第27話 魔剣退治と不気味な一軒家 11


 カウンターで待っていると調理場からいい匂いがしていた。

よかった、何とかなったようだ。


「アクト様、お待たせしました!」


 トレイに乗せた何かを運んで切るリリア。

その後ろからシャーリの姿も見えた。


 俺はシャーリに視線を向けると、なぜかシャーリは俺からの視線を外す。

なんだ、その仕草は?


「さぁ、どうぞ!」


 目の前に置かれたスープっぽい何か。

野菜やイモ、肉、緑色の何かが浮かんでいるが、それよりもなぜどす黒いスープなんだ?

何をどうしたらこんな色になる?


「こっちは私の作った方ね」


 少しどや顔で提供された一品。

サラダと野菜の炒め物、それに大きな分厚い肉がデーンと乗っかっている。

そして、スライスされたパン。これは、見た感じとてもおいしそうだ。


 が、その隣にある黒いスープ。

これ、食べても平気なのか?


「ささ、アクト様。どうぞ!」


 俺の隣に座ったリリアは、黒いスープをスプーンですくい、俺の口元に。

少しだけ、リリアの目が座っている。


「お、おいしそうだね……」


 ゆっくりと目をシャーリに向け助けを求めるが、さっきと同じように俺の方を見てくれない。

いいだろう、俺も男だ。覚悟を決める。

きらきら光っているリリアの眼差し。

俺は、この期待に、応える!


「いただきます!」


 リリアの手から、一口スープをいただく。

口の中から、鼻の奥に若干広がる生臭い香り。

そして、おそらく肉だったと思われるものも、なんだかグニョグニョしており、噛んでも味がしない。

放り込まれたお野菜は、まるで生。おかしい、これってスープですよね?


 少し涙目になりながら一気に飲みこむ。


「リリアって、料理した事あるの?」


 笑顔でリリアは首を横に振る。


「まさか、したことないですよ! 食べる専門ですから! そうですか? 漆黒のスープのお味は?」

「ま、まぁまぁかな……。よし、次はシャーリの方も」


 パンに切った肉を乗せ、野菜も盛る。

一口噛むと、肉汁がパンにしみこみ、いい感じのやわらかさに。

そして、その肉汁も乗せたお野菜の味を引き立てている。


「シャーリ」

「なによ?」

「いい奥さんになれるよ!」


 頬を赤くしながらシャーリはびっくりした顔つきになる。


「な、なにを! なんでこんなところで、そんなことを!」

「これ、最高にうまいよ」


 隣にいたリリアが少し機嫌を悪そうにしている。

ちょっとだけ視線が痛い。


「アクト様? 私のスープっておいしくなかったですか?」

「よし、リリアも食べてみるか?」

「そうですね、味見とかしませんでしたし」

「え? 味見してないのか?」

「はい! 初めての料理は、アクト様に食べてもらいたくて……」


 もじもじしながらリリアは答える。

味見、しようね……。


「そ、そうか……。ほら、あーん」


 リリアは目を閉じ、大きく口を開ける。

そして、リリア作。漆黒のスープをその口に放り込んだ。


「んー、これはこれで、なかなか……」


 次第に顔つきが変わってくる。

急に顔色が悪くなって、手元にあった俺のパンを食べ始めた。


「も、申し訳ありません! これは、すごいですね!」

「シャーリに手伝ってもらわなかったのか?」

「私の初めては、自分の力でアクト様に……」

「うん、その気持ちは嬉しいよ。次は料理を教わろうな」

「そ、そうします……」


 どれ、セーラは満足したのかな?

ちょっと様子を見てこよう。


「ほら、リリアもお腹がすいているだろ? シャーリの作った食事を食べて待っててくれ」

「はい! もうペコペコですよ。いただきます!」


 リリアはシャーリの用意してくれた俺と同じ食事をとり始める。

その間に俺は、調理場に行きセーラを手に取って話しかけた。


「どう? 満足――」

「やり直しです! 初めからやり直しです!」


 ですよねー。


「よし、だったら俺が軽く作ってみるか!」


 セーラを握り、残った食材で軽く調理。

漆黒のスープの代わりに、余ったもので適当にスープでも作るか。


 調理場に残ったあまりもので適当に作り始める。

野菜を切って、お鍋に入れて。

お肉は残っているかしら?


「ふんふんふんふーん」


 思わず鼻歌を歌ってしまう。


「楽しそうですね」

「まぁね。じーちゃんと二人で住んでいたころは、よく作っていたしね。ちょっと昔を思い出していたよ」

「昔、ですか……」


 調理場に響く包丁の音。

セーラはふと、昔を思い出していた……。

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