第19話 魔剣退治と不気味な一軒家 3


 リリアと窓際で日記を流し読みしてみる。

どうやらこの家には普通の家族が住んでいたらしい。


 旦那さんは冒険者、そして奥さんが毎日食事を作っていたそうだ。

おいしくご飯を食べてくれる旦那さんと、お掃除や家事をこなしながら旦那さんの帰りを待つ奥さん。そして、生まれた子供。


 長年使い込んだ台所に調理器具。

子供も成長し家族団らんの毎日。それが幸せだと書かれている。


「なんだか幸せそうな家族だな」

「そうですね。お父さんとお母さんと、子供たち。でも、なんでこの家は荒れたんでしょうか?」


 もし、そのまま誰かが残ればこんな荒れた家にはならないはず。

何かあったのだろうか? ページを飛ばし、後ろの方を読んでみた。


 そこには日記の持ち主が病気になり、直すには大金がいること。

お金の為に旦那さんがダンジョンで無理をしていること。

子供たちも、必死にお金をためていること。


 そして最後に家族で食事をしたこと。

日記の持ち主の奥さんが、この家で最後に調理をして、旦那さんと子供たちに好物を作ったこと。


 最後のページには、みんなで食事ができてよかった。

みんなでおいしいご飯を食べることができてよかった。

また、みんなでテーブルを囲んでもっと、ずっとご飯を食べた――。


 そこで文字が消えてしまっている。


「……このままそっと、しまっておこうか」


 少し涙を流しているリリア。

何を感じたのだろうか。ふと、自分も涙を流していることに気が付く。


「ア、アクト様ぁー」

「な、泣くなよ!」

「アクト様だって、泣いているじゃないですかぁー、ぐすっ……」


 ポケットから出したハンカチでリリアの涙をぬぐう。


「ありがとうございます」


 そして、そのままハンカチは持たせ、リリアの顔を見る。

リリアの背後に何かを感じ、少しだけ視線をずらした。


 な、何かいる!


 リリアの後方、うっすらと何か浮かんでいる。

見間違い? いや、見間違いではない! な、なんだあれは?


「リ、リ、リリア」


 俺は少し口をパクパクさせながらリリアの後方を眺める。


「ぷっ、なんですかアクト様。魚の真似ですか?」

「ち、ちがうよ。リリアのうしろ、うしろ」

「その手には乗りませんよ?」


 リリアが振り返る。

が、ぼやっと光っている何かは、ちょうどリリアの死角になるように移動してしまった。


「ほら、アクト様。やっぱり何もないじゃないですか。まったくもう。二度目は引っかかりませんよ?」


 少し笑顔で話しているリリア。

いや、何かいるんだって。リリアの真後ろにさ。


「いや、リリア。こっちの後ろにさ――」


 俺の指さす方に振り返るリリア。


「何もいないですよ?」


 常にリリアの死角へ移動する光る物体。

なんだかイライラしてきた。

俺は何も言わず、リリアの肩を抱き引き寄せる。


「――あっ」


 少しリリアの顔に赤みが。


「ア、アクト様……」

「目を、閉じて」

「は、はい……」


 目を閉じ、なぜか少しだけ顎を上げている。

俺はリリアの肩を握り、反対方向に体を向けた。


「そのまま、目を開けてみて」


 リリアの視界にぼやっと光る何かが入ってくる。


「あら、アクト様。これは? アクト様の魔法とかですか?」

「いや、俺は何もしていないぞ。そもそも魔法使えないし……」

「ということは?」

「多分あれだ。例のあれだよ」


 二人で硬直し、しばらくそのまま光る物体を眺める。

ゆっくりと光が収束し、次第にナイフのような、剣のような形になった。


「ア、アクト様……」


 リリアが一歩、二歩後退し俺の体にぴったりとくっついた。

俺もリリアが体にくっついてから一歩、二歩と後退し窓際に追い詰められる。

そして奴は切っ先を俺たちに向け、ゆっくりと近づいてきた。

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