旅のおわり

晴れ時々雨

🌑

顔の中央に大きな傷のある少女の夢枕に、豊かな白い髭を蓄えた老人が立った。

老人は少女の傷に触れ、この傷を消したくば旅に出るがよい、さすれば自ずと道は開かれるであろう、と言った。

貧しい家の少女は日頃から、この傷が消えてしまえば自分が不幸では無くなると思っていたので、目覚めると書き置きを残して旅立った。今頃、祖母は扱き使う相手がいなくなったことに気づいて怒り狂っているだろう。少女はほくそ笑んだ。あてなどないが、とりあえず見知らぬ遠い土地へ向かった。


とにかく傷を治せる医者を探したが、誰の話も噂の域を出ず、訪ねた先でその都度、父親の違う2人の子供を産んだ。

少女の旅は続く。左手に男の子、背中に女の赤ん坊を背負い、大きな腹をした少女の顔の傷は薄れはしたものの、誰も彼もが少女と話す時にその傷と喋るのだった。


一体いつこの旅は終わるのだろう。目的の途方のなさに少女は疲れきってしまった。

その夜、大樹の根元にこしらえたあばら家で、急激な腹の張りを感じて目を覚ますと、いつの間に立て掛けたのか、小屋の前に一挺の梯子が見えた。張りつめる腹を抱えながら梯子までいくと、それは不思議と立て掛けた先が見えない。その瞬間破水した。梯子に両手を掛けたままいきむ。すると股の間から温い水とともに勢いよく腹の中の塊が飛び出し、地面で産声をあげた。胎児の背中はその際に傷がついた。力を抜いた少女は倒れ込み、そのまま這いずって小屋の中から錆びかけた鋏を持ち出し、自分と胎児を繋ぐ赤黒い糸を切る。

自分の服の裾で包んだ、まだ湯気の立つ赤ん坊を胸に抱き、今目の前に現れたのは旅の終わりへと続く梯子かもしれないと思った。

子どもは2人、薄布の上で寝息を立てている。水の場所と街までの道は上の子が知っている。少女は産まれたばかりの子どもを抱き直し、梯子に足を掛けた。

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旅のおわり 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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