2章 ライバル(文化祭まで あと17日!)




2-1 三角関係を調査せよ!




 三角関係。そう聞いたら、どんなものを思いかべる?

 私としては、三角関係=ひとりの男子をめぐって女子ふたりが争うイメージ。

 いや、本当はもっといろんなパターンがあるとは思うけどね。

 でも今回はきっとこのパターン。

(私以外にも祐生を好きなライバルがいるにちがいない!)

 なにせ祐生はモテる。めちゃくちゃモテる。

 告白されるたびに『ごめんね、俺はだれともつきあう気はないんだ』って断ってるから、今では祐生に告白する子は減ったけど、でもやっぱりモテる。

(あれだけやさしいうえ、かっこよくて何でもできるんだからなつとくだよね)

 いっぽう、私はモテない。

 生まれてから一度も告白されたことなんてない。ふつうの女子なんだから当然だ。

(……ふつうだよね? ふつう、告白とかされないよね???)

 うん、ふつうの女子はモテないと思う。私の個人的な体験だけど!



 とにかくそんなじようきようから考えて、例の三角関係トライアングル警報は祐生をめぐって争うライバルが現れるって意味なんだと思う。

 つまり三角関係トライアングル警報を消したい私としては、ライバルを消すべきなんだろうな。

 祐生のことをあきらめてもらうとか、そんな感じで。

(うーん、でも……それって、すごい罪悪感だよね。悪いことだと思う)

 想像するだけで良心がちくちくと痛む。だってライバルとはいえ争うとか良くないよね。

 しかも消すとかたおすとか、平和主義者で小心者の私としてはけたいところ。

(とはいえ──)

 このまま警報にじやされて告白もできない状況でいいのか、っていうと、それも困る。

 なんにせよ、ひとりでなやんでいてもしかたない。

(まずはライバルの存在をかくにんしよう! 考えるのはそれからだ)





 五時間目の数学Ⅰをせいにし、六時間目のHRでは空気のふりをして文化祭・クラス展示の役職からのがれつつ三角関係トライアングル警報について考えたあとの放課後。

 部活に行く前の親友をつかまえて私はさっそく聞いてみた。

「あのね春奈、ちょっと聞きたいんだけど、祐生を好きな子に心当たりとかある?」

「えっ、まさかあんた、日吉くんを好きな女子が自分を呪ってるって思ってるの? だから告白できない的な」

 私の問いに春奈がドン引きの顔をした。そういえば春奈は呪い説を主張していたんだっけ。

 私はあわてて「そういうわけじゃないよ」と否定する。

「ただ、あまりにも告白がうまくいかないから、いったんしばらく告白をやめようと思うんだよね。だからってそのあいだに祐生がほかの子とつきあいはじめたらいやだし、どうなのかな~って思って」

(うんうん、これなら自然な理由だよね)

 春奈も「なるほどね」と納得してくれた。

「でも日吉くん、恋愛にキョーミ無いって話だし急につきあったりしないんじゃない?」

「そ、そうかなぁ。だったらいいんだけど……」

 私が引き下がりそうになったとき。

 春奈が「あえて言うなら」と口をひらいた。



「さいきん転校してきた美少女くらいじゃない? たしか日吉くんと仲いいんだよね」



「え……?」

 とつぜんの言葉に私は春奈を見つめた。

(転校生? 仲いい? どういうことなの。なんの話?)

 私には春奈がなにを言っているのか、まったくわからない。

 ぼうぜんとしていると、春奈が不安そうな声をだす。

「ヒカリ、もしかして日吉くんから聞いてないの? 日吉くんたちのクラスに転校生がきて、それがすごい美少女なんだけど日吉くんとしかろくにしゃべらないって話……」

「ええっ!?」

(なにそれ、ぜんぜん聞いてない!)

 おもわず大きな声を出してしまう。

 春奈が「あたしは彼氏に聞いたんだけど」とつけくわえた。

(知らなかった……)

 祐生からは、仲がいい子ができたなんて話はもちろん、転校生のことさえ聞いていない。

 そりゃ祐生の生活を全部知っているとは思ってないけど、それにしたってショックだ。

(だって、よりにもよって美人の転校生なんて!)

 気にならないわけがない! ましてや三角関係トライアングル警報なんて出ている今はなおさらだ。

(こうなったら、転校生と祐生の関係を調べなきゃ──っ)

「ちょっとヒカリ?」と言う春奈を無視して、私は教室からけ出した。



2-2 あやしいふたり



 教室を出た私は、とにかく知り合いに聞いてまわった。

 中学のときの友達とか、おなじ図書委員の子とか、祐生の友達とか、いろんなひとに。

 転校生を知っているか? どんなひとなのか? 祐生との関係は?

 結果、返ってきた答えは。



「ああ、B組のたかぼしさくらさんでしょ? めちゃめちゃ美人だよね!」

「前の学校は華京女子高だってさ。いわゆるおじようさま学校。なんで転校したのかは知らない」

「誰ともしゃべらないから女子のあいだでも浮いてるみたい」

「友達いないっぽいよ。──あ、日吉とだけは仲いいけど。生徒会にもさそったらしいし」

「すげぇかわいいし告ってみたら、そっこー断られた! 好きなひとがいるんだってさー」



 ……という、聞けば聞くほど不安が大きくなるものばかりだった。

 高星桜。美人で上品で知的らしい。しかも祐生とかなり仲がよい様子。

 正直言って、ライバルだとしたら強力すぎる。

(祐生が高星さんとつきあったらどうしよう。どうすればいいの?)

 あせる私に、図書委員の女子が告げた。



「高星さんなら、さっき日吉くんと情報科教室に行ったよ」

「!」

(ふたりきりで情報科教室!?)



 まずい。

 これは、かなりまずい。



(そんなの、いかにも告白しそうじゃない────!)



「天野さん?」としんそうな声をあげる女子を無視して、私は夢中で走り出した。





 人込みをかきわけて、階段をのぼって。

 たどりついたのはろうのつきあたりにある情報科教室だ。

 そっととびらに近づくと、祐生の『えっ?』というとまどう声が情報科教室から聞こえてきた。

 なにがあったんだろう。気になって、さらに扉に近づく。

 ぬすみ聞きなんてだめだとわかっていても、つい耳をすましてしまう。

 続けて聞こえてきたのは、すずやかな女子の声。

『べつにわたしはいいわよ』

『でも高星さん』

 祐生が呼びかけるのが聞こえた。どうやら涼やかな声のぬしは噂の高星さんらしい。

『俺は無理にするようなものじゃないと思う』

『本気ならそれくらいするべきだわ。それとも遊びのつもりでわたしを誘ったのかしら?』

『そういうわけじゃないけど』

 困った様子の祐生と、つめよるような高星さん。

 聞こえてくるふたりの会話に、私の指先が冷たくなる。

(これは、どういうじようきよう?)

 おそるおそる、扉に手をかける。

 高星さんのたんたんとした声がひびいた。



『なら、かまわないじゃない。────キスくらい』



(な────)



 頭のなかが真っ白になる。



「ちょちょちょちょっと待ったーーーー!」



 気付けば反射的にさけんでいた。

 ばん! といきおいよく扉を開ける。

 直後。



「あれ、ヒカリ?」

 きょとん、と、ふしぎそうな顔をする祐生と目が合って。



だれ?」「どうしたんだ」「なにかあったの?」「用事かな」「だいじょうぶ?」



(えっ)



 祐生のまわりにいるたくさんのひとが、私を見ていた。





(……ふたりきりじゃ、ない?)



 てっきり、祐生と高星さんは情報科教室にふたりきりなんだと思っていた。

 しかもキスをしようとしているんだ、と。

 だからあせって扉を開けたというのに、じっさいの情報科教室には祐生をふくめて生徒が十人ほど、おとなしく座っている。

 きようだんには背の高いきれいな女子生徒が立っていて、私をじっと見つめた。

 彼女の背後にあるホワイトボードには大きな文字が書かれている。

〝文化祭の生徒会出し物 会議〟。



(こ、これって、まさか)

 ひやり。

 背中に冷たいものが流れる。

 人生で最高にいやな予感がする。

 だらだらと冷やあせを流していると、すみに座っていた男子生徒が立ち上がった。

 赤みがかったちやぱつの男子生徒は、つかつかと私の前まで歩いてくる。

 やがて。

 どこかで見たような冷ややかなまなざしが向けられた。



「いまは生徒会の会議中だ。なにか用か?」



(やっぱりいいいいいい)



 低い声とともに、茶髪の男子生徒が私の前に立ちはだかった。




2-3 ようこそ地獄へ




(まさか祐生と高星さんのふたりきりじゃなく、生徒会の会議だったなんて!)

 やっちゃった。やってしまった。

 祐生と高星さんがキスしようとしているとかんちがいしたあげく、生徒会の会議に乱入してしまうとか、私ってば最低すぎる!

(そういえば祐生はもともと生徒会メンバーだし、高星さんのことも生徒会に誘ったって誰かが言ってたんだ。なんでその可能性を思いつかなかったんだろう。あああ、私のばかー!)

 いてもたってもいられなくて、私は「すみません、失礼しました!!」と頭をさげる。

 そのままげようとすると。

「おい、ちょっと待て」

 茶髪の男子生徒が私を呼び止めた。



「用があったんだろう? 話は俺が聞く」

(ひえっ、どどどどうしよう)

 これは困った。だって話なんてないんだもの。

 祐生が「彼女は俺に用があったんだと思うので」と助け船を出そうとしてくれる。

 けど、茶髪男子は祐生の提案をことわった。

「日吉の知り合いなら、俺が代わりに聞いておく。日吉は会議に集中していろ」

「でも、あきづき会長」

「いいから」

 祐生をごういんにだまらせて、秋月会長と呼ばれた茶髪男子が私を見下ろす。

 どうやら彼は生徒会長らしい。

 言われてみれば、生徒会長は秋月とかいう名前だった。

(でも、それ以外でもどこかで見たような……?)

 どこで見たんだっけ? なかなか思い出せない。

 とまどっていると、秋月会長が「行くぞ」と私を廊下に連れだした。

 そのさい、秋月会長は壇上の女子生徒に声をかける。

「ちょっと俺は出るけど会議は続けていてくれ。人手が足りない件は考えておく」

「わかりました」

 秋月会長が女子生徒に告げた。

「よろしくな、



(え──)



 ぱたん、ととびらが閉められた。





(高星って、つまりさっき壇上にいた女子が高星桜さんなの!? き、気になる……!)

 美人の転校生、高星桜。

 祐生と仲がいいとうわさで、私のライバルと思わしき女子。気にならないわけがない。

(とはいえ、まずは目の前の秋月会長だよね)

 私はあらためて、秋月会長にむきなおり頭をさげた。

「あの、会議中にとつぜん入っていっちゃって本当にすみませんでした」

「たしかにかなりめいわくだったな。はっきり言ってかるくけいべつする」

(うっ)

 うでを組んだ秋月会長が私を見下ろす。

「高校生にもなってノックもかくにんもせず飛び込んでくるなんてずかしくないのか? 今後はもうすこし落ち着いて行動したほうがいいぞ。あと叫ぶな。うるさかった」

「は、はい、そうですね……」

(秋月会長の言葉が厳しすぎてつらい……事実なんだけどさ)

 反省して「次からは気を付けます」としんみように言えば、秋月会長は「それならいい」とうなずいてくれた。ほっとひと安心だ。

「じゃあな。もう走ったり叫んだりするなよ」

「はい」



「…………」

「…………」



 説教を終えた秋月会長が、しんげに私を見た。

「……帰らないのか?」

「……いえ、その」

 ちらり。私は情報科教室の扉を見た。

(あそこに今、祐生は高星さんといるんだよね)

 気になっているのはたったひとつ。



 結局、キスってなんのことだったの? ってこと!



(あれが解決しないと気になって帰れないよ)

 できることなら、今すぐぬすみ聞きを再開したいくらいだ。

 とはいえ、そんなよこしまな気持ちをなおに言うわけにもいかなくて、だまってチラチラと情報科教室の扉を見る。

 私の視線に気づいた秋月会長が首をかしげた。

「もしかして会議の様子が気になるのか?」

「う……っ、は、はい。すこし」

「ただの会議だぞ?」と秋月会長はふしぎそうに私を見る。

「まあそんなに気になるなら、ちょっとくらい見てもいいけど」

「いいんですか!?」

「ああ。ただし絶対にじやするなよ」

 秋月会長が扉を細く開け、小声で説明をつけくわえてくれる。

「今日の議題はホワイトボードに書いてあるとおり、文化祭での生徒会の出し物だ。今年は劇の予定で、内容は白雪ひめ。主役けんかんとくが壇上にいる高星だ」





 扉のすきから私がまず見たのは、壇上の女子生徒のこと。

(あれが高星さんか)

 すきとおるような白いはだ。すらりとした手足。さらさらと音がしそうなきれいなかみ

 大きなひとみは長いまつげにふちどられている。ちょっと気が強そうな美少女だ。

(うわぁ、ほんとにかわいい子だな)

 見ているだけで、ため息がこぼれそうになる。

 ああいうひとはパンダのモコモコくつしたなんてかないんだろうし、ましてや幼なじみがキスしていると思い込んで会議に乱入したりもしないだろう。なんでもかんぺきにこなしそうだ。

「いかにも白雪姫って感じですね……」

 私が感想をこぼすと、秋月会長が冷たく返してくる。

「顔は関係ないだろ。高星は演劇部の経験があるから日吉がスカウトしてきただけだ」

「そうなんですか」

(祐生、スカウトなんてしてたんだ)

 私はそれも知らなかった。秋月会長がつけたすように言う。

「ちなみに王子役は日吉だぞ」

「ええ! 祐生が王子っ?」

「うるさい」

 大声を出すと、秋月会長ににらまれた。

 けど、しかたないと思う。

 だって祐生が王子なんて、はまり役すぎるもの!

(すごい楽しみになってきた! ……あれ、でも私、やっぱり祐生から何も聞いてないよね)

 なんで祐生はだまっていたんだろう。

 いつもの祐生なら恥ずかしがりながらも教えてくれそうな話なのに。

(そもそも、どうして祐生は高星さんのことを何も言わなかったの?)

 すくなくとも私たちは友達のはずなのに。

(……高星さんが特別だから?)



 祐生が何も話してくれていなかったことが気になって、胸のあたりがそわそわする。

 なにもかもが不安でしょうがない。

(そういえば、祐生が王子役で高星さんが白雪姫役ってことは、キスって劇のことかな)

 秋月会長に聞いてみると、秋月会長は「ああ」と、うなずいた。

「ほら、白雪姫って王子のキスで姫が生き返るとかそんな話だろ。高星はキスのふりをするんじゃなく、ちゃんと実際にキスしたほうがいいんじゃないかって言ってたんだ」

(そういうことだったんだ)

 祐生と高星さんのキスわくは、あくまでたいの話だった。

 けど、それで私の心が晴れるわけじゃない。

「まぁそこまでする必要はないし止めるつもりだ」という秋月会長の声が耳を通りすぎる。



(やっぱり、高星さんは祐生が好きなのかも)



 だって好きでもなかったら、いくら演技とはいえキスなんてできないと思う。

 しかも高星さんは噂どおり、祐生と親しそうに話している。

(まさか、このままふたりはつきあっちゃうの? そんな──)

 ふるえそうになる指先をにぎりしめたとき。

 秋月会長が「へぇ」と意地悪く目を細めた。



「おまえ、日吉と高星の仲が心配で見に来たのか」





「ふぇっ!?」



 とっさに変な声がでた。

 秋月会長が「うるさい」と顔をしかめて、とびらをふたたび閉める。

 だけどそんなことにかまっていられない。

「な、なな、なんでそれを!」

 恥ずかしさのあまり声がうわずる。

 とたん、秋月会長は「やっぱりな」とつぶやいて。

 急にきよをつめてきた。

(……え?)



 とつぜん近づかれ、つい後ずさってしまう。

 背中に冷たいかべが当たるのがわかった。

 間近にせまった秋月会長と目が合う。

(秋月会長って、こんな顔してたんだ……)

 どうしてかべぎわに追いつめられているのかわからなくて、私はそんなことを考えてしまう。

 祐生と高星さんばっかり見ていたから、ちゃんと秋月会長の顔を見たのはこれが初めてだ。



 強気な表情がよく似合う、髪と同じ色をした切れ長の瞳。自信にみちた笑いかたをするくちびる

 堂々とした立ち姿には、なんとなくあつとうされるげんみたいなものさえ感じる。

 甘いふんの祐生とは正反対のタイプだ。

 見とれてしまいそうなほど、ととのった顔──。

(あっ、そうだ。この顔、どこかで見たと思ったら前に見かけたんだ)



 ふいに気付いた。

 私はこのひとを通学路で見たことがある。

 くちげんをしていた女子生徒と男子生徒。れんあい予報が【かみなり】と【大雨】だったふたり。

『恋愛に興味はないしだれともつきあう気はない』とか言って、男子は女子をっていた。

(秋月会長ってば、あのときの男子生徒なんだ──!)

 あのときの冷たい横顔とはちがい、みょうに楽しそうな顔で秋月会長がささやいた。



「日吉が好きなんだな」

「!」



 秋月会長のてきに、私の顔が一気に赤くなる。

 秋月会長が鼻で笑う気配があった。

「態度でばればれだ。おまえ、うそがつけないタイプだろ。なおっていうか、なんていうか……いまどきようえんでも、もうちょっとうまくごまかすぞ。つくづく子供脳なんだな」

「子供脳!?」

「安心しろ、多少要領が悪い人生を送るかもしれないけど、噓つきよりよっぽど美徳だ」

(なんかひどいこと言われてる気がする!)

「ちなみに」と秋月会長に目をのぞきこまれ。

 きよぜつをゆるさない口調で問いかけられた。



「おまえ、名前と学年は?」

「へ? えっと、1年の天野ヒカリですけど」

「部活は?」

「はいってません」

「委員会は?」

「図書委員です」

「図書委員だと文化祭の出し物は古本市だったな。役職は決まっているのか」

「えっ、午前に店番を……」

「なら、クラスの出し物は?」

「希望生徒のダイエットちようせん記録展示です」

「ああ、1Cのあれか。変な展示だよな。で、おまえの仕事は?」

「…………とくにありません」

 なにせ役職を決めるHRで、私は三角関係トライアングル警報になやんで空気になっていたので。



 立て続けに変な質問をしてきた秋月会長は、満足したのか「ふんふん」とうなずいた。

「理想的なかんきようだな。しかもあつかいやすい」

 秋月会長のひとりごとが聞こえる。

(待って、なんかいやな予感がする)

 できれば今すぐ、ここからげ出したい。

 けれど私が何かをするより前に、秋月会長が口をひらいた。



「おまえ、生徒会の劇を手伝え」

「…………はい?」



 いったい何を言われたのか、いつしゆん理解できなかった。

 そもそもどうしてとつぜん命令形なのか。



 まぬけな声をあげた私に、秋月会長は続ける。

「手伝うって言ってもたいしたことじゃない。雑用だ。部活に入ってなくて、クラスの出し物でもたいした役職についていないならちょうどいい。委員会のほうには言っておく」

「な、なんで私がっ?」

「たいていのやつがめんどくさそうだからと断ってきて人手不足なんだ。でも、おまえは日吉と高星がどうなるか気になるだろ? 手伝うことになれば近くで様子をさぐれるぞ」

「………………」

明日あしたから手伝いに来いよ。俺の手伝いとして指名しておく。ああ、おまえ、覚えてなさそうだから教えておいてやるけど、俺は生徒会長の秋月れんだ。2Aな」

「あの、受けるつもりはないんですが」

「ちなみに断るなら、おまえが何をしにきたのか日吉と高星にばらす」

「な!?」

 あっさりと言われて全身から血の気が引く。

 けど、目の前の秋月会長は本気のようだ。

(これ、まさか──……)



「……私、きようはくされてます?」

「よくわかったな、そのとおりだ」

 にやり。

 秋月会長は本当にあくどい笑いをみせて。

 ごうがんそんに言いきった。

「ちょうど手伝いが足りなくて困ってたんだ。よろしくな、



(こ、このひと、やっぱりひどい! 悪人だーーーー!!!)



 かくして私は秋月会長のごういんな手段によって生徒会を手伝う羽目になってしまったのだ……。





<続きは本編でぜひお楽しみください。>


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