第20話 魔剣退治と不気味な一軒家 4


「あわわわわわ、ど、どうしましょう!」

「や、やるしかないだろ! 行くぞ!」


 俺はナイフを手に持ち、一気に距離を詰め、向かってきた光る物体を切りつける。


「おりゃぁぁぁぁぁ!」


 が、すり抜けた。


「え?」

「わ、私も! それっ!」


 リリアも手に持ったナイフで切りつけたが、触れることなくそのまますり抜けてしまった。


「こ、これはどういうことでしょうか?」

「実態が、ないのか?」


 手でさわっても、触れることができない。

しかし、消えることもなく、ただフヨフヨ浮かんでいるだけだ。


「アクト様、どうしましょうか?」

「うーん、慣れてしまえば怖くはないけど、見ているだけでは何の解決にもならんな」


 まじまじ見つめてみるが、襲われる気配はない。

これでは確かに攻撃できないし、魔法も効かなさそうだ。

だって、実体がないんだもの。


「しばらく、観察するか」

「そうしますか?」


 浮かんでいる魔剣ぽいものを見ながら、持ってきた串焼きとパンを食べる。

ぼんやりと光る浮かんでいるもののおかげで少し部屋が明るい。


「うーん、これって魔剣なのか?」

「確かに剣のようにも見えますが、なんでしょうね、これ」


 しばらく時間が経過したが、一向に何も起こらない。

だんだん眠くなってきてしまった。


「アクト様、眠くないですか?」

「ん? リリアは眠いのか? 少し寝ていてもいいぞ?」

「わかりました。では、おやすみなさい」


 あっさりとリリアは寝に入る。

リリアの頭はアクトの膝の上。

なんとも幸せそうな顔で寝に入っている。


『――デスネ。シア――デスカ?』


「リリア?」


 すでに寝てしまったようで、リリアの返事はない?

どういうことだ?


『シアワセソウデスネ。カワイイ、ネガオ……』


 なんだか不思議な声だ。

優しい声、でも温かさを感じる声。


「誰だ?」


 部屋に響く俺の声。

だが、返事はない。


『――コエガ、トドク?』

「誰だ? どこにいる?」

『アナタノ、メノマエニ』


 俺は目の前で浮かんでいる剣に視線を移す。


「お前か?」

『声が、届く。長かった、やっと、やっと……。私の声が届く人にやっと出会えました』


 何やらずいぶん長い間待ったようだ。


「俺を待っていた? なぜ?」

『私の声は誰にも届かない。今まで多くの人がやってきたが、誰も聞いてはくれなかった』

「そっか、俺でよかったら、お前の話聞こうか?」

『ありがとう、優しい人。お名前は?』

「アクト」

『アクト……。私の名前は――』


 名前がうまく聞き取れなかった。

なんでだ? ほかの言葉はちゃんと聞こえるのに。


「そっか。よろしくな。で、俺は何を聞けばいい?」

『私を助けて。もう、時間がないのです。こちらへ、私についてきて……』


 膝の上に頭を乗せているリリアをお姫様抱っこし、光っている剣の後へついていく。

剣は壁をそのまますり抜け、一階の方へ飛んで行ってしまった。


 俺は見失わないように、少し急いで追いかける。

そして行きついたのは台所。


「着いたぞ」

『この、引き出しの中を……』


 うーん。寝かせたままだと少し動きにくいな。

起こしてしまうか。

俺はリリアを立たせ、眠りから覚ます。


「リリア、起きてくれ」

「んにゅー。まだ、眠いです……」


 ナイフなのに眠い。今までも睡眠とかとっていたのだろうか。

そのあたりについてはまた今度聞いてみよう。


「リリア、寝ぼけてないでこれを見てくれ」


 少し寝ぼけているリリア。

次第に目を開け、覚醒していく。


「おはようございます。少し眠れました」

「それはよかった。もう立てるな」

「はい、大丈夫です。って、ここは?」

「一階の台所。そこで待っててくれ」


 俺はさっき言われた場所の引き出しを開け、中を確認する。

中には錆びた包丁が一本だけ入っており、ほかは何もない。


「錆びた包丁しかないぞ?」

『その包丁が、私です……』

「この包丁が!」


 手に取って、まじまじと見てみるが、ただの包丁にしか見えない。


「アクト様? 独り言ですか?」

「リリアには聞こえないのか?」

「……全く。もしかして、その手に持っているのは――」

「あぁ。包丁だけど、もしかしたらリリアと同じかもしれない」


 淡く光る魔剣の正体は包丁。

ぼんやりと光っていたからナイフや剣に見えたのかもしれない。

それに実体がないのでどうしようもない。


 だがしかし、もしかしたらなんとかできるかも。

リリアと同じようにすれば、もしかしたら解決できるかもしれない!


「リリア、さっきの日記持ってきてくれ!」

「一人では嫌です! アクト様も一緒に!」


 結局二人でさっきの部屋まで戻った。

いや、包丁もあるから三人なのか?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る