5-2 世界の真相
「へ?」
「あ?」
理解できないとばかりに、エルフとドワーフのコンビが呆けた声を上げる。
コーヤも同じ気分だった。だが、このまま相手の正体を不明のままにしておくわけにはいかず、反対側から口を挟む。
「馬鹿言うなよ。電素はあくまで情報の源だ。電理機みたいな処理装置なしで、現実に干渉できるかよ」
「ソウだ。『現実』にはナ」
死神は軽くステップを踏み、仕切りなおすように間合いを開けた。そして、改めて赤い瞳を電導士と掃除屋の双方に向ける。
「ココは、お前たちが現実と認識しているこのセカイハ、月の核を元に建造された超巨大電素処理装置、『
「?」
突飛すぎる内容にコーヤは困惑を覚えた。エルフの男も似たような表情を見せる。
「あれかい? 世界は実は滅亡してて、全ては電理機が見せる幻でしたっていうのかい。そんな三流映画みたいなオチ……」
「ダガ事実ダ」
茶化すような問いかけは言下に断ち切られた。
死神はどこまでも冷淡に、無情に一同へ告げる。
「
「……」
「本来、
もはや誰も言葉が出ない。ただ黙って聞くしかなかった。
「ダガ
死神は語る。
当時、ありとあらゆる手段を用いて地上との交信が試みられるも、ことごとくが失敗に終わり、最終的に地上の文明は滅んだと結論せざるを得なかったと。
そして、資源の限られた月でもいずれは全てが行き詰まる。
「……事態打開ノタメニ、月ノ人類は最後の手段を選ンダ。スナワチ、データ上での文明再興。情報世界ナラバ、電力を供給さえすれば維持デキル」
それが、月の内側に築かれたこの世界『電界』。
そして死神とは――。
「
「エレカンジェル……」
ほとんど無意識に、コーヤはその名を口にした。
にわかには信じられない。
だが、本当に知りたいのは相手の正体でなく目的だ。
その真意を問いただすべく、慎重に言葉を選ぶ。
「その話が本当だとして……どうしてあんたはアムを狙う? そりゃ研究所がやってたことは違法だけど、世界の管理者が介入するようなことか?」
「先ニモ言った通り、
「……ああ」
コーヤとしては、人を徹底してデータ扱いする相手の態度を受け入れられない。だが、まだ肝心なところが聞けていない。機械相手に文句を言っても仕方がないと割り切り、続きに耳を傾けた。
「ムロン、そのようなケースは極めて例外的ダ。ダガ宇宙レベルで検討するならバ、月ガ天体衝突のような
「……」
「オソラク、全てを保存し続けるのは不可能ダ。ナラバ、
真実を知る資格があるかどうか、試すような問い。
電導士の少年は、はここまでの話の流れを振り返りながら慎重に答えた。
「人……っていうか、ヒトのデータ?」
「ソウダ。ダガ破滅の時、全人類の情報を保存できるだけの機能と容量ガ
世界は有限だ。
それが
だから新時代の文明は、資源を浪費しない循環型社会を築き上げた。
それは同時に、来るべき破滅への備えだという。
「現在ノ人口水準を保てば、
「サモナケレバ、
「そういう理屈かよ……」
コーヤは暗澹たる気分で理解した。
確かに、人と区別のつかない機械が大量生産されでもしたら、新たな人口爆発が起きるだろう。そしてオートンである以上は電力を消費し、けれどもヒトである以上は生きる権利がある、ということはつまり――。
(アムやエミリアさんのような存在を認めると、いざという時に全人類情報を保護できない、どころか二度目の
この世界を守るため、という観点からすると、
「あんたの言い分は分かったよ。けどな、いつ起きるか分からない事態のためにアムが殺されるなんてこと、見過ごすわけにいかない」
コーヤは決然と言い放った。
「そりゃ人の数が無限に増え続けるのは問題だろうさ。けどアムは、アムという存在は、世界にたった一つだけなんだ。他の制御用人格は凍結されてるし、
「当然ノ反応ダ」
小さく息を吐いたような声。コーヤにはそれが、妙に人間くさい仕草に見えた。しかしそれも、気のせいかと思うほど一瞬のこと。世界の管理者は大鎌を構え直し、冷徹な声音で告げる。
「だが元ヨリ、これは機械的な判断ダ。ヒトの意思は尊重すルガ、感情まで優先することはでキナイ」
「……ああそうかい。なら白黒はっきりつけようぜ」
異形の鬼も構えを取る。コーヤはありったけの熱を込めて叫んだ。
「どっちが正しいとかじゃなく、最後まで自分の意志を貫けるのは誰なのかをな!」
―――――――――――――――――――――――――――――
「なんか……
再び繰り広げられる激闘を前に相棒が問いかけてくる。かつてないほど困惑に満ちたその声に対して、アリスは簡潔に答えた。
「決まってる」
電導士の少年に仕事を妨害されて以降、状況は悪くなる一方だ。最初のうちこそ
だが、二人の間で交わされる会話は軽く聞き流せる内容ではなかった。
今回の仕事の依頼主、すなわち
だからこちらは対抗策として、
そう方針を立てたところに
奴は機密どころか、これ以上ないぐらいの極秘情報を教えてくれやがった。
知る必要のない、知らない方がいい
こうなると、やるべきことはシンプルだ。
「ずらかるよ。この仕事はもう、金にならない」
相棒を促し、その場を立ち去ろうとする。
その時。
「待て」
アリスの足首を、冷たい感触が捕らえた。
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