【優秀賞】武田信玄Reローデッド~転生したら戦国武将武田信玄でした。チートスキル『ネット通販風林火山』で、現代の物をお取り寄せ無双して、滅亡する武田家の運命をチェンジ!
第29話 黒幕を推理する事、名探偵コ〇ンの如し
第29話 黒幕を推理する事、名探偵コ〇ンの如し
「ふひゃひゃひゃ! ふむ……話がデカすぎて、このじじいにはわかりませなんだが……ならば
妖怪じじい
「
「左様でございますな。仮に、
おっかないな……。
だが、ベテラン
森山崩れで、若くして亡くなったが、もし
俺が天下を狙うなら、
それならば……、早めに消えてくれた方が良い……という事か……。
「ねえ。私が発言しても良い?」
俺の横に座る
香は一芸『真実の目』で金山の位置を言い当てた。水脈の位置を言い当てて井戸掘りに協力している。
幹部たちも一目置いているし、
この戦国時代は男尊女卑バリバリの世界だ。
だが、同時に実力の世界でもある。女性であっても実力で後世に名を
香が幹部会で発言しても問題ないだろう。
「かまわないよ。気になる事があったら香も発言して」
「ありがとう。そもそもなんだけど……、その松平さんはなんで阿部さんに殺されちゃうの? 松平さんを助けるかどうかは、その理由にもよるんじゃない?」
「なるほど! さすが香様!」
飯富虎昌がすかさず合いの手を入れる。
おまえ……。
まあ、飯富虎昌は放っておこう。
「順番に説明するとね……。松平家の家臣
「どんな噂?」
「
「ふんふん」
「でも
「誓書って?」
「自分の誓いを書いた紙の事だよ。たぶん
「わかった。それから?」
「
「何にも問題ないじゃない! その
香はちょっと大きめの声を出した。
まあ、そうだよな。ここまでの話だけ聞くと
だが……。
「それがね……。勘違いなんだよね……」
「勘違い?」
「そう。
「えっ!? うそでしょ!?」
「うそみたいな本当の話」
香は心底呆れ返った顔をしている。
そうだよな……。こんな勘違い、早とちりで自分の主君を斬り殺すなんて、ちょっとあり得ないよな。
幹部たちも何とも言えない微妙な顔をしている。
まず板垣さんが発言した。
「それは何とも……。
「実はこの事件には他に不審な点が多いです」
「不審な点?」
板垣さんは眉根を寄せる。
そう。この森山崩れは不審な点が多すぎて、陰謀説もある位だ。
「まず実行犯の
この
俺は板垣さんに念を押した。
「わかりました。
「そうです。それから月日は流れて
「後を継いだ息子も早死にですか……。死因が諸説あると?」
「はい……暗殺説があるのですよ」
「えっ!? 親子二代に渡って暗殺ですか?」
「ええ。松平広忠を殺害したのは
「まさか……」
「そのまさか。
板垣さんはフリーズしてしまった。
そうなんだよねえ。
ここが無茶苦茶不審な点で歴史ミステリーとでも言いますか……。
やっと板垣さんが再起動した。
「お待ちを! するとその植村なる者は、
「ええ。その通りです」
「そんなバカな! そんな事があり得る筈が……!」
そのあり得ない話が天文四年の『森山崩れ』、
さて……、武田家としてはどう対応しようか……。
俺は武田家当主として冷静に判断しようと努めた。
感情の上では……
だから一言『今年は危ないですよ』と教えてあげたい気持ちもある。
だが俺は武田家の当主武田晴信として判断を下さなければならない。
人の生死を損得勘定するなど現代日本ならモラルに反する事だが……ここは戦国時代だ。
俺の判断ミスで武田家が滅び、今ここに座っている幹部やその家族が皆殺しにあう未来だってあり得るのだ。
史実では武田信玄の死後、武田家は滅亡しているのだから……。
俺が沈思黙考していると幹部たちは犯人捜し的な議論をしていた。
「私は
「うむ……
俺もそこは疑問に思う。
出陣中であれば、大将の周りは数人で守りを固めてあるはずだ。
そう考えると……
――仮に事件当日。
大将の
何かの拍子に馬が暴れて逃げ出し、騒ぎが起こる。
『ああ! オマエの父上が成敗されてしまった! 気の毒に!』
そこで
それを
いや、不自然だ。
それよりも……。
まず
『謀反人は
そして
こっちの方がまだあり得るか?
「ひゃひゃひゃ! はてのう……議論がぶれておるぞ。阿部や植村はどうでもよいわ。御屋形様。それで、黒幕は誰です?」
妖怪じじい
「黒幕ね……」
「そもそもの原因は、『
「確かにそうだな。
「それに
「
「ワシは、そっちの方があり得る話だと思いますのう。その黒幕が誰かによっても、我ら武田家の対応が変わるのでは?」
俺はしばらく考えネット通販『風林火山』で買った歴史本の内容を思い返した。
森山崩れが起こるのは、天文四年十二月五日早暁……。
当時、東海地方の勢力図は、今川、松平、織田……。
「ううん……一番怪しいのは、尾張の
「ほっ! 尾張の虎ですか!」
「うん。
「なるほど……」
織田信秀は、あの織田信長の父親だ。
戦国時代初期に活躍した人物で、信長に負けず劣らず非常に優秀。
織田家の勢力を拡大し、美濃のマムシこと斎藤道三を追い込んだ事もある。
政戦両略に長け、陰謀もいとわない。
「次に怪しいのは今川家……。この事件の後、三河の松平家は領地を維持できなくなり、今川家を頼るようになる。やがて三河は今川家の勢力下になる」
「ふむ……しかし、そのような陰湿な謀略を
「その可能性は低いと思う。今川家自体が足利系の名門だしね。森山崩れの暗殺劇は、今川家の色じゃない。ただ、
今川氏輝は凡庸ではないが、際立って優秀な武将でもない。
あまり謀略を用いるタイプでもない。
あり得るとしたら、今川氏輝の母親
寿桂尼は今川家では強い権力を持っていたというし、女傑だったとも。
だが、寿桂尼の実家は公家の名家だ。
そう思考を進めると、『結果的に
「他にはおりますまいか? 黒幕でありそうな者は?」
「あとは……
「ふむ……そやつも臭いですな……」
「けどねえ。この松平信定って無能なんだよ。松平家の当主を名乗ったけれど、家臣がついてこなくて……。結局、
「むう……。動機はあっても、能力が伴わず……」
まあ、もしも黒幕がいたとしたら、織田信秀が濃厚だと思う。
織田信秀はあの織田信長の父親で戦国時代初期の英傑の一人だ。
非常に優秀な人物で
そして、俺は最後に一番薄い線……ほぼあり得ない黒幕説を話した。
「今川義元が黒幕という線も無くは無いけどね」
「ぬうっ! 今川氏輝の倅ですな……しかし、京都で寺に入っているはずでは?」
「うん。けどね。今年天文四年に京都から呼び戻されるんだ」
オマケに
太原雪斎は今川義元の師で、政略に長けた優秀な僧侶である。
後に有名な三国同盟を実現する立役者だ。
三国同盟は、今川家、武田家、北条家が相互に婚姻を結ぶ同盟で、この同盟があるから今川義元は背後を気にせず京都を目指せた。
しかし、その途中桶狭間で尾張の『大うつけ』織田信長に討たれるのだから、世の中どうなるかわからない。
俺は情報担当の富田郷左衛門に話を向ける。
「富田郷左衛門。今川家はどんな様子だ?」
富田郷左衛門配下の忍び『
幹部会議で新参者の富田郷左衛門は、頭を下げたまま答えた。
「はっ! 今川氏輝殿は生来の病弱。ここの所一層体調が悪く、薬師が珍しい薬草を求めております」
「ふん……当主の健康不安……なら息子の義元を京より呼び寄せるかもしれませんな……。御屋形様、今川義元とは、
「うん。掛け値なしに優秀だね」
今川義元は長らく公家かぶれの無能な大名という扱いを受けて来た。
だが、今川家が最大版図を築いたのは義元の時代であり、武田家、北条家と和睦を結び上洛の道筋をきちんと立てたのは義元だ。
これだけの事をしてみせる人間が、無能な訳がない。
超優秀だ。
そして知恵袋の太原雪斎も側に居る。
しかし……。
「しかし、
「ふむ。それなら織田信秀の方が可能性はありますな」
「黒幕がいるとしたらね。あくまで仮定の話だけどね」
そうだ。結局誰が犯人なのかは、はっきりわからないのだ。
ただ、織田が黒幕の可能性が高く、今川義元が黒幕の可能性もゼロじゃないと言ったところだ。
俺と
「
へえ、馬場信春は
「理由は?」
「我らの当面の敵は今川家です。今川家からすれば、『かたや
「そうだな。両方に備える必要がある。戦力を二分させられるな」
「その通りです!」
馬場信春の発言から、また議論が活発になった。
俺はじっと家臣たちの議論の行方を見守る。
正直言って俺もわからないのだ。
長期的には、
しかし短期的には、
非常に悩ましい。
会議の行方を見守っていると『
うん。それならそれで良い。
史実通りなら、今川義元が数年後今川家の当主になる。
東海一の弓取りを相手にしなくちゃならないのだから、
板垣さんが疑問を提示する。
「問題はどうやって
駒井高白斎が回答する。
「手紙では?」
「どうでしょう……信じて貰えますかな? 逆に武田家の謀略と疑われる可能性もあります」
まあ、それはそうだよな。
武田家の幹部連中は、俺が一芸を使ってこの情報を取得していると知っているから信じてくれるが、
いや、それ以前に俺が一芸でこれから起こる戦国時代のイベントを知り得る事を、他の戦国大名に教えるのは良くない。
自分のアドバンテージを見せびらかすなど愚かだ。
俺の一芸は秘匿するべきだ。
そうすると、増々信じて貰えなさそうだ……。
「いっその事、下手人の
この発言は
乱暴な意見だが一理あるかもしれない。
板垣さんがすぐに反論する。
「問題がいくつかあります。黒幕がいた場合は、
なるほど。確かにそうだ。
黒幕が誰にしろ、違う人間にやらせれば良いだけだ。
「それから誰が
「ひゃっ! 恨みを買うな。敵を増やすだけか……」
「左様ですな……」
うーん。良い方法がないな。
皆が黙り込んだところで
「俺が三河まで行って来る!」
えっ!?
■森山崩れについて
森山崩れは史実です。
死因は諸説あり病死とするのが有力です。
一方で
森山崩れの陰謀・黒幕説は作者の創作です。
織田家や今川家が陰謀を巡らせたという証拠はありません。
また、本作では、殺害された松平清康が、謀反の疑いがあった阿部定吉を信じた事にしていますが、これも諸説あるようです。
松平清康が阿部定吉を疑っていた可能性もあります。
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