第11話 二人の生活と特訓 3


 リリアの手をとり、昨日お世話になった武器屋に行ってみる。

何か、今の俺達に買えるものはないかな?


「いらっしゃい、って昨日の坊主か」

「こんにちは。あのー、何か安いのでいいのでナイフと、この子に合う服ありますか?」


 じーっとリリアを見つめるおっちゃん。


「ナイフはともかく、お嬢ちゃんに合う服はないな。この先の服屋に行ってみてくれ。ここは鎧が主な取扱品だ」


 リリアの服は一度後にして、ナイフを見せてもらう。

ん? このナイフは……。


「このナイフは?」

「あぁ、さっき持ち込まれて買い取った。まぁ、年季の入ったただのナイフだ。安くするぜ?」


 見覚えのあるナイフ。

あの冒険者が持ち去ったナイフ。

それでも俺がずっと使ってきたナイフに間違いはない。


「値段は?」

「千でいい。いるか?」


 自分のナイフを自分で買う。

なんだか納得はできないけど、しょうがないんだよな。


「リリア、このナイフでいいかな?」


 無言でうなずくリリア。

これでリリアとなんとか練習できそうだ。


 武器屋を後に服屋に行ってみる。

安い服も高級な服も一通り取り扱っている。


「すいません、俺に適当な服を。あと、この子に似合う服を一式お願いします」

「かしこまりました。用途は?」

「俺は冒険者用で。この子には冒険者用と普段着を一式全部」


 何点かお店の人が選んでくれた服をリリアが着てみる。

可愛い服もあれば普段は着ないようなすごい服まで出された。


「リリア、どう?」


 試着室からリリアが顔をのぞかせた。


「これが、いいです」


 黒をベースにしたワンピースっぽい服。

見た感じ動きやすそうだし、何よりリリアに似合っている。


「じゃ、それにしようか」


 会計を済ませ、大荷物になった。

急いで宿に帰る。


「アクトさん!」


 受付の子に声をかけられた。


「ただいま戻りました」

「そちらの方は?」


 あ、まずい。

いきなり二人で帰ってきたらおかしいよね?


「えっと、パーティーメンバーです」

「申し訳ないのですが、空き部屋ないですよ?」


 おっと、どうしよう。


「私は一緒の部屋でもいいですが」


 真顔でリリアが答える。


「え? 一緒の部屋? ベッドは一つしか……」

「はい、それが何か?」


 顔をほてらせ、受付の子が黙ってしまった。


「アクトさん、料金は上乗せしておきます! 空いたらお部屋移動してくださいね!」


 少し怒り気味だけど、なんとかなった。

荷物を部屋に運び、一休み。長い一日だった。


「お疲れ様。ここが俺の拠点にしている宿だよ。リリアも疲れただろ?」

「はい、流石に疲れました。その、ありがとうございます」

「ん?」

「服、たくさん買ってもらってしまって」

「あぁ、そんなこと? 別に気に似ないでくれ。それよりも、湯汲に行って来たら?」

「湯汲?」

「体を拭いたり、髪を洗ったり。一階の奥に共同の湯汲場がある。ほら、タオルと桶貸すからさ」


 ナイフといってもさすがに一緒に入ることはできない。

俺は男でリリアは女の子だ。


「一緒に行かないのですか?」

「いけるか! その、リリアは女の子だろ?」

「見た目はそうですが……。ナイフだった頃は男性の湯汲場に何度も入っていますので、気にしませんよ?」


 ……。それは、見た目がナイフだったからでしょ?


「いいから、一人で行ってくれ」


 リリアの手に桶と着替えを乗せ、部屋の外に追い出す。

まったく、こっちの気も考えてほしいものだ。


 部屋でしばらく一人考える。

リリアを初めて手にした時の事。

聞こえた声、そして少女の姿になった事。

どうやったら元のナイフに戻るのか。

どうやったら人の姿になるのか。


 わからないことが多すぎる。

左腕の傷に薬をつけながら考える。


 リリアとナイフの特訓をして、強くなる。

そしてもっと強くなってダンジョンを攻略していく。

強く、強くなりたい。


 リリアの目の前で死なないように。

リリアに悲しい思いをさせないためにも……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る