青春ストーリー大特集!〈スイート編〉
角川ビーンズ文庫
5分後にキミのひと言ではじまる恋/恋する実行委員会
オレンジ色のキミ あやちょこ
カリカリと数字を刻む、キミのそのシャープペンシル。
製図メーカーの3000円もするスタイリッシュな冷たいアルミ製。
長い指に桜貝みたいなキレイな
長い
放課後のこの時間、図書館はオレンジ色に染まるから、私の中でキミの色はオレンジに決まっていた。
たった45分間のオレンジ色の時間。
長い睫毛が下を向いている時だけ、私はキミを
キミと私は一度も同じクラスになった事がない。
この3年間、たった一度も。
時おり行くキミのクラスは男女仲が良くて、いつもみんな楽しげだった。
でも、キミはよく一人でヘッドフォンをして外を
話を
笑うでもなく、
キミのクラスにいる、私の友人は言う。
「
「バスケ部が練習してるの見たけど、
私が言うと「バスケバカじゃん、遠藤って。部活だと女子マネとも普通に話すみたいよ。付き合ってるって
私は心に
それを友人は
私はあわてて「私は由依キライじゃないよ。一年の時、仲良かったし」と否定するけど、友人は「
「入り口、ふさがないで」
教室の入り口で話していた私たちに言ったのは、キミだった。
私はうなじが総毛立った気がした。
ヒヤッとして、
「聞かれたかな」
友人の言葉はさらに私に刺さる。
「悪口ちくるような
あっけらかんと言う友人に、私は泣きたくなった。
悪口……。
思ってもいない悪口をキミに聞かれたかもしれない。
しかも彼女、いるんですか……。
私は
私はその日、運が悪かった。
雨が降っていてやたら
いつもなら同じバス停から乗る女友達からは、親に車で送ってもらうと
乗りこんだバスは身動きが取れないほど混み合っていて、高い
私はバスの中ほどで、
人いきれ、
息が
それに加え、お
「
私は目の前の一人席に座る、同じ学校の制服に身を包んだ男子に名前を呼ばれて
「ここ座んな」
私が驚いていることなど気にもせず
「あの……ありがとうございます。名前……」と言うと、その男子は私のスクールバッグにつけてあるパスケースを長い指でさして言う。
「そこに書いてあった」
素っ気ないほど短い返事。
私は聞けなかった。
そうじゃなくて、キミの名前を聞きたかったのに。
そんな、キミとの出会いから
私は意気地なし。
名前は後から知ったけど、あの時にちゃんと聞かなかったから、学校ですれ
キミのことを目で追って、そんなことをしているのは私だけじゃないことに気づくと、また
せめてクラスが
まともに話すことなどないままに、とうとう3年生の夏が終わり、部活を引退したキミはバスを待つ45分間を図書館で勉強するようになった。
私はいつも六人がけのテーブルの通路側の
キミはいつも
私が勇気を出して近寄れた
まだまだ遠くて話すこともできないけど。
キミを密かに盗み見ると、近くてドキドキする。
キミの
意気地なしの私が勇気を最大限ふりしぼって近づけたのは、キミの睫毛がやっと見えるこの席までだった。
集中なんてできないけれど、私も数学の教科書とノートを開く。
そして、一応問題を解いてみたりする。
キミは長い指でそのスタイリッシュなシャープペンシルをくるんと回転させる。
そんな時、私の気持ちもキミの手のひらで
あまりに
それを
「悪い、投げていいよ」
キミはオレンジ色に染まった頭を振って、よく見えるように目にかかっていた
私は
放物線を
「どうも」
キミはそう言って、もう一言なにか言いたげに私を見つめていたけれど、また下を向いてノートに視線を
この時がオレンジ色で良かった。
私の顔がきっと赤くても、キミにはオレンジにしか見えなかっただろうから。
私はドキドキしたまま数学のノートを
そうでもしないと、
それに、良かったと飛び上がりたくなる気持ちを
変なやつだとキミに思われたくない。
やっと近寄れた斜め向かいの席だから。
時間が来てキミが立ち上がるまで、私はいつもよりずっとドキドキしていた。
でも、キミは相変わらず何でもないように片づけをして、バス停に向かって図書館を後にした。
***
毎日毎日、決まった席で勉強を45分。
意気地なしの私の至福の時間。
オレンジ色の時間は短くなり、最近は図書館の明かりが灯って味気ない。
冬になり、年が暮れようとしていた。
もうすぐ冬休み。
いつものように、45分間勉強をしたキミが立ち上がる。
私もそれにつられるように、ポーチ型の筆箱にシャープペンシルを片づけはじめた。
キミはいつものように私の横を通りすぎると思っていた。
しかし、私の視界にキミの桜貝色の
「いつになったら、隣に座んだ向井理緒」
「え……」
「チラチラ見てるなら、堂々と隣に座れよ、ばーか」
私は自分でも真っ赤になったのがわかるほど顔が熱くなった。
そんな私を見てキミが小さく笑う。
「ヘタレだな。ほら、バス来るぞ」
私は固まる。
フリーズした機械のように動けないまま。
そんな私にめったに笑わないキミはまた表情を
「
キミはそう言うと、歩き出そうとした。
だから、私は
「一緒に! 一緒に……帰りたい」
キミはおかしそうに
それからの私は、キミの隣が定位置になった。
好きですと言ったのは、年が明けてから。
キミは「今さら」とまた笑って、キスをした。
夕焼けがキミを照らす、オレンジ色。
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