 願ってもいない有りがためいわくな偶然だけれど……。

 それでも私はこの偶然にうれしさとかなしさとを同時に感じてしまっている。


 私の名前はごくへいぼんな名前だ。

「おーい、むらー」

「「はい」」

「!」

「!」

 ふたり同時に返事してしまった。

「あぁ、悪い悪い。このクラスには木村がふたりいたか。えーっと『木村なお』」

「「はい」」

「!!」

「!!」

 またふたり同時に返事してしまった。

「あぁ~そっか、お前らどうせい同名だったか──えっと、女子の方の『木村』」

「あ、はい」

「──ったく……まぎらわしいなぁ」

 ろうにいる先生の元に行く時に聞こえた『木村なお』のつぶやきがやけに心にさった。

 私だって好きでこの名前になったんじゃない。

 ──しかも……。


(初めて好きになった人と同姓同名ってどういう偶然よっ!)


 名前を知る前から好きだった。

 初めはちょっとカッコいいなって印象だったけれど、同じ名前だって知ってからますます気になってしまって──。

 後は坂道を転がる様に気持ちは大きくなっていった。

(彼は私の事をどう思っているのだろう)

 それなりに話しているからきらわれてはいないと思うけれど……。

 なんとなく日々、そんな事を考えてしまう私だった。


「おい、待てよ!」

「!」

 ある日の放課後、しようこう口を出てすぐ、急にうでつかまれた。

「な、なんですか!?」

 知らない男子が私をすごい形相でにらんでいた。

「なんでずっと無視してるんだよ」

「は?」

 何をっているのかわからない私はただぼうぜんの男子の顔を見ていた。

「ずっと手紙、ばこに入れてたのになんで約束の場所に来ないんだよ! 鹿にしてるのか!?」

「!」

 いきなり平手が私目がけてり下ろされる。


 きようで目をつぶった。

 ──だけど痛みは来なかった。

 おそる恐る目を開けると、そこには男子の腕をガッシリ摑まえている木村くんがいた。

「な、なんだよ、お前!」

「木村尚だけど」

「はっ!? 何言って」

 しゆんかんバサバサッと数通のふうとうが私たちの前にばらかれた。

「!?」

 それを見た男子の顔色はサーッと青ざめた。

「あんたさぁ、本当にこいつの事が好きならちゃんとこいつの下駄箱に手紙入れろよ。こっちはずっとめいわくしていたんだ」

「な……何……」

 どうやらこの人は私じゃなく木村くんの下駄箱に手紙を入れていたようだ。

 今度は真っ赤になりながら封筒をかき集めていた男子に木村くんは続けて云った。


「──っていうか、木村菜緒は俺のもんだ。今後いっさい手を出すな」


(え!?)

「く、くそっ!」

 木村くんのばくだん発言に私が呆然としている間に男子は足早に行ってしまっていた。

「……き……木村……くん」

 かろうじて名前だけ呼べた。

 そんな私をジッと見て木村くんはひと言だけ呟いた。

「……名前、知る前から好きだったんだよ」

「!」

 同姓同名って行動まで似るんだろうか?

 そんなどうでもいい事を今、考えてしまった私だった。


 私たちはそれを知らずにこいをした。

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