第26話 魔剣退治と不気味な一軒家 10


 日が落ち、宿屋の夕飯ピーク時間もすぎた。

買ってきた食材は、宿屋の保管庫に一時的に入れてもらい、俺たちは準備を始める。


「調理長には許可を取ってあります。調理場が空いたら、これに着替えて料理を始めましょう」


 渡された服に着替え、準備を始める。

俺は七分袖のシャツにズボン、そして腰にエプロンをつけている。

リリアとシャーリはワンピースの服に、真っ白なエプロンをつけ、ちょっとだけかわいく見える。


「リリアさん、何気にエプロンが似合いますね」

「ふふ、シャーリさんもお似合いですよ」


 なんだか二人が仲良くなっている。


「では、アクト様は洗い物をしておいてください」

「はい?」


 さっきまで食堂でお客さんが使っていたと思われる食器の山が目の前にある。


「料理は私たちが、アクトさんはお片付けです!」


 俺は料理できないのか……。

ま、そこまでうまくないし、べつにいいか。


「リリア、これを使ってくれ」


 キラリンと光る包丁。

セーラをリリアにわたし、調理をしてもらう。


「ふふん。まかせて下さい! いきますよ!」


 リリアとシャーリが並んで何かを作り始める。

そしてリリアの包丁さばきが炸裂!


「うぉりゃぁぁぁぁ!」


 イモは皮をむかないでそのままざっくり切り。

他の野菜も洗わないで、そのまま切る切る切る。

そして、何を考えたのか、そのまま水の入ったな鍋にぶち込み、火にかけた。


 おそらく野菜に火は通っていないだろう。

なのになぜかぶった切りになった肉も入れ始める。


「あ、あのリリアさん?」


 さすがのシャーリさんも目が点になっている。

動きは素晴らしい、切り方はまぁ、それなり。


「ふふふ! 私はナイフですよ! 切らせたら一流! ほら見てください、この切り方を!」


 何か方向が間違っている。

皿を洗いながら、俺は冷や汗を流しはじめた。


 あれを、俺はあれを食べなければならいのか?

そうだ、セーラは? セーラはどうした!


「リ、リリア。少し疲れただろ? ちょっと休まないか?」

「そうですか? アクト様がそういうのであれば、ちょっと休みましょうか……」


 ご機嫌な様子で調理場から出ていき、カウンター席で休み始めた。

リリアがいない間に……。


「シャーリ、率直なご意見を」


 シャーリは目を閉じ、何か考えている。


「えっと、言いにくいのだけど……」

「わかった。やっぱりそうだよな。どうしよう……」


 シャーリと俺の考えは一致。

この煮た食べ物っぽいものは危険だ。


「シャーリ、リリアに何を作っているのか聞いてきてくれないか? それがわかれば、何とかこれからフォローできそうな気がする」

「わ、わかったわ! ちょっと待ってて!」


 慌ててリリアのところに走っていくシャーリ。

頼んだぞ、シャーリだけが頼りだ!


「ところで、セーラさん?」


 声をかけても返事がない。

握った包丁を振り回してみる。


「おーい、セーラさーん」

「……どうして、どうしてなんですか! あの調理方法! おかしいじゃないですか! どうしたらあんなことに!」


 大変ご立腹です。


「えっと、いろいろとすまん。少しは満足できたか?」

「満足? あの調理方法で満足ですか! できるはずないじゃないですか! 何とかしてくださいよ! 願いを叶えてくれるって、言っていましたよね!」


 なんだか責められる。

俺のせいじゃないのに……。


「わかった、何とかしよう。俺も後で何か作るよ。そんなにうまくはないけどさ。だから、リリアの事よろしくな」

「……。約束ですよ、絶対に後で作ってくださいね!」


 セーラと約束し、その後二人は戻ってきた。


「アクト様、続きをしますよ! アクト様はカウンターでお待ちください!」

「シャ、シャーリ?」


 リリアの後ろからシャーリがサムズアップ。

その顔には笑みが浮かんでいる。

よし、いい方向に話が進みそうだ!


「わかった、期待して待っているよ」

「はい! 期待してお待ちください! シャーリさん、頑張りましょう!」

「え、えぇ……。おいしくできるといいです、ね」


 二人を残し、調理場を後にする。

念のため、薬を部屋から持ってきた方がいいかな?


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