第40話 黒き聖女と聖なる光 10


「はぁぁぁぁ!」


 ダンジョンに響き渡る声。


「やぁぁぁぁ!」


 リリアも叫びながらナイフを突き立てている。


 俺の目の前で二人の少女がナイフを振りまわり、そしてモンスターを殲滅している。


「ニコアさん、なかなかお強いですね!」

「リリアさんも、さっきから一撃で倒していますよ!」


 息の合った二人。

俺の入るスキが限りなく少なく、倒したモンスターの魔石を回収している。


「あ、アクト様!」


 どうやら一匹打ち漏らしたらしい。

二人の間をすり抜け、俺の目の前にモンスターがやってきた。


 飛び掛かってきたラットを素早くよけ、ホルダーからナイフを取り出し、素早くラットの急所に突き刺す。

息絶えたラットはすぐに魔石となり、俺のもつ袋に落ちていった。


「アクトさんも結構お強いんですね」

「あー、そんなに強くないよ。リリアに特訓してもらって、やっとこんな感じだ」


 何回かモンスターの溜まり場に足を入れてしまったが、三人いれば何とかなる。

こないだのように二人でギリギリではなく、結構余裕のある戦いができた。


「少し休もうか」


 俺たちはダンジョンのスポットに移動し、休憩する。

ここは見晴らしもよく、明るい。

モンスターが近寄ってきた場合、すぐにわかるので休憩ポイントとして重宝されている。


「ほら、ニコアも食べよう。今朝、パンをもらってきたんだ」

「いいのですか?」

「もちろん。リリアも分もあるぞ」


 地面に布を広げ、パンと果物をバッグから取り出す。

俺とリリアは水袋を取り出したが、ニコアはコップだけしか出していない。


「ん? 水、持ってきていないのか?」

「いえ、水は魔法で出していたので。一人だと、水は重いし動きにくくなるので、魔法が使えるようになってからは持ってきていないのです」


 それは便利だな。

でも、魔力がなくなったら水出ないんだよね?

それを考えたら、水袋も穴が開いたらなくなるし、どっちもどっちか。


 ニコアは目を閉じ、何かぶつぶつ言っている。

そして、手の指先からゆっくりと水が流れ始めた。

その水は透明でやや光りながら、コップに注がれていく。


「どうですか? 魔法もなかなか便利でしょ?」

「だな、ちょっと味見してもいいか?」

「どうぞ」


 差し出されたコップの水を一口飲んでみる。

少しだけ冷たく、味も普通だ。


「いかがですか?」

「思ったよりも冷えていてびっくりした。普通に飲めるんだな」

「はい。お鍋に水を入れてスープを作ったり、こうして布に水をつけて、体を拭いたりもできますよ」

「ニコアさん、すごいですね! 魔法便利!」


 リリアはキラキラした目でニコアを見ている。

今朝がた見せた人を疑うような目とは似ても似つかない。

いったいどっちがリリアの本性なんだ?


「ありがとう。コップ返すね」


 俺がニコアにコップを返そうとした瞬間、リリアがコップを奪った。


「私も味見を!」


 一気に飲み干した。

しかもその部分、俺が口付けてないか?


「ふぅー、なかなかおいしいですね! ありがとうございました!」


 空っぽのコップが、ニコアに返却された。


「い、いえ。どういたしまして……」


 再びコップに水を灌ぐニコア。

すまん、リリアが全部飲んだから。


「水を出す魔法って大変なのか?」

「そこまで大変ではないですよ。魔力は自然回復しますし、膨大な量を出さなければ大丈夫です」

「そっか。あまり無理はしないように頼むな」

「はい、お気遣いありがとうございます。それに、今日はこのリングもあるので大丈夫ですよ」


 ニコアがつけている指輪。

確かにちょっとだけ気になっていた。


「あ、そうそう。ニコアさんのそのリング、かわいいですよね! 何か特別なリングなんですか?」


 リリアが食いついてきた。


「母の形見なんです。孤児院で院長をしていたのですが、数年前に……」

「そ、そうだったんですか。ごめんなさい、変なことを聞いて」

「いえ、大丈夫ですよ。それに形見とはいっても、立派な魔道具なんです。これ、秘密ですよ」

「魔道具なんですか?」


 ニコアはリングを外し、俺達に見せてくれた。


「ほら、内側に刻印があるでしょ? それに、この小さな宝石は魔石なんです」

「ほぅ。ちなみにどんな魔道具なんだ?」


 よく見ると、リングの内側に細かい模様が描かれている。

ただの装飾に見えるけど、実はただの装飾ではないらしい。


「これは回復系統の魔法が使えます。私の場合は『ライトヒール』と『ライトキュア』が精いっぱいですけど」

「すごいな! 回復できるんだ!」

「普段は持ち出さないのですが、今日は初めてのパーティーでしたので、母に力を借りようと思いまして。普段は大切にしまってあります」


 そんな大切なリングを持ち出して、もしダンジョンでなくしたら大変なことになるじゃないか。


「なくさないようにしないとな」

「はい。もし怪我をしたら言ってくださいね。簡単な傷であれば治せますから」


 短い時間だが休憩を終え、再びダンジョンを進む。

三人だと効率もよく、出てくるモンスターもしっかりと倒すことができた。

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