第61話 紅の剣と呪いの魔剣 14
クエストの報酬でもらった家。
引越しパーティーで盛り上がる中、部屋の片隅でニコアが一人座っている。
他のみんなは楽しそうに食事し、お酒を飲んだリリアがシャーリと無理やり踊っている。
「シャーリさん! ダンスがお下手ですねー!」
「そんなフラフラしながら踊っているあなたに言われたくないわ!」
それを見ながらエレインさんも笑顔でグラスをたかむけている。
「ニコア、楽しんでいるか?」
少し元気がなさそうに見えるけど、俺には作り笑いをしている。
やはりバイスの事が心配なのだろうか。
「楽しんでいますよ。今までで一番……。あの、いつか、私もこの家にお世話になってもいいでしょうか?」
「どういう意味だ?」
ニコアは、少し悲しそうな目で俺に話しかけてくる。
「いつか、私も孤児院を出る日が来るかもしれません。もしそんな時が来たら、この家に帰ってきてもいいでしょうか?」
ニコアはさっきまでとは違う真剣な眼つきで俺に訴えかけている。
「もちろん。ニコアがここに帰ってきたいって思ったとき、いつでも帰ってきてくれ」
ニコアは満面の笑顔で俺に返事をくれた。
夜も更け、次第に周りが静かになっていく。
リリアとシャーリはソファーで寝てしまったようで、俺とセーラが二人を二階に運ぶ。
まったく、こんなに飲みやがって……。
俺もお酒を飲んだので、少し眠くなってきた。
ソファーで横になり、リリアとセーラを眺めている。
「少しお休みになっては?」
薄い布団を持ってきてくれたエレインさんは俺にそっと布団をかけてくれた。
「んー、少しだけ横になろうかな。もし眠っていたら起こしてもらってもいいか?」
「はい、わかりました。では、先に後片付けをしてしまいますね」
三人が食器をかたずける中、俺の瞼はゆっくりと閉じていった。
――
……寝てしまったのか。ふと脳が覚醒しはじめ、薄目で辺りの様子をうかがう
すでに部屋はの灯りは消されてしまい、暗くなっている。
「では、私も先に休ませてもらいますね」
エレインさんは先に休むのか、二階へ行くような物音が耳に入ってきた。
「ニコアさんはこの後お帰りに?」
「はい、バイスの事も心配だし、話したいことがあるので」
「では、帰るときに主様を起こしていってもらえますか?」
「はい、今日はありがとうございました」
「いえ、皆さん楽しんでいただけて、良かったです。今度は泊まりに来てくださいね」
セーラは湯汲に行くようで、部屋から出ていったようだ。
俺もそろそろ起きないと……。
ふと、俺の隣に人の気配を感じた。
「アクトさん……」
ニコアか。
目は覚めたがまだ眠い。頭がぼーっとしている。
「ありがとう、短い期間だったけど楽しかったです。また、ダンジョンに一緒に行きたいですね。いつか、私もここに帰って……」
頬にやわらかい感触が伝わってくる。
そして、扉の開く音が聞こえ、その後部屋は沈黙に包まれた。
うす暗く、人通りもなくなった街。
一人の少女が歩いている。
頬に流した涙の後は何を語っているのだろうか。
孤児院に帰ってきたニコアはそのまま二階のバイスの部屋に行く。
――コンコン
「バイス、私よ。入るわね」
戸を開け、中に入るとベッドに座っているバイスの姿が目に入った。
そして、慌てた様子で布団の中に何かを隠したのを見つける。
何を隠したのか、おそらく本かおもちゃだろう。
隠れて遊んでいたに違いない。
ここで怒ることではないと思い、見なかったことにした。
「お、お姉ちゃん……」
バイスに向かってゆっくりと歩き始め、ベッドに腰を落とす。
「バイス、あのねよく聞いてほしいの」
「なに?」
私はバイスの頬に手を当て、目を見ながら話し始める。
「私がいなくなっても、孤児院のみんなと仲良くするのよ。あと、冒険者には絶対にならないこと。いいわね」
「どういう意味なの?」
「あなたはもう大人になるの。自分の事は自分で、もし困ったことがあったら司祭様やアクトさんに相談して」
「お姉ちゃん、意味がわからないよ」
困った顔で私を見てくるバイスは、まだ幼い。
一人残していくのは心配だけど、これは私自身の問題。
「ごめんね、お姉ちゃんは悪いことをしたの。悪いことをしたら、罰を受けて、償わないといけないのはバイスも知っているわよね?」
「お姉ちゃん悪いことしたの?」
「そう、謝っても許してもらえないくらい、とっても悪いことをしてきたの。ずっと……」
バイスの手が私の手と重なる。
「大丈夫だよ、謝れば許してもらえるよ」
私は首を横に振る。
「いいえ、これはお姉ちゃんの問題。バイス、決して道を誤らないで。お願いよ……」
バイスの頭をなで、私はベッドから立ち上がる。
バイス、元気でね。もう、病気の心配はないけど、体には気を付けるのよ。
バイスの部屋からでて、自分の部屋に行く。
この部屋ともしばらくお別れか。
父さんの剣もアクトさんに引き継いだ。
エレインさんはきっと大丈夫。
いつか、私が戻ってきたとき。
あの家に私が行けるようになったとき、またそっと抱きしめてほしい。
頬に流れる涙を感じる。もっと、みんなと一緒にいたかった。
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