第60話 紅の剣と呪いの魔剣 13


「ただいまー!」


 ニコアが玄関を開け、中に入っていく。

初めてここに来た時と比べれば、全く違う家に見えるだろう。


「お帰りなさいませ、準備できていますよ」


 俺は二階に案内され、自分の部屋と言われた部屋に入ってみる。

ベッドに机、書棚にクローゼットもある。

窓を開けると、自然のいい風が入ってきた。


「おぉ、いい景色じゃないか。ありがとう、セーラも大変だっただろ?」

「そうですね、少しだけ頑張りました」


 部屋を見回し、ベッドに腰かける。

シーツもパリッとしていて、寝心地がよさそう。

今から寝るのが楽しみだ。


「セーラさん! なんで私の部屋は隣じゃないんですか! 一番遠いじゃないですか!」


 リリアが何か騒いでいる。


「主様がゆっくりお休みになれるように、あえて一番遠くにしました」

「隣がいい! むしろ、同じ部屋でも!」


 リリアが部屋の事で文句を言っている。

しかも涙目で俺に何かを訴え始めるている。


「アクト様……」

「同じ部屋は無理だけど、好きな部屋でいいんじゃないか? まだ部屋は空いているんだろ?」


 リリアに笑顔が戻り、セーラは困った顔つきになる。

ま、そうなるよね。


「隣です。アクト様の隣部屋に!」

「はいはい、好きな部屋でいいよ」

「やったー! 荷物持ってきまーす」


 騒がしいのが出ていった。


「いいのですか?」

「ま、部屋位好きな部屋でいいんじゃないか?」

「主様がそういうのであれば」


 少し騒がしかったけど、引越しも終わり、みんなで集まる。

昨日足りなかった買い出しをみんなで市場に行き、それぞれ楽しみながら買い物をする。


 そうそう、これだよこれ。

休みっていえばこんな感じだよな!


 お昼を市場で済ませ、荷物片手に家に帰ってくる。

すっかり日が落ちかけてしまった。


「私は調理を始めますので、皆さんはごゆっくりと」

「私も手伝いますよ」

「でしたら、こちらをお願いできますか?」


 ニコアも調理に参戦し、家が少しにぎやかになる。


――コンコン


 ん? 誰か来たのか?

でも、こんな時間に誰だろう?


 扉を開けるとシャーリがカゴを持って立っている。


「シャーリ?」

「えっと、お母さんに話したら、これを持って行けって……」


 カゴには果物が所せましと詰め込まれている。


「ありがとう、良かったら夕飯一緒に食べていくか?」

「いいの?」

「もちろん。お客様第一号だ」


 シャーリもまざり、にぎやかさを増す。

少しだけ楽しくなってきた。


 テーブルに料理が並び始め、だんだんと豪華になっていく。

良さげなお酒もあるようで、ちょっと楽しみだ。


「そろそろいいかしら?」

「みんなを呼びますか」


 リリアやシャーリは二階の部屋を探索したり、庭に出て遊んでいたりしている。


「おーい、そろそろ始めるぞー!」

「「はーい」」


 遠くから声が聞こえてきた。

テーブルにみんながそろい、いよいよ始まる。


「今日からここが俺たちの帰る場所だ。シャーリやニコアも、もちろんいつでも来ていいぞ」


 みんな笑顔でグラスを手に持つ。


「アクト様、早く!」

「では、セーラとニコア、それにシャーリに感謝していただきますか!」

「「かんぱーい」」


 豪華な食事に、少しいいお酒、それに気の知れた仲間たち。

ここが、俺たちの帰る場所、俺たちの家になったんだ。


――


 孤児院でベッドに寝ているバイス。

一人ベッドに入り、その頬にはうっすらと流れた涙の跡が残っている。


『僕、強くなりたい。お姉ちゃんを守れるように。もう病気になるのも、お姉ちゃんを悲しませるもの、嫌だよ……。力が欲しい……』



 夜も更け、教会も孤児院も静寂に包まれてる。

教会の敷地内、一人の少年がフラフラ歩いているのが見える。

着の身着のままの姿で、何かに呼ばれるよにゆっくりと、どこかへ向かって。


 教会から少し離れた墓地を抜け、墓地の裏にある雑木林。

その雑木林には獣道があり、その先には小さな洞窟があった。


 扉は固く閉ざされ、教会の看板が立っている。

幾重にも重なっている鎖、そして鍵がかかった扉。


『何者もここに入ることを禁ずる』


 少年は扉の前で立ち、うつろな眼つきで手のひらを扉へ向ける。

ぼんやりと光る手のひら、そしてその光はゆっくりと鎖を包み込んでいく。


――カチャ


 次第に鎖がほどかれ宙に浮き、扉の鍵が開く。

そして、扉が開いた。


『待ったいたよ。やっと来てくれましたね……。かわいい、かわいい、私のお人形さん……』


 少年は一人、扉の奥に進んでいく。


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