5分後に失われる恋/恋する実行委員会
特Aランクの失恋に対する傾向と対策について 稲村カカシ
◆
……エ?
「エエ────────────!!」
すでに夜にドップリと
が、今の私には、その声に
メール
───オレ、好きな子できたから、別れてくれ。───
何度見ても、何語に
さすがに、
つまり、「フ・ラ・レ・タ」のだ。
◆現状の
(落ち着いて…落ち着いて、ワタシ!! こういう時には、そう、深呼吸、深呼吸しかない!! 大きく息を吸って、
冷静になろうとすればする
「よし」と気合いを入れ、スマートフォンを片手にディスプレイをにらみつける。ディスプレイに映り込む自分の目が血走っていて
メールアプリを起動し、彼からのメールに返信しようと人差し指を
[ホントに好きな人ができたの?
そんなに、その人が好きなの?
その人と付き合ってるの?
ゼッタイ、私の方がその人より好きなのに]
文字を入力していた手が止まる。
(こうじゃない。私が伝えたいのはこんな事ではない)
メール
つまり、私が送るべきメールの内容はこうだ。
[わかった。
好きな人ができたんだったら仕方ないよね。
じゃあ、もう、これからは友達っていう事で。これからは、ただの友達として、メールとかしても良いかな? ゼッタイ、ジャマなんてしないから]
内容を全面的に
そばにいてチャンスをうかがおうという気持ちはヒタ
(
何が大丈夫かは、自分で
(送信…できない)
もし、もしも、
拒否する様な人ではない。と、信じたいけど、だけど、万にひとつ、億にひとつなんて事もあるかもしれない。
(ああ、ムリムリムリムリムリムリムリ!! 送信なんてできない。
拒否できない場所。そうだ、学校の中でなら、確実に彼に伝えられる。直接伝えるなら、拒否リストに登録なんてできない。
(うん、
私のこの思いの
この夜は
◆セカンドオピニオン
翌朝、目の下にクマさんを飼った私は、入学以来初めて教室に1番乗りした。
私は2組で、彼は5組。教室も違えば階も違う。1、2組は3階。3、4組は2階。そして、5、6組は
(いや、それだと、別れた彼に、元彼に、今では片思いになった人に……)
ああ、自分の考えに、どんどん心が折れていく。
(そもそも、「学校では話しかけないでくれ」と言われていたんだ)
「ちょっと、
(ダメじゃん)
これだと、学校で話しかけるなんてできない。
そう言えば、付き合い始めてから3ヵ月の間に、デートした
3ヵ月前、告白したのは私からだった。
何の部活にも入らなかった私は、基本的にはすぐに下校する。何をするでもないが、学校にいて良い事なんて何もない。でも、あの日、数学の宿題を忘れた
キュン…と胸が鳴った。
マンガみたいに、キュンと。
なぜ、
多分、トキメキに
3ヵ月間、
ひとりで
「でね、ちょっと聞いてほしい事があるんだけど…」
「何? って、そう言えば、アンタ今日顔色悪いよね。何かあった?」
「なーんちゃって」
グーで
大きく深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。そして、周囲に人がいない事を
「実は…昨日、フラれちゃって…」
「は?」
「だから、昨日フラれちゃって」
「誰が?」
「だから、ワ・タ・シ」
「誰に?」
「5組の…彼氏に…」
「意味がわかんないんだけど? え? 何? フラれたって、誰に?」
「だから、カ・レ・シだってば」
「リア
ふと思い出す。
そう言えば、彼が「あまりみんなに知られたくない」と言っていたので、付き合っていることは彼女にも話していなかった。つまり、彼氏ができたという話をすっ飛ばし、別れ話をされたという相談をしようとしているのだ。
(ああ、ダメかも…)
「へえ、そうなんだ。彼氏ができたら真っ先に報告しようね!! とか、お
(もうダメだ)
相談どころではない。違う
確かに、もうひとつ問題が増えたおかげで、フラれた事を
親友に解決策を求める事はあきらめた。同時に、放課後、駅前のドーナツショップでおごらされる事が決定した。
◆
放課後───
「私のドーナツが食べられないのか!!」と、ドラマで見る
将来、OLになった時の予行演習のようだ。と言うか、そもそも、そのドーナツは私のおごりなのだから、彼女のではなく「私のドーナツ」だ。
2時間余り散々イヤミを言われた後、ようやく解放された私は大きくタメ息を
これからどうすれば良いのか…例えば、泣いてすがりつくべきなのか、ストーカー生活を送るべきなのか、意見を聞きたかったのだが、まったくそんな
ハッキリ言うと、これっぽっちも役に立たなかった。
再び
ふと視線を上げると、駅前の本屋が目に入った。
(本? 本!? そうか、本だ!!)
友人も少なく、その友人でさえも相談相手にできない私は、本に
新刊のマンガコーナーしか知らない私は、店内をキョロキョロと見回す。おそらく、はたから見ると挙動
深く考えずに入店したが、実際、
(店員さんに…聞けない)
グルグルと店内を
(恋愛って、趣味なのか? 恋愛マスターに成長しろと? それとも、
いろいろと思うところはあったが、勢いに任せて3冊も
本屋の
階段を上がり自室に戻った私は、袋から本を取り出して並べる。本のタイトルは、「
とりあえず、タイトルに共感できる「大失恋」を手に取り、ページをめくり始める。
内容は、タイトル通り、著者が経験した厳しい失恋の話だった。出会いから別れまでを、時系列で語っている。
コンパで知り合った彼氏からの
読んでいるコチラの頭が痛くなる。こんな男は
当然、浮気はこの1回で済むはずがなく、2度、3度と
(最悪だ)
ダメな男に捨てられる女。
(この人に比べれば、私はかなりマシな方だ)
この本は、こう
─────私の方がマシだと思った人は、地獄に落ちればいい!!─────
次の本を手に取る。「失恋~アノ男が悪い~」。
確かに、相手が悪い!! と思いこめば、一時的には救われるかもしれない。
しかし、それでは
せっかく人を好きになったのだ。
その事をウソにしたくはないし、少しでも自分の成長につなげたい。
えっと、「恋愛成就!! ライバルを呪え」は、本格的にヤバ系の内容だった。
(これって、犯罪ギリギリなんですけど。と言うか、こんな内容の本を売っていいの?)
恋敵に対して
そもそも、別れ話は彼と私の問題で、第三者には無関係だ。
恋敵が悪い、アノ男が悪い、と思いこめば楽になるのかもしれない。それでも、私にも原因がなかったとは、どうしても思えない。
もっと、何かできたのではないだろうか。
返事がないと分かっていても、もっと、メールすればよかったのかもしれない。
もっと、
もっと、もっと、できる事があったはずだ。
私が、もっとかわいければよかったのかもしれない。
こんな、かろうじて
彼の気持ちを、もっと理解しようと努力すればよかった。
もっと、もっと、もっと、もっと─────
もっと、一緒にいたかった。
◆完治
その後、深夜までインターネットの恋愛相談を
でも、いくらあがいても、失恋したという事実は消えない。
どんなに親身になって話を聞いてくれても、
結局、自分で解決するしかないのだ。
「今日の放課後、ちょっと良い?」
「え、ああ、うん」
よく分からないが、何となく断れない
しかし彼女は、私の期待を当然のように裏切った。
彼女は、コッチコッチと手招きをしながら校庭を横切り、今まで行った事もない校舎と校舎の
そこで、彼女は一点を見つめ、ゆっくりと指を差す。
その指の先を、私も見つめる。
上半身が
「ここからなら、男子
「アホか─────!!」
思わず
「って、一体、何がしたいの?」
興奮さめやらない私は、
「いろんな事やって、少しずつ
彼女の言葉に、私は目を見開く。
「本気で人を好きになったらさ、そう簡単には忘れられないけど、やっぱ、思い出に変えていくしかないんだよ。フラれて、落ちこんで、
彼女は恥ずかしそうに
「まあ、私の経験だけどね!!」
その日の夜、私は1通のメールを彼に送った。
[短い間だったけど、ホントにありがとう。バイバイ!!]
このメールは
その瞬間、目の前がボヤけた。
ずっと
玉のような涙が
口がへの字になる。
大声で泣いた。
とにかく泣いた。
泣いて、泣いて。
泣いて、泣いて。
泣いて、泣いた。
きっと私は、
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